2026年5月29日金曜日

「名所図会」での各地名産品の解説

Local specialty product

江戸時代の観光ガイドブック「名所図会」には、名所旧跡だけでなく、それぞれの地における人々の暮らしぶりや仕事などが描かれている。文章の説明はあまりなく、絵による視覚情報がほとんどだった。絵師たちは必ず現場で取材しスケッチをしたので、現場の雰囲気がリアルに伝わってくる。その中で各地の名産品を作っている製造工程を説明している絵がたくさんある。細部まで克明に描いているので文章説明なしでもよく理解できる。(図は「江戸の旅  名所図絵の世界」(深光富士男)から)


⚫︎「浅草海苔」:「江戸名所図会」
江戸中期には、海苔の養殖技術が発達して、大森や品川の海で量産体制が確立されていた。江戸の海苔は「浅草海苔」というブランド名で、人気商品として広く流通した。 この絵は海苔の製造工程を克明に描いている。左上で海の中に木の枝が立っているが、これは海苔の種を付着させて育てるもの。左には男が海で取ったばかりの海苔をカゴで運んでいる。中央下では男が海苔を包丁で細かく刻んでいる。その向こうでは海苔を漉いて、干している。右下の屋内ではパートのおばさんらしき女性が、出荷の梱包をしているようだ。左中央は看板のある店舗になっていて、製造直売店になっている。奥の座敷で家族とお茶を飲んでくつろいでいる男は社長だろう。従業員に仕事を任せて余裕の表情だ。


⚫︎「高野豆腐」:「紀伊国名所図絵」
高野豆腐はもともと氷豆腐と呼ばれ、寒中に豆腐を屋外で凍らせ、乾燥させる食品だ。高野山の僧が作り始めたので、高野豆腐と呼ばれるようになった。高野豆腐作りの一連の工程を目で追えるように見せている。


⚫︎「獣皮販売」:「木曽路名所図会」
木曽の山中では、熊、猪、鹿などの狩猟が盛んだった。木曽路沿いに獣の皮を売る店が連ねている。獣の毛皮が軒下に吊るされ、店先に獣の足が無造作に置かれている。生捕りにした熊を檻に入れて展示している店もある。左の店では、熊の胆嚢を乾燥させて作った熊担(くまのい)を店主が客に勧めている。


2026年5月28日木曜日

江戸時代の旅のグルメガイド

Gourmet Guide 

江戸時代に各地の観光ガイドブック「名所図会」がたくさん出版されたが、今の観光ガイドがグルメ情報を満載しているように、当時の「名所図絵」も美味しい店をたくさん紹介している。「名所図会」の研究書『江戸の旅  名所図絵の世界』(深光富士男)からいくつかを紹介する。

関西地方の観光ガイド「摂津名所図絵」に、大阪にある「すな場」という名前の蕎麦屋が出てくる。大規模な店で、客がいっぱいで繁盛している。庭に縁台のようなものがたくさん並んでいて。客はその上で蕎麦を食べている。店内では蕎麦を打ったり、茹でたりしているたくさんの職人が忙しく働いている。女性の店員が縁台の客へ蕎麦を運んでいる。


この場所は現在の大阪市西区新町で、豊臣秀吉が大阪城を築く際に、資材の砂が置かれていた「砂場」だった。たくさんの土木工事関係者が働いていたので、彼らの食事用に蕎麦屋が営業していた。砂場の店なので店名も「砂場」と呼ばれるようになった。今でもあちこちに「砂場」という名前の蕎麦屋を見かけるがそのルーツだった。


「東海道名所図会」にでてくる東海道五十三次のひとつ草津宿の餅を食べさせる店。旅人の楽しみといえば、休み処で一服し名物を食べること。ここは「うばもち」という餅の店で、うまいと評判の店だった。手前の東海道に面している店で旅人が餅を食べている。奥の座敷では武士の一行が庭を眺めながらくつろいでいる。



これらの例でわかるように、「名所図会」は庶民の姿を写実的にいきいきと描いている。絵の細部を隅々まで見ていると飽きない。現在の観光ガイドのような通り一遍の内容とは違って、絵師が徹底的に現地取材している。その点、まるでミシュランなみだ。

「東海道五十三次」の広重はいくつかの作品で、自身で現地へ行かず「名所図会」を参考にして描いていたことが現在の研究でわかっているという。この「草津宿」もそうで、上の「名所図会」の「草津宿」を参考にして建物の形などを描いている。しかし、「名所図会」では俯瞰する2点透視図のダイナミックな構図だが、広重は建物を正面から見る斜投影図で、ダイナミックさがない。人々の表情もあまり生き生きと描かれていない。



2026年5月27日水曜日

「Make America Great Again」レーガンとトランプ

「Make America Great Again」 Reagan & Trump

前回、ケネディ暗殺事件について書いたが、ついでにもうひとつ1980 年のレーガン大統領の暗殺未遂事件について面白い話がある。以下は「大統領とハリウッド」(村田晃嗣)より。

レーガンは演説会場のホテルを出た瞬間、至近距離から銃撃された。胸を撃たれて重傷を負い、多量の出血でシャツは真っ赤になっていた。しかし病院に搬送されると、なんとズボンのシワを伸ばし、ジャケットのボタンを止めてスックと立ち上がった。そして救患用入口へ自力で歩いて行った。しかし病院に入った瞬間に崩れ落ちて、意識不明になった。ところが病室に入ると意識を取り戻す。そして患者の手を握る女性看護師に「ナンシー(妻)には内緒だよ」とつぶやいたそうだ。

生死の境にあってもレーガンは、ユーモアを失わなかった。まるで映画のエピソードのように自らを演出した。レーガンは元ハリウッド俳優で、勧善懲悪的な B級映画で強い男を演じていたが、その自分のイメージどうりに演じた。 これによって大統領としての人気を確立した。

そのマッチョな「強い大統領」のイメージを利用して、「強いアメリカ」の威信をとりもどうそうとする、「Make America Great Again」を掲げた。

つまり今、トランプ大統領が掲げる「Make America Great Again」はレーガンの焼き直しなのだ。そしてトランプが銃撃を受けた時、立ち上がって拳を振り上げて「強い大統領」を演じたのもレーガンを真似している。


2026年5月26日火曜日

アメリカ大統領の暗殺

 Presidential Assassination

先日のニュースで、トランプ大統領の3回目の銃撃事件がまたあった。アメリカ史上、暗殺された大統領はリンカーやケネディなど4人いて、暗殺未遂事件があった大統領は、レーガン、ブッシュの2人だそうだ。

この6人には共通したことがある。それは大統領に就任した年が 20 で割り切れること。それぞれの就任式の年を調べてみると。
 1860 リンカーン(暗殺)
 1880 ガオフィールド(暗殺)
 1900 マッキンリー(暗殺)
 1960 ケネディ(暗殺)
 1980 レーガン(未遂)
 2000 ブッシュ(未遂)

見事に合っているが、このジンクスを「テカムセの呪い」というそうだ。ではトランプ大統領の就任はどうかというと、1期目が 2016 年で、2期目が 2024 年だから、暗殺で死ぬことはなさそうだ。


以上は雑学的知識だが、この中のケネディ大統領暗殺は思い出がある。ケネディが暗殺されたのは 1963 年だが、この年は TV の衛星中継が始まった年だった。始まるその日、TVをつけて待っていると中継放送が始まったが、いきなり映し出されたのがケネディが撃たれるシーンだった。あまりにぴったりのタイミングだったので一瞬ドラマかと思ったが、そんなことはなかった。ケネディ暗殺をリアルタイムで見た思い出だ。




2026年5月25日月曜日

小説「後継者たち」

 「The Inheritors」

「後継者たち」を数年ぶりで再読。ウィリアム・ゴールディングが 1954年にノーベル文学賞を受賞した作品。前々回書いた映画「蝿の王」の原作(小説も同名の「蝿の王」)に次ぐ作者の第2作目で、「蝿の王」と同じ思想が底流にある。

初めの人類はネアンデルタール人だったが、5万年くらい前に滅亡して現在の人類種であるモサピエンスに交代したが、この小説はその人類交代の始まりを描いている。

小説は、ある架空のネアンデルタール人とその仲間の物語で、彼らは純真で無垢そのもので悪意というものが全くない。仲間どうしが助け合う平和な生活を送っている。そこへ「新しい人」(ホモサピエンス)がやってくる。彼らは格段に優れた知能と技術を持っていて、ネアンデルタール人の住む食べ物が豊富な土地に侵入し、生活圏を奪っていく。

ネアンデルタール人は、川にさえぎられた狭い地域に住んでいて外へ出ることができない。ところが「新しい人」たちは川を丸木舟に乗ってやってきた。それを見てネアンデルタール人はびっくり仰天する。この小説で面白いのは、「新しい人」たちが丸木舟を作る過程を詳しく書いていることだ。太い木を切り倒して枝を払い、小さい丸木をローラーにして転がして運び、川のそばで幹の中をくり抜いて丸木舟にする。それを複数の人間が協力し合ってやる。それはネアンデルタール人には思いもつかなかったことでただ茫然と見ている。

舟を作りはじめる時リーダーは「頭の中に絵が見える」と言う。つまり、この世にまだ存在していない舟というものを頭の中で想像し、その形を実際の物として作ってしまった。まさにこれは「デザイン」だ。ネアンデルタール人は実際に眼で見える物、手で触れる物しか認知できないが、ホモサピエンスは実際に存在しない物を頭の中に思い浮かべることができるようになった。この脳の働きの変化は「認知革命」と呼ばれている。

ホモサピエンスの認知革命によって、現在に至る文明の発展をもたらしたが、同時にそれは欲望と征服という悪をもたらした。丸木舟は空母や潜水艦に発展し、戦争ばかりの現代に繋がっている。それがゴールディングがこの小説で言いたかったことだ。


2026年5月24日日曜日

江戸の観光ガイドブック「名所図絵」

 Tourist Guidebook in Edo

観光旅行ブームだった江戸時代には、「名所図絵」という観光名所のガイドブックがたくさん出版されていた。「伊勢参宮名所図絵」「善光寺名所図絵」「金毘羅参詣図絵」「東海道名所図絵」などなど日本各地の有名観光地はすべてカバーされていた。それは現地の雰囲気をイラストで表現していて、現在のインスタ映え的な写真ばかりのガイドブックとは違う生き生きとしたしたものだった。それらを紹介した『江戸の旅  名所図絵の世界』からいくつか紹介する。


「大和名所図絵」の中の奈良の春日大社の光景。今現在も、奈良公園(一部は春日大社境内)で観光客が鹿に鹿せんべいを与えているのが普通の光景になっているが、すでに江戸時代から今と同じだったことがわかる。茶屋で観光客が鹿に鹿せんべいをあげている。左側に茶屋の店主が湯を沸かしている。左下には子供が紙を鹿にあげようとしているが、母親がその子の帯をさりげなくつかまえながら隣の女性と話している。



「江戸名所図絵」のなかの一枚で、人々が行き交う賑やかな商店街を描いている。店は「薬種店」という看板があるから、ドラッグストアのような店だろうか。「図絵」は編集プランナーがいて、専属の絵師がイラストを担当した。この「江戸名所図絵」は全7巻 20 冊 だったそうだ。



「河内名所図絵」のなかの「河内木綿」という一枚。今の大阪府八尾市は河内木綿という木綿の名産地だったそうだ。中央に木綿を織る女性が見える。左には、店主が反物をを見せながら商談をしている。右には糸車を運んできた娘がいる。人々の生活をいきいきと描いている。



京都名所案内「都林泉名勝図絵」の仲の高級料亭「角屋」の風景。冬の雪景色を描いている。中央の大座敷で宴会をやっている。右の小座敷にも別のグループがいる。二階のベランダから雪景色を眺めている人がいる。手前の庭では雪だるまを作ったり、雪投げをしている。




2026年5月23日土曜日

映画「蝿の王」

 「Lord of the Flies」

前から気になっていた映画「蝿の王」を DVD で見た。登場するのは子供達だけだが、決して気持ちのいい映画ではない。むしろ"いやーな感じ"の映画だ。ストーリーはこんな感じ・・・

船が遭難して少年たちが無人島に漂着する。子供たちは陸軍幼年学校の生徒で、頭がよくて規律を身につけた子供達だ。彼らはサバイバルのために一致団結しようと、リーダーを決め、規則を作り、仕事の役割分担を決める・・・

ところが些細なことからいさかいが始まり、二つのグループに分裂してしまう。秩序は崩壊し、権力闘争になっていく。やがて暴力を振るい合う抗争になり、ついに殺し合いになってしまう・・・

映画の原作は、イギリスの作家 ウィリアム・ゴールディングで 1983 年にノーベル文学賞を受賞している。ゴールディングは大戦中に従軍した。ナチスによるユダヤ人大虐殺を目の当たりにしたことから彼の思想が出来上がった。彼はこう言っている。『虐殺をやったのは、未開の首狩り族ではない。文明の伝統を背負った教養のある人々が、冷静に行なったのだ。社会制度の影に隠れている人間の強欲さや残虐性がむき出しになったのだ。』

こう書けばこの映画は、ゴールディングの思想を、極限の状況に置かれた子供たちの物語に置き換えたアレゴリーであることがすぐにわかると思う。見た人は自分のうちに潜んでいる人間悪を見せつけられた思いがする、