2019年1月31日木曜日

Mさんの水彩画

Watercolor painting by Mr. M

日本水彩画会会員の Mさん(学校の同級生でもある)の水彩画はいつも新しいことを試みているので、刺激を受ける。この日本水彩展での受賞作もよかった。魚眼レンズ的な広角の構図が面白い。マチエールも水彩でここまで表現できるのかと感心する。水彩にありがちな「味」などに頼らず、意図がはっきりしている。







2019年1月29日火曜日

サーンレダムの加速遠近法

Saenredam

サーンレダムはフェルメールと同じ時代の同じオランダの画家で、「建築画」のジャンルを始めた人だった。教会建築の内部を専門に描いたが、遠近法をとことん研究した。

ある作品の制作過程。(図上)現場スケッチ。(図中)油彩画のための下絵。(図下)油彩画。

現場スケッチと最終作との遠近法の違いを見ると面白い。天井の5本の梁に注目するとその違いがはっきり分かる。現場スケッチでは梁の間隔が詰まっているのに比べて、油彩画では間隔を広げている。その結果、手前の梁は真下に近い所から見上げているように見え、奥の梁はずっと遠くにあるように見える。それが天井の高さと部屋の奥行きを実際以上に大きく感じさせ、この教会を壮大なものに見せている。このような、手前から向こうへビュンと加速するように遠近感を強調する遠近法は「加速遠近法」と呼ばれる。

物を見た通りに描く方法だった遠近法を、いわば本当らしい嘘をつく方法として使った画期的な人だった。
(図は、岡田季未子著「十七世紀の光 オランダ建築画の巨匠サーンレダム」の図を編集した)

2019年1月27日日曜日

「パワーシャベル」最終

"Hydraulic Shovel"  Soft pastel,  98cm × 80cm

モチーフの重量感をパステルで出すのは難しい。パステル特有の軽い感じになってしまう。それを補うやり方を試してきた中で、これがいいと思っている。
(ソフトパステル、 F 40 号)
下地:モデリング・ペースト    下地色:赤ジェッソ    エスキースの拡大
 明暗トーン:アクリル(白/黒)
着彩:ソフトパステル

2019年1月25日金曜日

ハンマースホイ






「ハンマースホイ」展が始まったので観に行こうと思ったが、もう一度チラシをよく見たら、来年の1月からだった。10 年くらい前に来たときの印象が鮮烈だったので、気がはやったようだ。室内画専門なので北欧のフェルメールと呼ばれているが、フェルメールの主題が人間なのに対して、ハンマースホイは人間のいない室内空間そのものを描いている。たまに人間がいても後ろ姿で、室内はしんと静まりかえっている。


2019年1月23日水曜日

ブレグジットのもうひとつの問題

Brexit

破壊された家の前で少女がぼうぜんと立っている。わきには兵士が銃を構えている。報道写真的だが、イギリス人画家ケン・ハワードの絵で、1970 年代に起きた「北アイルランド紛争」の場面を描いている。


北アイルランドの帰属をめぐるアイルランドとイギリスの紛争だが、アイルランドの過激派組織 IRA が爆弾テロや銃撃戦を繰り返して、たくさんの死者が出た。(落書きが絵では「TRA」だが実際は「IRA」のはず。)この絵のような事件がしょっちゅう報道されていたのを思い出す。

その後和平が成立して人の行き来は自由になったが、今でも分断の壁は残っていて、潜在的な対立が続いているという。イギリスが EU から離脱すると、EU に残るアイルランドとの国境に検問所や税関ができ、分断がもっと厳しいものになり、紛争の再燃につながらないかと心配されている。(当時の写真:検問所でボディチェックするIRAの女性兵士。壁に「イギリス人出て行け」と書いてある。)

2019年1月21日月曜日

ブレグジットがわかる図

Brexsit

イギリスの EU 離脱問題が連日報道されているが、なぜそんなにもめるのか根本的なことは報道してくれない。問題は EUとの境界線をどこにするかなのだが、それをすっきり理解できる図を見つけた。複雑な物事を一目で分からせてくれる「情報の視覚化」の好例だと思う。
( ”source : British and EU officials ”とあるから公式の図らしい )


(図右)英領北アイルランドと、EU に残るアイルランドとの間に陸続きの境界線ができ、道路や鉄道に検問所ができる最悪の事態。「合意なき離脱」とは自動的にこの状態になることで、それを避けるためにみんな必死になっている。

(図中)北アイルランドを EU の関税同盟に残せば、境界線が海になって、検問所は不要になるからいいじゃないかという案、しかし本州と北海道の間に国境ができるようなものだから、イギリスにとってはとんでもない話。

(図左)いい案が見つかるまでの間、イギリス本土もひっくるめて、関税同盟に残れば、という案。これで一旦合意したが、実質的に今と何も変わらないから、当然ながら離脱強硬派が猛反対して、この間の議会で否決されてしまった。

2019年1月19日土曜日

「忘れえぬ女(ひと)」とアンナ・カレーニナ

"Unknown Lady" & "Anna Karenina"

今やっている「ロマンティック・ロシア展」で大人気の「忘れえぬ女(ひと)」だが、面白いことに、これは日本でつけられた題名で、ロシア語の題名は素っ気なく「見知らぬ女」だそうだ。冷たくこちらを見下している高慢な表情と解釈すればそうなるのだろうが、日本の題名はもっとロマンティックに解釈したものだろう。この表情をどう見るかをめぐってずっと議論が続いてきたそうだ。

描かれた当時からモデルはアンナ・カレーニナではないかと言われていたそうだ。実際、作者のクラムスコイはトルストイと交流があった人で、「アンナ・カレーニナ」の執筆の最中にこの絵が描かれたそうで、影響を受けたという説が有力だという。

クラムスコイは「アンナ・カレーニナ」のイメージを絵画で視覚化したが、 20 世紀には映画がとってかわり、ここ 100 年の間になんと30 回も映画化されたそうだ。それぞれの脚色によって、様々なアンナ像が描かれてきた。新しいところでは、キーラ・ナイトレイが演じたヒロインは、情熱的で知的で意志が強く、「忘れえぬ女(ひと)」のイメージに近いように感じた。(これしか観ていないが)


2019年1月17日木曜日

「右か左か、それが問題だ」?    小野田直武の「不忍池図」は不思議か



小野田直武は江戸時代に西洋絵画の技術を習得した最初の人で、この「不忍池図」でも空気遠近法がうまく使われている。

「視覚心理学が明かす名画の秘密」(三浦佳世)という本で、西洋絵画では統計的に、左光源の絵が圧倒的に多いという理由で、右光源のこの絵が「不思議な感じがする」と決めつけている。しかし2年くらい前の「小野田直武展」でこの絵を見たが、同書の言う不思議さは感じなかった。

しかしそれとは別の点で不思議に感じたことがあった。ひとつは、右側の木の明暗コントラストに比べて鉢の明暗差が少なく、弱い光で描かれている点。もうひとつは、鉢植えの花のスケールが風景と合っていない感じがする点で、この絵のアイ・レベルと花の視角からすると、地面にぺったり座った状態で 50 cm くらいの至近距離から描かないとこうならないはずだ。なんとなく花が風景に溶け込んでいない感があるのはそんな理由からだろう。おそらくこの花はこの場所にはなく、花の静物画と池の風景画を合体させたものだと思う。そうだとすれば、この時代としては画期的だっただろう。

2019年1月15日火曜日

「右か左か、それが問題だ」?    カラヴァッジョの光

Caravaggio

「視覚心理学が明かす名画の秘密」(三浦佳世)という本で、西洋絵画の光は左光源が普通なのに、カラヴァッジョは「聖マタイの召命」で、ドラマチックな非日常感を出すために、あえて普通でない右光源にしたと言っている。

しかし本当の理由は違うようだ。カラヴァッジョは教会からコンスタレッリという礼拝堂のための3枚セットの祭壇画を依頼された。そして「聖マタイの召命」は右光源、「聖マタイと天使」は上光源、「聖マタイの殉教」は左光源で、3枚ともドラマチックで非日常的な主題なのに、違った光の方向で描いている。

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それがなぜかは絵が飾られている礼拝堂の写真を見ればわかる。コの字型に祭壇を囲むように3枚が飾られていて、中央上方の窓から光が差し込んでいる。「聖マタイの召命」は左側の壁に飾られているので、右側から光を受けている。他の2枚も同様の関係にある。つまり絵が置かれている空間の光の方向と、3枚それぞれの絵画の光の方向を一致させているわけだ。それで絵が礼拝堂の環境と一体化する。そして絵の物語が祭壇という舞台で実際に演じられている劇のような臨場感を感じさせたのだろう。

カラヴァッジョは絵を描く前にこの礼拝堂に足を運んで光の差し込む方向を研究していたという。従ってカラヴァッジョは最初から「召命」を左側に置く計画だったから右からの光にしたので、右側に置くつもりだったら左からの光にしたに違いない。実際、右側に置かれている「殉教」はマタイが刺されるという「召命」以上に劇的な絵だが左光源だ。

2019年1月13日日曜日

「右か左かそれが問題だ」? 光の方向

Vermeer & Caravaggio

絵に描かれている光の方向は、80% が左からという統計データがあるそうだ。「視覚心理学が明かす名画の秘密」(三浦佳世)という本で、右光源の絵は不思議な感じがするから左光源がよく、右光源にするのは劇的だったり不安感だったりの非日常的な場面を描く場合だ、と言っている。その例として日常的な情景を左光源で描いたフェルメールと、非日常的な場面を右光源で描いたカラヴァッジョをあげている。そして「右か左か、それが問題だ」と強調している。

一般的な傾向はそうであるにしても逆の例も山ほどあるから、そんなに決めつけるのは乱暴だと思う。そこで、フェルメールと同じ日常的な情景であるが、カラヴァッジョのような右光源で描いている例を思いつくままにあげてみたが、とくに「不思議な感じ」はしない。さらにそれらを左右反転してみたが「日常的」と「非日常的」の印象が逆転する感じもない。「右か左か、それが問題だ」は、たいした問題ではないようだ。
(左側がオリジナルで、右側が左右反転。上から、ホーホ、ワイエス、ホッパー)




2019年1月11日金曜日

「ロマンティック・ロシア」展

"Romantic Russia"

四季の自然を詩的に叙情的に描いた風景画の数々に癒される。タイトルの「ロマンティック」がぴったりの作品ばかりだ。人物画でも理想化された女性の美しさを描いている。一番人気の「忘れえぬ女(ひと)」は、女性の表情や背景の雪景色や馬車などからアンナ・カレーニナをすぐに連想するが、描かれた当時(1883年)からモデルはアンナ・カレーニナではないかと言われていたそうだ。映画の「アンナ・カレーニナ」でも描かれてきた意志の強い女性の顔だ。
BUNKAMURA   ザ・ミュージアム


2019年1月9日水曜日

水面の反映 モネとエッシャー

Reflection,  Monet & Escher



モネのこの「睡蓮」には、青空や雲や樹木の反映がはっきり描かれている。もう一つの大きな空間が水の中にあるのを感じさせて、単なる水の表面の反射以上のものが表現されている。水面の睡蓮が対比になって、なおさら空間の奥行きを感じる。



同じく水面を描いたエッシャーのこの作品では、樹木と波紋をダブルイメージではなく、ひとつに合体させている。モネが3次元的な奥行きを描いているのに対して、平面的な図形として描いているのが面白い。


2019年1月7日月曜日

接写撮影(その3)

Macro photographing

電子接点付きの接写リングなのでオートフォーカスは効くのだが、狙った所にピントが合っているかは運まかせ。カメラがミラーレス一眼のため、液晶画面上でだいたいしか確認できない。後でパソコンで確認するのだが、成功率は 50%くらいしかない。





2019年1月5日土曜日

だまされる「だまし絵」(その2)

Trompe l'oeil
前回紹介した「だまし絵、もうひとつの美術史」に究極のだまし絵がのっていた。イーゼルの上に描きかけの絵や下絵などがあり、画家が制作中の光景を描いた絵だ。ただし背景の本棚などは本物で、絵ではない。つまりイーゼルや絵の部分だけをキャンバスから切り抜いて立てかけている。背景はいくらリアルに描いても周囲の環境に溶け込ませることは不可能だから、モチーフ部分だけを切り抜いてしまえば、絵だと気づかれずに本物と思わせることができる。

学生時代に似たようなことをやったのを思い出した。ユニット家具のデザインをした時に作った5分の1くらいの縮尺模型で。同じ縮尺の人間の写真を切り抜いたものをそばに立てかけて写真を撮った。すると実寸の本物の家具に見えてしまう。だまし絵ならぬ「だまし写真」だ。


2019年1月3日木曜日

だまされる「だまし絵」

Trompe l'oeil
聞く人が本当だと思わない嘘は、嘘でなくジョークという。「だまし絵」の代表としてあげられるアルチンボルドの絵も、こんな顔をした人が本当にいるとは誰も思わないから、「だまし絵」とはいえないのでは、と思っていたら、そのとおりのことを言っている本が見つかった。(「だまし絵、もうひとつの美術史」谷川渥 )その中で本当の「だまし絵」とはこういうものだという事例を山ほどあげている。

壁に本物そっくりのぶどうの絵を描いておいたら鳥が飛んできて壁にぶつかった、というギリシャ時代の話があるそうで、目をあざむくくらい本物そっくりの絵を「だまし絵」という。そういう写実性・迫真性のある絵をフランス語で「トロンプ・ルイユ」という。

「だまし絵の帝王」といわれるヘイスブレヒツのこの絵は、壁のくぼみ(建築用語でいう壁龕)の中に物がある静物画を描いている。この絵を壁にかけておく(額縁なしで)と、本当に壁龕があってそこに物が置かれているように見えるだろう。



このように絵のある場所との空間的連続性を描くとだましやすい。だから建築の壁画にだまし絵がたくさんある。これは柱とバルコニーがあり、遠くに風景が見えるが、実際は壁に描かれている。バルコニーへ出ようとするとガンと壁にぶつかる(?)かもしれない。

これがエスカレートして、建築そのものをだまし絵的に作ってしまうことが行われた。いわば「だまし建築」で、とても面白い。この柱廊は、天井や壁を傾けて向こうにいくほど狭くしている。奥行きは9mくらいしかないが、4倍くらい長く見えるという。遠近法の視覚心理を悪用(?)して人をだましている。うっかり3人くらいで並んで入ると、向こうの出口では1人しか通れないことになる。
なお、東京の銀座通りのあるビルの壁になかなかのだまし絵があって、一瞬だまされる。もちろん窓も女の子も嘘。