2018年2月26日月曜日

ブリューゲルの絵の「カーリング」

Curling in Brueghel

都美術館で開催中の「ブリューゲル展」。雪景色が有名なブリューゲルだが、今回はこの絵が出ていた。寒そうだが日差しは柔らかい空気感が伝わってくる。凍った川で遊んでいる人たちの楽しそうな光景が描かれているが、やっている遊びはカーリングだといわれている。大きく拡大して見るとたしかに今と同じ形のハンドルのついたストーンが3つ見える。青シャツが投げたストーンを赤シャツと黒シャツが見守っている。カーリングの元祖が 16 世紀にすでにあったことが分かって面白い。
・・・日本の女子カーリング、オリンピック銅メダルによせて。



2018年2月23日金曜日

「世界をまどわせた地図」

" The Phantom Atlas "

話題の本ということで読んだが面白い。探検航海をした冒険者たちが、新しい島や海や陸地を発見したと言って、いかにも詳細な地図を作ったが、多くは功名心や金儲けのための嘘の地図だった。北米大陸を横切って大西洋と太平洋をつなぐ海峡があるとか、オーストラリアのど真ん中に巨大な内陸海がある、などといった気宇壮大な地図がたくさん収録されている。

日本の地図も出てくる。17 世紀のオランダの探検家が描いた地図で、ちょっと変な形の北海道の右に大きな島(半分だけ見えている)が描かれている。金銀が出るとされていた伝説の島を実際に発見したと言い、カンパニーズ島と命名までして、この地図を作った。この嘘が 100 年以上もの間、本当だと信じられ続けていたというから面白い。



2018年2月20日火曜日

映画「メトロポリス」のデジタル復元版

Movie  "Metropolis"

古典的名作「メトロポリス」は、1927 年( 90 年前)の映画なのにテーマも表現もいまだに古くなっていない。ボケボケだった画質を鮮明な映像にしたデジタル復元版を見つけたので改めて観てみたが、見えなかったたくさんのディテールを見ることができた。

未来の機械文明社会を描いた史上初の SF 映画で、人工知能やロボットも出てきて今の時代を予言している。労働者が機械の部品として使われているディストピア社会というテーマもいまだに SF 映画に影響を与えている。当時の絵画や建築は「ドイツ表現主義」の時代なので、この映画も典型的な表現主義で、セットのデザインや映像表現にその特徴が表れている。 映画はこちら→  https://www.youtube.com/watch?v=gFrla6Z9iS8

有名なシーン。煙を吐くドラゴンのような地下工場と、そこにへばりつく労働者たち。

 この未来都市のイメージは今も SF 映画によく引用される。

演劇のシーンのセットが当時の表現主義の劇場建築のイメージそのまま。

虐げられた労働者たちは救世主を求め、そして裏切られる。ヒトラーが政権をとる6年前のこの映画は予言的だ。やがてフリッツ・ラング監督は弾圧されてアメリカへ亡命する。

2018年2月17日土曜日

プロダクション・デザイナーの仕事

Production Designer

映画の「プロダクション・デザイナー」は、ビジュアルに関わるデザインを総合的に行う重要な役割。エンドロールで監督と並ぶくらいに「Production designer : 」が大きくクレジットされている。観客が映画に没入できるように、その作品世界を創造する。成功すれば、観客が映像化された作品を見たとき、それが「現実」であるかのようなリアリティを感じる。(「映画美術から学ぶ「世界」のつくり方」より)  ちょうど画家がカンバスの上に「世界」を描くのと同じように、プロダクション・デザイナーはスクリーンの上に「世界」を描く。実際、ほとんどが美大で絵画を勉強した人たちだという。

1978 年のリチャード・ギア主演の「天国の日々」は映像の美しさで評価が高く、プロダクション・デザインの成功例といわれる。(プロダクション・デザイナーはジャック・フリスクという人)  20 世紀初頭、出稼ぎの季節労働者たちが働いている西部の大農場を舞台にした男女3人の愛憎劇なのだが、アメリカの広大な平原の幻想的でノスタルジックな表現が素晴らしい。


このイメージがアンドリュー・ワイエスの絵のイメージと似ているといわれるが、大平原の手前に人間がいて地平線かなたに建物がある、といったイメージが確かに似ている。


そして、平原の中にポツンと建っている農場主の邸宅のセットは 昔のイギリス風で、アメリカ西部ではありえない「ウソ」なのだが、映画のイメージを演出するのに最大限役立っている。そしてこれもエソワード・ホッパーの絵と比較される。建物の雰囲気や画面の構図がよく似ている。


ワイエスもホッパーもアメリカの原風景のようなものを描いたが、この映画も同じテーマなので似てくるのだろう。

2018年2月14日水曜日

風景 冷雨の印旛沼

"Abandoned Boat, Rainy Day"  (Soft pastel on Canson paper)

千葉県の印旛沼は見渡す限り何もない単調な景色が好きでよく出かける。寒々しい雨の日に行ってみたら朽ちた小舟があった。(「冷雨」パステル  8号 )


2018年2月11日日曜日

「ルドン 秘密の花園」展

Exhibition  "Flore D'Odilon Redon"

ルドンは前半生は「黒い絵」と言われる象徴主義絵画を描いていたが、後半はパステルによる花の絵を描いた。落差の大きいこの両面を見られる企画展。キャッチコピーの「夢の中へ、花の中へ」はそのことを意味しているのだと思う。

黒い絵の象徴主義時代は木炭による白黒で不安な夢の世界を描いた一つ目小僧が有名だがその作品が多数見れる。解説によれば、ルドンは肉食植物の研究をしていた植物学者と交流があったことと、やはり肉食植物の怖い絵を描いたブレスダンが師匠だったことからの影響があったという。なるほど、目玉がついているのは植物らしい。

ルドンはドガと並んでパステル画の巨匠でもあるが、代表作の「グラン・ブーケ」はパステル画としては珍しい2メートルを超す大作。このシリーズも多数展示されている。黒い絵と対照的な明るく美しい絵だが、どういう心境の変化でこうなったのかは解説がなかった。  (三菱1号館美術館  〜5 / 20)

2018年2月8日木曜日

台湾映画「日曜日の散歩者」

Taiwan movie  " Le Moulin "

ミニシアターで「日曜日の散歩者   わすれられた台湾詩人たち」という台湾映画を観た。日本統治下の台湾で、シュールリアリズム文学を目指したた詩人たちのグループ「風車詩社」の活動を描いたドキュメンタリー映画。台湾映画の名作には「非情城市」「セデック・バレ」「KANO」など日本と関わりのある作品が多いが、これも文学を通して見た日台関係史でもあり参考になる。

台湾人なのに日本語で書かなければならない葛藤の中で、やがて日本の戦時翼賛体制に組み込まれてしまったり、戦後は中国の国民党による弾圧を受けたりなど、苦難が描かれている。

ニュース映画の断片をコラージュ的ににつなぎ合わせた映像に、詩人たちの詩作の朗読が重なる。映画自体の表現がシュールリアリズム的だ。

2018年2月5日月曜日

映画「摩天楼」と原作者アイン・ランド

Old movie  "The Fountainhead"

「摩天楼」は戦後まもなくの 1949 年の古い作品で、建築が題材という珍しい映画。原作は「水源」という小説で、アイデアが泉のように湧いてくる主人公の建築家を意味している。ベタなメロドラマを絡ませた駄作なのだが、ある政治的メッセージが込められている一種のプロパガンダ映画でもある。それが今だに影響力を持っていると言われる。

当時のニューヨークは高層ビルの建築ラッシュで、建築家たちが競い合っていた。アールデコや古典主義的な装飾的建築が全盛で、そんな一般受けねらいの建築家に対して、主人公はまだ異端だったモダニズム建築を提案し続ける。映画にミース・ファン・デル・ローエ風のスケッチや模型がたくさん出てくる。クライアントの要求を拒否して信念を貫くので仕事が来ないが、やがて新しさが認められ、巨匠になっていく。

自分の設計をクライアントが勝手に一般受けするデザインに変更したことに怒り、建設中のビルを爆破してしまう。裁判になるが堂々と自己弁護の演説をする。この演説が映画のハイライトで、制作者が言いたいことを主人公に代弁させている。『大衆のためと言って創造的で有能な人間の足を引っ張るな!  寄生虫のように人に頼っている凡庸な大衆のために優れた個人が犠牲になっては世界の進歩はなくなる ! 』この傲慢な言い分が陪審員の共感を得て無罪になってしまう。

映画の原作者アイン・ランドは政治思想家で、国民全員を平等にする社会福祉政策に反対し、強い者が勝つ自由競争社会であるべきだ、という考えの人で、映画にはそのメッセージが込められている。アメリカ人の多くが今でもその信者で、特にトランプ政権はこの思想の影響を受けていると言われている。その例が、先進国の中でアメリカだけに無かった国民医療保険制度をオバマ大統領が初めて実現したのにトランプ大統領がひっくり返してしまった。自分のことは自分で面倒を見るべきで、国は個人のことに関与しないという考え方だ。(トランプ政権とアイン・ランド思想の関係を知るにはこちら  →  http://toyokeizai.net/articles/-/150766 )

2018年2月2日金曜日

風景 初夏の伊豆高原

Early summer  (Pastel on Canson paper)

伊豆高原。5月のさわやかな日。(ソフトパステル、ミ・タント紙、8号)