2026年10月2日金曜日

「制脳権」

 Brain Dominance

最近「制脳権」という恐ろしい言葉が使われ始めたようだ。しかし昨今の状況を見ると、うまいことをいうものだと思う。今までの戦争は「制空権」や「制海権」の争いだったが、認知戦の現代は、相手国民の脳を奪う「制脳権」の時代になったという意味だ。

例えば『日本は今新しい軍国主義が復活している』という認知戦攻撃を受けている。日本の世論を分断させて「制脳権」を奪おうとする。

なぜ日本はこのような攻撃を受けやすいのか。フランス人の歴史学者のエマニュエル・トッドの次のような言葉が参考になる。

『アメリカ人が広島や長崎について謝罪を拒否するなかで、日本人は南京事件について絶えず謝罪を求められてきた。そして日本人は、戦争を始めたことへのトラウマから、強い贖罪意識を抱えている。だから日本は戦後、営々として平和主義国家としての努力をしてきたにもかかわらず、日本人はそのことを口に出して言えないでいる。』


2026年10月1日木曜日

映画「ユナボマー」

「UNABOMBER」 

NETFLIX で始まった映画「ユナボマー」が面白い。20 数年前アメリカで起きた連続殺人事件をもとにしている。郵便小包で爆弾を送りつけ、開封すると爆発して死傷させるという事件で、FBI の必死の捜査にもかかわらず犯人を逮捕できず、犯行は17 年間も続いた。

犯人は、ハーバード大学で哲学を学び、その後数学も学んで博士号を取得して、若くして大学の助教授になった天才だった。彼は、科学技術と産業社会の発展が人間の人間性を破壊しているという強い信念を持っている。

その信念はやがて狂気じみていき、社会を変革するために、学者や大学教授を抹殺しなければという使命感を持ち、そういう人たちをターゲットにして小包爆弾を送り始める。

 FBI は、爆弾に添えられている犯行声明文の文章から、犯人は知的レベルの高い人間に違いないと推測する。そして犯人と同じような思想を主張している学術論文をしらみつぶしに調べる。すると該当する論文が見つかる。それを犯行声明文と比較すると、論旨や文脈や文体がピッタリ一致した。それでその論文の著者が犯人だと断定する。

逮捕されると、どうして天才青年が殺人鬼になっていったかが明きらかになっていく。犯人は学生時代に大学で、心理学の教授が行う実験の被験者になる。二人の学生が1対1で向かい合って、それぞれの主張をぶつけ合うディベート合戦だが、相手の主張を否定するだけでなく、相手の人格まで破壊した方が勝者と判定される。実はこれは、 CIA が秘密裡に教授に委託している研究で、相手の強い信念を覆させる方法を開発することが目的だった。それは外国のスパイなどの自白を引き出す尋問方法に利用される、犯人はこの実験で自分の人格を完全に叩きのめされ、科学者に対する憎しみのかたまりになる。


2026年9月30日水曜日

アンソロピックによる本の買い占め

 Anthropic

このあいだ TV で面白いことを報じていた。AI のアンソロピック社が世界中で、古本屋の本を買い占めているという。本をバラバラにして、ページをスキャンして、印刷文字をデジタルデータ化している。

AI は、ネットを検索して得たさまざまな情報を学習し、それを一つにまとめて最大公約数的な答えを出す。だから AI は、ネットに載っていない、多様な知識や知見を知らない。それを補うために「本」の知識を収集してAI に学習させて、もっと賢くしようというねらいだろう。


2026年9月29日火曜日

ジェームズ・ローゼンクイストの反戦絵画

 James Rosenquist  「F-111」

反戦絵画の名作といえばピカソの「ゲルニカ」や、ゴヤ」の「銃殺」などがある。新しいところでは、1960年代のポップ・アーティストのジェームズ・ローゼンクイストの「F-111」という作品が有名だ。幅 26 m という超大作で、ニューヨークのMoMA に、部屋を囲む4面に展示されている。


当時続いていたベトナム戦争反対をテーマにした絵画で、題名は、ベトナムで爆撃に使われていた戦闘機「F-111」からきている。さまざまな身近な物が戦闘機のシルエットと組み合わされている。少女の笑顔、スパゲッティ、ケーキ、車のタイヤ、電球などの、市民の豊かな消費生活を象徴する物たちだ。

市民たちは平和だと思っているが、実際にはアメリカの戦闘機が人を殺していることを想えというメッセージが込められている。

反戦ポスターのように「NO WAR」といった直接的な文字を描き込まなくても、強いメッセージを訴えることができるのが絵画の力だ。


2026年9月27日日曜日

映画「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」

Do You Hear The People Sing 

この間の米中首脳会談の晩餐会で、楽団が映画「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」を演奏したという面白いニュースがあった。「民衆の歌」は、圧制政治に対する反政府抗議運動のシンボルのような歌で、中国では禁止されているという。それをあえてトランプ大統領が演奏させたとすれば、習近平氏への当てつけのように思える。

映画「レ・ミゼラブル」は、民衆が貧困にあえぎ、政府の圧政に苦しんでいた時代、国民が蜂起して動乱を起こした事件を描いていた。そのシーンで人々が歌ったのが「民衆の歌」だった。道路にバリケードを築いて、制圧しようとする軍隊と銃撃戦になる。そのシーンで、民衆が「民衆の歌」を力強く歌う。その日本語訳は

  戦う者の歌が聴こえるか
  鼓動があのドラムと響き合えば
  新たに熱い生命が始まる
  明日が来たとき そうさ明日が

映画のそのシーンの映像→ https://www.youtube.com/watch?v=qSg4D8fleTw


横浜クラシックカー・ラリー

Classic Car Rally 

毎年行われるクラシックカー・ラリーは、往年の名車が横浜市内を走るラリーで壮観なイべントだ。なかでもいちばん人気は「ブガッティ」だ。数年前に見物したときは、ブガッティが3台くらいエントリーしていた。1920 年代のイタリアの小型2シーター・オープンカーで、馬蹄形のラジエーターグリルが特徴のおしゃれな車だ。ドライバーもレトロなドライバー服でコスプレして楽しんでいる。



2026年9月26日土曜日

池田学の「メルトダウン」

IKEDA Manabu 「Meltdown」

池田学が東日本大震災の津波をテーマに描いた「再生」について前回書いた。池田は同じ頃、福島原発のメルトダウンをテーマにした「Meltdown」を発表している。この絵も自然の強大な力によって破壊されつつある人間の文明の危うさを描いている。アポカリプス的世界観は池田の全作品に共通している。

「Meltdown」は宙に浮いた巨大な岩のかたまりが、坂の途中に不安定に止まっている。その岩の上に人間の文明が築かれている。そこには工場があり、人間の居住区もある。それらは岩にこびりついたフジツボのようだ。

全体図。壮大な構成だが、この絵もペンだけで細部を細密に描いでいる。

右上の部分拡大。天空に浮いた巨大な原発の工場。

左下の部分拡大。岩にしがみついたような人間の住宅が見える。


この絵はブリューゲルの「バベルの塔」を思い出させる。巨大な絵だが、細部には塔を建設している労働者たちが細密に描かれている。天まで届く塔を作ろうとした人間の傲慢さが神の怒りをかい、塔は未完に終わるという聖書の物語を描いた絵だ。

池田学の原発の事故をテーマにした「Meltdown」も、原発というヒューマンスケールを超えた神をも恐れぬ技術が、神ならぬ津波という自然の怒りをかって罰を受けたという寓意が込められているにちがいない。