「The Turin Horse」
このあいだ、タル・ベーラ監督の「サタンタンゴ」について書いたが、同監督のもうひとつの映画「ニーチェの馬」も 2012 年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した名作だ。そして両方とも原作が、今年のノーベル文学賞を受賞したクラスナホルカイ・ラースローの小説による。
映画は、荒野の中の一軒家に住む父と娘の二人だけしか登場しない。二人の6日間の生活を淡々と撮っているだけ。毎日、空はどんより曇り、吹き荒れる猛吹雪で、土ほこりが舞い上がる、という陰鬱な情景に終始する。会話はまったくなく、常に強風の吹き荒れる音だけが聞こえている。
そしてついに油がなくなり、ランプが消えてしまう。光のない暗闇のままで映画は終わる・・
この映画の邦題は「ニーチェの馬」だが、原題は「The Turin Horse」つまり「トリノの馬」だ。ニーチェがトリノの街を歩いていた時、馬が虐待されているのを見て、涙を流してそのまま発狂してしまったという史実に由来している。ニーチェは、現代の人間は生きていく目的を持てず、苦しみだけが降りかかり、神の救いもないという虚無の哲学(ニヒリズム)を唱えた。
この映画でも、馬がたびたび出てくるが、それによって二ーチェの思想を暗示させているようだ。なんのために生きているのか目的を持てないまま、ただ生きているだけの二人に苦しみだけが降りかかる。そして絶望のまま最後まで救いはない。
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