2026年10月11日日曜日

映画「ベン・ハー」

BEN-HUR

昔懐かしの名画「ベン・ハー」が今月から NETFLIX で配信が始まったので早速見た。しかしこれは、かつて見た オリジナル版( 1959 年)ではなく、2016年のリメイク版だ。

かの有名な戦車競争のシーンが実写から CG になったりしてスペクタクル感がすごくなっているが、ストーリーの基本は変わっていない。ユダヤの豪族の家で育ったユダヤ人の兄とローマ人の弟との、義兄弟の物語だ。

ローマ帝国の侵略でイスラエルは植民地になり、兄と弟は政治的立場が対立するようになる。ローマ軍の司令官になった弟の命令により、兄は奴隷にされてしまう。苦難の末に生き延びた兄は。弟への復讐のために戦車競争を挑む・・・

この映画のオリジナル版との違いは、イエス・キリストが登場することだ。磔刑に処せられるキリストがローマ兵に追い立てられて、十字架を背負って処刑場へ登っていく時、主人公の兄が水を差し出すシーン。もうひとつはラストで、家族全員が無事で生きていたことを知り、神の奇跡が起こったと喜びあうシーンで、背景に十字架にかけられたキリストが映し出される。そして憎しみあっていた兄弟も、和解と許しで終わる。このようにリメイク版は、宗教映画的な色あいが濃くなっている。


2026年10月10日土曜日

映画「またの名をグレイス」

 Aliace Grace

「またの名をグレイス」は以前見た映画だが、 NETFLIX でもう一度見た。昨日、マーガレット・アトウッドの小説「侍女の物語」について書いていて、同じアトウッドの小説を原作にするこの映画を思い出した。

19 世紀のカナダを舞台にして、ある若い女性の過酷な人生を描いている。家政婦グレイスは、虐待を受けていた雇い主とその愛人を殺した容疑で有罪になり終身刑になる。しかし彼女は当時、記憶を失っていて、その事件は知らないと主張している。

彼女は被害者なのか、それとも残忍な殺人者なのか? 彼女の真実を解き明かそうとして、精神科医が本人との面談を繰り返していく・・・しかし映画は、最後まで主人公の本当の姿がわからないまま終わってしまう。

映画は当時の社会の、男尊女卑や、弱者への虐待や差別、民衆の貧困、などをリアルに描いているが、いずれも今日につながる問題だ。



2026年10月9日金曜日

「侍女の物語」

Handmaid's  Tale

昨日、ノーベル文学賞の速報を見たら、アン・カーソンというカナダの女性詩人が受賞した。残念ながら、日本人の受賞はなかった。

このアン・カーソンという人は知らなかったが、同じくカナダの女性作家マーガレット・アトウッドもずっと受賞候補者だった。アトウッドの代表作「侍女の物語」は世界中でベストセラーだった。

架空の国「ギレアド」を舞台にした物語で、キリスト教原理主義者がクーデターを起こし、政権を奪取する。出生率の低下に危機感を抱いている彼らは、すべての女性から仕事と財産を没収し、妊娠可能な女性たちを「侍女」としてエリート層の男の邸宅に派遣する。「侍女」たちはあくまで出産の道具だ。主人公の女性の名は「オブフレッド」だが、「オブ」は「OF」で、派遣先の男の名「フレッド」の所有物であることを表している。

このように、SF のかたちをとったディストピア小説だが、女性差別社会への批判のメッセージが込められている。


2026年10月8日木曜日

カズオ・イシグロの小説と映画

 Kazuo Ishiguro

昨日、ノーベル文学賞について書いたついでに・・・ 日本人の文学賞受賞は川端康成と大江健三郎の二人と一部で報じられているが、もう一人カズオ・イシグロがいる。イギリス国籍だが、日本生まれの日本育ちだ。

「遠い山なみの光」は、戦後の長崎と現在のイギリスを交錯させている小説だが、去年(2025年)映画化された。原作は読んでいないが、映画は見た。

映画「わたしを離さないで」はイシグロの小説の映画化だが、最後のエンドロールで「Based on the Nobel by Kazuo Ishiguro」と出てきたので、初めてカズオ・イシグロの名前を知った。

この映画は、表面的には、甘く切ない青春映画だが、登場する若者たちは、政府の政策によって作られたクローン人間だ。彼らは臓器移植で臓器を提供するためだけに生まれてきた。そして臓器を提供すると自分は死んでしまう運命にある・・・ というデイストピア映画だ。

その当時、日本人のノーベル賞候補として村上春樹が有力視されていたが、この映画を見て、カズオ・イシグロが先に受賞するのではないかと密かに思っていたが、実際に 1017 年に受賞して、予想は当たった。

もうひとつのイシグロの小説「日の名残り」は、名門貴族の執事として一生を捧げてきた男の人生を描いているが、これも映画化されたが名作だった。


2026年10月7日水曜日

明日発表の「ノーベル文学賞」は?  多和田葉子の小説と、堀江栞の絵画

「The Emissary」 Yoko Tawada  &  Painter Shiori Horie

明日(10 / 8)は、ノーベル文学賞の発表の日だ。日本人で候補とされているのは、万年候補の村上春樹と、ここ2〜3年で名前があがるようになった多和田葉子だ。多和田の代表作「献灯使」は、核戦争か何かで文明が崩壊した未来を舞台にして、生き残った老人と少年の物語というディストピア的世界を描いている。

この本の表紙の絵(右図)を描いたのは堀江栞という新進画家だ。ハシビロコウという立っているだけで動かない鳥と、不安な表情の人間を合体させていて、多和田の小説を視覚化している。4年前に神奈川県立近代美術館で堀江栞の個展があったが、この絵の原画もあった。

展示のひとつ「後ろ手の未来」という2mくらいの大作が強烈だった。囚人服のような同じ衣服を着て、性別も不明な若者たちが抗議するような眼でこちらを見つめている。抑圧された、未来のない社会の閉塞感と、それにあらがう個人、という現代的なテーマを描いている。


これでわかるように、多和田葉子の小説と、堀江栞の絵画は、ディスピア的世界観という点で完全に共通している。

2026年10月6日火曜日

空気感を描く

 Drawing Atomospher

季節や、天候や、時間帯などによって変わるその場の「空気感」を描くのは難しいが楽しい。「あそこに山があって、ここに海がある」だけでは面白くない。


「霞ヶ浦・暖かい日」 (パステル)
田植え前の水を張った田んぼが広がっている初春の寒い日だが、日差しが暖かい。

「霞ヶ浦・雨上がり」 (パステル)
降りしきっていた雨が止んで空が明るくなり、雲間から青空が見えてきた。

「寒風・積丹半島」 (アクリル)
空気が澄んでいるので遠くまでくっきり見える冬。海からの風が刺すように冷たい。

「荒れ模様」(パステル)
雲が暗くなり、荒れ模様の空になってきた。廃屋の漁師小屋におあつらいの雰囲気。

2026年10月5日月曜日

映画「エデンの東」 NETFLIX版

 East of Eden

NETFLIX で「エデンの東」の配信が始まった。あの超名作映画のリメイク版だ。厳格な父親と二人の息子の確執の物語というストーリーの基本は変わっていない。

そもそも「エデンの東」(East of Eden)とはどういう意味なのか。旧約聖書で、アダムとイブの長男であるカインは、神の愛を受けている弟のアベルを嫉妬から殺害してしまう。カインは神によって、楽園である「エデンの東」を追放される。罪を背負った人間が孤独にさ迷い、さすらいながら生きていくという物語だ。

映画の「エデンの東」はこの聖書のアナロジーが物語の核になっている。厳格な父親が優秀な弟ばかりを可愛がり、自分は愛されない兄が、父の愛を求めて苦悩する。しかし最後には、人間は自分を縛る運命を自分の自由意志によって、それを乗り越えられるという「希望」が描かれる。

1955 年のオリジナル版と違い、NETFLIX 版では母親が登場する。自分の欲望のために、手段を選ばず周囲を破滅に導く悪女で、二人の兄弟の間も、彼女によって深い亀裂が生じていく・・・