2025年11月29日土曜日

「北は山、南は湖、西は道、東は山」

 Krasznahorkai László 

前々回書いたが、今年のノーベル文学賞を受賞したハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースローはタル・ベーラ監督の映画「サタンタンゴ」や「ニーチェの馬」の原作者だ。この人は京都に半年間滞在したことがあり、建築や庭園などを中心に日本の文化と歴史を深く研究した。その時の経験をもとにして書いた小説「北は山、南は湖、西は道、東は山」がいま話題になっている。

この長い題名は京都の街を指している。作者の作品で邦訳されているのはこれ一冊なので、読みたいと思ったが、すでに絶版になっていて、値段が6万円のプレミア価格がついている。あきらめて図書館で借りようと思ったら、貸し出し予約者がすでに 260 人もいる順番待ちで、これでは順番が来るのは1年先になってしまう。

それでとりあえず、この小説の翻訳者が書評を書いているのを読んでみた。それによるとこんな感じらしい。

・・「源氏の孫君」なる人物が千年の時空を超えて京阪電車に乗って京都の街に現れる。「完璧な美を体現した庭園」を探して亡霊のように京都を彷徨するが、そんな庭園は決して見つかることはない。どこも不吉な破壊の痕跡が残されている。そこには自然や文化を破壊する人間の姿が見え隠れしている。・・

これを読むと「サタンタンゴ」や「ニーチェの馬」に共通する、作者の終末論思想がこの小説にも現れているように感じる。終末論とは、神の怒りによって大惨事が起きて、人間は絶滅し、この世は終わるという思想だが、現代における大惨事とは、核戦争や、パンデミックや、環境破壊や、気候変動などがそれに当たると解釈されている。この小説は、京都の自然や文化が近代化によって破壊されていることを題材にした終末論的な作品のようだ。


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