2026年9月20日日曜日

「なぜ日本が世界に必要なのか」

Emmanuel Todd 

今月出たばかりのエマニュエル・トッドの「なぜ日本が世界に必要なのか」をさっそく読んだ。前著の「西洋の敗北と日本の選択」に続いて、これからの日本が進むべき道を提言している。

著者の一貫した主張である「西洋の敗北」とは、これまで世界を支配していた「自由主義的西洋」が崩壊しつつあるという意味だ。そのことが現在のアメリカに顕著に現れている。産業やモノづくりをおろそかにした結果、経済力と国力が衰えたアメリカはウクライナ戦争やイラン戦争など戦争で覇権を維持しようとしている。しかもその戦争に敗北しつつある。

著者は、すでに第3次世界大戦は始まっているとしている。そして敗北しつつあるアメリカが日本を助けてくれることは絶対にない。だから日本は自力で国を守るために、アメリカ依存をやめて自立し、「核武装」すべきだというのが著者の一貫した主張だ。そのことが日本のためだけでなく、「世界の平和」に貢献することになるとしている。

「核武装」論については議論のあるところだが、歴史家として日本の歴史と文化を深く研究している著者の言葉は示唆に富んでいる。そして最後でこう言っている。「私はこの本で、日本を愛しているフランス人として、日本人が密かに思っていても口に出せないことを代弁する役割を果たしたつもりだ。」


2026年9月19日土曜日

もう一度「AI はバカだ」論

AI

AI について今まで何度か書いてきたが、それらをまとめてみた。


▪️AI に「月曜日とは何ですか?」と聞くと「日曜日と火曜日の間の日です」と答える。それで「そんな当たり前のことを言って、AI さん、あなたバカじゃないの?」というとAI は「 申し訳けありません。人間の常識の範囲がどういうものかわからずに、単に言葉の上の定義だけで答えてしまいました。」と謝まった。

▪️AI 囲碁ソフトはプロのトップ棋士も負かすくらい強くなっている。しかし自分がパソコンでAIと対局すると100%勝てる。わざとメチャクチャな手を打つと、AI は混乱してしてしまって初心者以下の手を打ってくる。AI は人間の打った棋譜をすべて記憶していて、それをもとに勝つ確率の高い手を打つ。しかし囲碁というゲームの本質を理解しているわけではないので、セオリーに反する手を打たれると、対応がわからず頭が狂ってしまう。

▪️ある映画についてどう思うかをAI に聞いてみたら、世の中に出回っている映画評論をまとめただけで、独自性が全くない。それで「AI さんの言うことはちっとも面白くないですが、自分で映画を見て、その映像やストーリーから感じたことを言っているんですか?」と聞く。すると「申し訳けありません。私は映画を実際に見ているわけではなく、たくさんの論評を字で読んで、それをまとめているだけです。自分の感性で感じたり、考えたりするのは人間だけができることで、私にはその能力はありません。」とこれまた正直な答えが返ってきた。

▪️「美味しそうな料理が並んでいる楽しい食卓の画像を作ってください。」というと、ネットから拾ってきたような写真を出してきた。それで「こんなありきたりの画像でなく、もっと絵画的な感情のこもった画像を作ってください。」というと「すいません、絵画的なというと例えばどんな絵ですか?ゴッホのようなとか、モネのようなとか例をあげてくれると助かります。」と言うので「ピエール・ボナールのような絵を。」と言った、すると「ああピエール・ボナールですね。ボナールは光や色彩の美しさで食卓の楽しさを描きましたね」と分かったようなことを言ったが、結局出してきた画像は最初の画像をちょっと加工しただけだった。AI は最初の写真から離れて、オリジナルの画像を作ることはできなかった。


今、絵画でも、小説でも、映画でも、音楽でもAI が人間の上をいくのでは、というAI 脅威論が盛んだが、AI は創造力などまったくない。むしろ、AI の言うことを何でもありがたがって、自分で感じたり考えたりしない人間が増えて、人類が AI 化してしまうことのほうが怖い。

改めてピエール・ボナールの絵を見ると、人間の創造力の素晴らしさを実感する。

2026年9月18日金曜日

霧の風景

 

夏の日の早朝に、高原などの標高の高いところへ行くと霧に出会える。伊豆高原の別荘地の霧の朝を描いた。(遠くに見えるのは自分の車)


北海道のニセコへ行ったとき、霧を見ようと思い、早朝に起きて散歩に出かけた。登り始めた太陽が霧で霞んでいる。それが水面に反射して、目玉焼きのように見える。



2026年9月17日木曜日

北極の地図

 Arctic Map

トランプ大統領が「グリーンランドをアメリカの領土にする」と言って世界中からひんしゅくを買っている。アメリカとロシアが向かい合っている北極海にあるグリーンランドはアメリカ本土防衛の最前線になっている。特に近年は地球温暖化で、北極海が航行可能になり、アメリカ本土がロシアの軍艦からのミサイル攻撃の射程内に入るようになった。トランプのような考えは、北極を中心とする地図があって初めて気づくことで、通常の世界地図からは気付かない。

昨日書いた「世界をまどわせた地図」は、現実とは違うウソの地図を収録している面白い本だが、その中に17世紀の北極圏の地図が紹介されている。

1606年に描かれた北極点を中心にした地図。円の周辺右側がユーラシア大陸で、左側がアメリカ大陸だが、中央に大きな島(黄色部分)が描かれている。

この島はもちろん実在しないが、島の真ん中に丸い内海がある。その内海の中央に山が描かれている。これは「黒い岩」と名付けられている。

当時は、北極には磁石でできた巨大な山があると考えられていた。方位磁石が北を指すのは、その山の磁力によるといわれていた。その山がこの「黒い岩」だ。

岩のふもとの内海には巨大な渦が巻いていて、そこで海が割れて大洋の海水が吸い込まれる。その海水は、地球を通り抜けて、南極から噴き出すと考えられていた。


2026年9月16日水曜日

「世界をまどわせた地図」

The Phantom Atlas

「世界をまどわせた地図」という本が面白い。古い時代の、現実とはかけ離れたとんでもない地図を収録している。

伝説に伝えられている島を探そうと航海に出かけた冒険者たちが、そんなものは見つからなかったにもかかわらず、それを発見したと言って、その詳細な地図を作った。ペテン師たちの、功名心や金儲けのための嘘の地図だった。

しかし世界に関する正しい情報が少ない時代に、それらの地図は何世紀にもわたって受け継がれて、そこに描かれた世界が真実だと信じられ続けてきた。


日本の地図も出てくる。ヨーロッパで初めて出版された日本の地図で、オルテリウスという人の「世界の舞台」(1595年)に収録されたもの。日本の地理のイメージを作るのに貢献した地図だった。日本と交易をしていたポルトガル人が日本人から正確な情報を得ていたので、比較的正しく日本が描かれている。

それに対して朝鮮半島はニンジンのような形の島になっている。島の南端は「泥棒たちの岬」と表記されている。この海域には海賊が暗躍しているという当時の噂を反映していた。


上の地図からしばらく後の、ヨハネス・ヤンソンという人の「日本最新精密地図」(1658年)の日本地図。上の地図では無かった北海道が描かれていて「蝦夷島」と表記されている。しかしその形は千島列島と一緒になったような奇妙な形だ。

面白いのはその「蝦夷島」の右に巨大な島が描かれている。(左半分だけが見える)その島は「カンパニーズ島」と名付けられている。ある貿易船の船長が、日本の北で島を目撃したという証言したのがそのまま地図に載ってしまった。

その島には、金と銀が豊富にあるという噂が生まれ、日本の東のどこかにあるという幻の島を見つけようとする冒険家がたくさん現れた。しかしそんな島は見つからず、それが嘘だと証明されたのはなんと18世紀になってからだったという。100年以上も「世界をまどわせた地図」だった。


2026年9月15日火曜日

映画「ブルータリスト」

 Brutalist

去年のアカデミー賞を受賞したが、劇場での公開があっという間に終わってしまったため、見逃していた「ブルータリスト」が NETFLIX で始まり、やっと見ることができた。ハンガリーのユダヤ人建築家が、ホロコーストを逃れて、アメリカへ亡命する。建築や家具のデザインをするが、そのアメリカンドリームの成功と挫折を描いている。

戦後、コンクリート打ちっぱなしの無骨なデザインの「ブルータニズム」の建築が流行ったが、そういう建築家は「ブルータリスト」と呼ばれた。主人公もその一人で、題名はそこからきている。

主人公は実在した人物ではなく、特定のモデルはいない。しかし、戦前にバウハウスで建築を教えていたユダヤ人で、アメリカへ亡命したマルセル・ブロイヤーがモデルに近いのではないかと思う。登場する作品は架空のものだが、バウハウスのデザイン思想に沿っている。たとえば、主人公が読書用椅子のデザインをするが、マルセル・ブロイヤーが始めたパイプ家具の考え方を踏襲している。

映画の最後に主人公の設計した教会が出てくる。これも実際にはない架空の建物だが、礼拝堂のデザインがコンクリート打ちっぱなしの飾り気のない、まさに「ブルータリズム」の建築だ。人間を圧迫するように取り囲んでいるのは強制収容所の壁であり、天窓から差し込む光は、救いを求めて祈る神の存在を象徴している。

この空間の天井の中央に十字架の形をした隙間がある。ここから差し込む太陽の光が床に当たって十字架を形作る。

この光の十字架は、同じくブルータリストの安藤忠雄の教会(大阪府茨木市のキリスト教会)のデザインを思わせるが、監督は、安藤忠雄からインスピレーションを受けたと言っている。

安藤忠雄の「光の教会」


2026年9月14日月曜日

宇宙軍

 Space Force 

「宇宙」が科学研究の対象だった時代は過ぎて、今では宇宙技術は重要な軍事技術になった。ウクライナ戦争でも、監視衛星や通信衛星が活躍している。中国が衛星を撃ち落とす技術を開発したという報道もあった。だから今どき、衛星打ち上げや、月面探査などに昔ながらのロマンを感じる人はいない。

JAXA の宇宙技術も、安全保障分野への利用や、防衛省との連携が法律で規定されている。 先日も防衛省が、宇宙での情報分析をする「AI 衛星」を開発するという新聞報道があった。

アメリカでは数年前「宇宙軍」が創設された。陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、に続く6番目の軍種だ。在日アメリカ宇宙軍も配備されている。任務は、衛星による監視や、情報分析や、ミサイル攻撃の判断などを行う。


去年(2025年)「星つなぎのエリオ」というアニメが公開されたが、その中に創設されたばかりの宇宙軍がもう出てきたので驚いた。主人公のエリオ少年が宇宙に行って、悪い宇宙人をやっつけるという冒険物語だが、エリオの育ての親の叔母さんが宇宙軍基地の司令官の少佐で、基地の様子が出てきた。

映画でもうひとつ NETFLIX で「スペース・フォース」という宇宙軍を題材にしたシリーズドラマが配信されている。

創設された宇宙軍の最高司令官に任命された将軍が、宇宙のことをわかっていない素人だが威張ってばかりいて、部下の専門技術者たちから馬鹿にされている。月に宇宙基地を建設しろという大統領の命令を一生懸命に実現しようとするがトンチンカンなことばかりやって失敗が続き・・・

といった宇宙軍をバカにしたコメディ映画だが、実は宇宙軍を作ったトランプ大統領を批判する皮肉が込められているとされている。