2026年3月13日金曜日

「老い」がテーマの名作映画3選

"Old Age" Movies

先日、認知症映画を取り上げたが、そのついでに認知症以外で、老人の老いをテーマにした映画を挙げてみる。この3作はいずれも映画史に残る名作だ。


「ウンベルト D」
古い映画だが、老いの悲哀を描いた名作。わずかな年金で暮らしている元公務員の主人公は、家賃が払えずアパートを追い出されて、路頭に迷う。しかし身なりは昔のままにパリッとして、プライドを保とうとしている。道で思わず人に手を出して物乞いをしてしまうが、あわてて手を引っ込める。代わりに愛犬に帽子をくわえさせて物乞いをさせる。そしてついに、愛犬を抱いたまま線路で飛び込み自殺をはかるが・・・ 

ヴィトリオ・デ・シーカ監督のイタリアン・ネオ・リアリズム映画の傑作。予告編映像→  https://www.youtube.com/watch?v=NqxkPx786pE


「八月の鯨」
海の見える見晴らしのいい家に高齢の老姉妹が住んでいる。妹は体が不自由で、一日中窓から海を眺めている。姉は妹の面倒を見ている。何もすることがない二人は、若い頃の思い出の中に生きている。まるで時が止まったような毎日だ。しかし8月になると海に鯨の群がやってくる。若い頃は鯨を見るために海岸へ走って行ったのだが・・・

往年の大女優、リリアン・ギッシュとベティ・ディビスが共演した。予告編映像→ 


「生きる」
定年退職が目前の区役所の課長が、ガンで余命いくばくもないことを告げられる。そして自分の人生を振り返る。書類にハンコを押すだけの毎日で、自分が生きてきた意味とは何だったのか、虚しさを感じる。そのとき、近くの空き地に子供用の公園を作って欲しいという主婦たちの陳情を受ける。そして公園を作ることを決めて実行に移し、最後に完成する。雪が降る夜中にそのブランコにひとり乗りながら、人生で初めて、ささやかな「生きる」ことの意味を見つけたのだった。

監督:黒澤明、主演:志村喬の名作で、4年前にイギリスで「Living」としてリメイクもされた。予告編映像→


2026年3月12日木曜日

美術館建築

Museum Architectsre 

美術館建築といえば、やはりニューヨークのグッケンハイム美術館が NO. 1 だと思う。近現代美術を年代順に一つの流れとして見せるために、展示室を区切ることなく、螺旋状のスロープに沿って作品が展示されている。外観もその構造をそのまま生かした形になっている。展示内容と、見せ方と、外観の3つがピッタリ合致している。



日本の美術館でよくあるのが、ただ目立てばいいだけの奇をてらったデザインだ。千葉市にある「ホキ美術館」はその典型で、宙に浮いた四角い筒のデザインは展示内容と何ら関係がない。


東京墨田区にある「北齋美術館」は、アルミパネルを貼ったピカピカの超現代的デザインで、造形的には素晴らしい。さすが世界的建築家の妹島和世だ。しかし展示内容は北齋の浮世絵で、まわりは下町的な住宅街で、ミスマッチ感がある。もちろんそれは承知の上で意図的にやっているのだろうが。



「国立新美術館」は、収蔵作品は何もない、ただの公募展用の貸し画廊だ。国際基準では「美術館」(Museum)ではない。内部は四角い展示室が並んでいるだけだが、表面には内部構造と関係がない、表面を飾るだけの巨大なガラスが覆っている。芝居の書き割りのような建築だ。



優れたデザインの美術館としては、「金沢 21 世紀美術館」がある。これも妹島和世の設計による。厚い壁に覆われて薄暗い美術館の普通のイメージと違って、すべてがガラス張りになっている。展示室もガラス張りで通路から中が見える。自然環境にもオープンで、市民に対してもデザインは、従来の美術館の概念を覆している。



瀬戸内海の直島にある「地中美術館」は安藤忠雄の設計で、島の美しい風景を壊さないように地中に埋まっている。安藤らしいコンクリート打ちっぱなしの力強い造形で、建築自体がひとつの作品になっている。ところどころに空が見える天窓のような部分があり、時間とともに太陽の光と影が変化していく。自然と建築との一体感を感じさせる。



2026年3月11日水曜日

歪んだパース

Perspective


最近 SNS で、スケッチ・テクニックの解説のような投稿を見かける。感心するものも多いが、なかには怪しげなものがある。 最近見かけた遠近法の説明図(下左図)も変だ。

建物の手前のいちばん上の角が鋭角になっているが、実際にこんなふうに見えることはあり得ない。遠くから建物へ近づいていくと、鈍角だった角がだんだん鋭角になっていく。そして建物にドンとぶつかったとき真上を見上げると角は 90 ° になる。しかし 90 ° 以下の鋭角になることはない。

二つの消失点を結んだ線を直径とする円から外へ出てはいけないというのがパースの鉄則だが、右図のように円を描いてみると、この建物は円から大きく外れていることがわかる。


このことは透視図法の教科書に下図のように説明されている。左の図で、正方形のタイルが敷き詰められた地面で、円の外に出ている一番手前のタイルは、大きく歪んでいて、とても正方形には見えない。作図上で描くことは可能だが、現実にあり得ない。

右図はその理由の説明で、本を横から見ていて、本が下に下がるほど本の手前の角は 90 ° に近づいていく。そして真下になるとき 90 °になる。しかし無限の遠くまで本が下がったとしても、 90 °以下になることはない。

(図:「Perspective   A New System for Designers」より)

2026年3月10日火曜日

まだある認知症の名作映画

Dementia Movies  

前回、認知症の映画について書いたが、他にもまだ名作がある。前回の3作は、認知症になっても家族が優しく支え続けるハートウォーミングな物語だったが、こちらの3作は認知症という病いの厳しさをシリアスに描いている映画で、いずれも映画祭で受賞歴のある名作だ。


「ファーザー」
認知症になった本人の視点で描いている珍しい映画だ。ひとり暮らしの父親は、訪ねてくる娘と会話をするが、自分のいる場所や時間がわからなくなっている。画面に映されるのは、父親の頭にに見えているシーンで、現実と妄想が入り混じっている。現在と過去の出来事が同時に映し出されたり、そこにいないはずの人物が登場したり、同じ場面をなん度も繰り返したりする。


「アウェー・フロム・ハー」
長年連れ添ってきた老夫婦だが、妻が認知症になる。今まで積み重ねてきた共通の記憶を妻は失っていく。そして夫婦の絆があやふやになっていく。やがて介護施設に入った妻を久しぶりに見舞いに行ったとき、男の入居者と語り合う生き生きとした妻の姿を見る。夫は、自分が彼女にとって遠い存在になってしまったことを知る。


「愛、アムール」
パリの高級アパルトマンに住んでいる音楽家の老夫婦が幸せに暮らしている。ところが妻が認知症になり、どんどん悪化していく。夫は懸命に介護するが、いちばん病に苦しんでいるのは妻自身なのだ。最後に妻の苦しみを救うために、究極の愛の形で二人の人生を終わらせる。ミヒャエル・ハネケ監督らしいエンディングだ。

2026年3月9日月曜日

認知症の映画 3作

Dementia Movies 

認知症が主題の映画はたくさんある。自分の認知症を心配をしなければならない歳になって、今まで見た映画を思い出してみた。以下の3つは特に強く印象に残っている。いずれも認知症になっても、家族が今までと変わらない愛情を持ち続けるハートウォーミングな映画だ。


⚫︎「きみに読む物語」
介護施設で暮らす老いた妻に夫が毎日見舞いに来て、物語を読んで聞かせる。妻は、そのつど次はどうなるのと続きを楽しみにしている。ところがその物語とは、二人が恋人同士だった若い頃のラブレターだったのだ。映画はその思い出シーンを甘いラブストーリーとして描いていく。自分の過去を忘れてしまった妻の切ない姿で涙を誘う映画だった。

⚫︎「やさしい嘘と贈り物」
毎日ぶらぶらしているお年寄りが偶然出会った可愛いいおばあちゃんを好きになってしまう。デートに誘ったりして生きがいを取り戻す。ところがそのおばあちゃんとは自分の妻なのだ。妻は恋人のふりをして、息子たちもデートにいいレストランを教えたりする。優しい嘘で本人を幸せにしてあげる。


⚫︎「アリスのままで」
名門大学の教授アリスは突然認知症を発症する。だんだんと言葉を失っていき、講義もままならなくなる。壊れていく自分を自覚しつつも、アリスは「アリスのままで」いたいと願う。自分に寄り添ってくれる娘が、ある愛の詩を読み聞かせて、感想を聞かれたとき、アリスはひと文字だけ紙に書く。それは「LOVE」だった。

2026年3月8日日曜日

ロケット打ち上げ失敗

Rocket

民間ロケット「カイロス3号機」の打ち上げ失敗の翌日 3 / 6 の日経新聞に、これについて解説記事がのっていた。

ロケットはもちろん、人工衛星を宇宙に運ぶ運搬手段だが、衛星には、気象衛星や、通信衛星や、地球観測衛星、偵察衛星などたくさんある。日本もたくさんの衛星を打ち上げているが、ロケットはアメリカの「スペースX」などに頼っている。それではまずいと自国のロケットを開発しているが一向に成功しない。ロケット国産化の失敗が日本の宇宙開発のネックになっているという。

自国の衛星を自国のロケットで打ち上げて成功した割合は、アメリカが 80 %、中国が 99 % だという。日本はゼロで、今回のカイロス3号機も、5つの衛星が搭載されていたが全部無駄になってしまった。


2026年3月7日土曜日

直島の「李禹煥美術館」

Lee Fan Museum 

前回「美術が建築に近づくとき 10 選」について書いた。美術館のように、ただ美術の展示場としての建築ではなく、建築と密接な関係で結びついている美術作品を取り上げていた。そこではあがっていなかったが、瀬戸内海の直島の「李禹煥美術館」も10 選に入ってもよかったのではないかと思っている。

直島はアートの島として有名だが、ちょうど 10 年前に訪れたことがある。「李禹煥美術館」は安藤忠雄の設計の建築と、李禹煥の現代アートの作品が、美術が建築に「近づく」どころではなく、一体化している。

この建築は半分地下に埋まっている。コンクリート打ち放なしの壁に囲まれたくぼみの空間に李禹煥の作品が置かれている。作品は自然石を削ったもので、建築は、そこに当たる光と影を計算しつくしている。


なおアートの島の直島には他にも「地中美術館」「ベネッセハウスミュージアム」「直島新美術館」などがあり、いずれも安藤忠雄の設計で、自然と建築と美術が融合した見事な美術館だ。また普通の小さな民家をギャラリーにした「家プロジェクト」もある。