2024年4月8日月曜日

映画「黒い太陽 731」

「Men Behind the Sun」 

映画「オッペンハイマー」は、原爆という非人道的兵器を作ったことで、自責の念にとらわれる科学者オッペンハイマーを描いている。このような「科学者と倫理」の問題は日本にもあった。


戦時中の、科学者たちの研究組織「731 部隊」だ。細菌兵器を開発する目的で、さまざまな非人道的な実験が行われていた。隠蔽工作のおかげで永らく実態が闇の中に葬られていたが、近年その全貌が明らかになってきた。「七三一部隊と大学」という最近出た本は、部隊の実態を詳細に調べている。中国のハルピンにあった研究所に集められた数十人の京都大学医学部の優秀な科学者たちが活動していた。研究を指揮したのが部隊長の石井四郎で、京都大学医学部教授、医学博士、陸軍軍医中将、などの肩書きを持つエリートだ。


この七三一部隊の実態を映画化したのが、「黒い太陽 731」(1988 年、香港映画)だった。中国人を実験台に使って様々な生体実験をする。十字架に縛り付けて、空から細菌を振りまいて、兵器としての実効性を調べたり、感染した人間を生きたままベッドに縛り付けて、麻酔もかけないまま、身体を切り開いて内臓を取り出す生体解剖、などアウシュビッツ顔負けの非人道的医学研究だった。


やがてソ連軍が進攻してきて、日本の敗戦がはっきりすると部隊は撤退するが、あらゆる証拠を隠滅する。研究資料を焼却し、実験用の中国人は全員銃殺し、施設は爆破する。そして部隊長の石井四郎は日本に帰っても部隊のことは一切口外しないように厳命する。

ナチスドイツで同じく細菌兵器の研究をしていた医学者たちはほとんどが戦犯として死刑になったが、石井四郎の場合は連合軍に逮捕されることなく、東京裁判にかけられることもなかった。なぜか。それは部下には焼却するよう命じた研究資料を自分だけは密かに持ち帰り、それを細菌兵器の情報を欲しがっていた米軍に渡して、引き換えに逮捕を免れたのだ。そして研究者たちは何事もなかったかのように大学の医学部教授に復帰した。

戦後、オッペンハイマーは核兵器開発に反対したため、政府から反米科学者の烙印を押され、すべての公職から追放された。それほど原爆を作ったことへの自責の念が強かった。しかし、731 部隊の科学者たちはそうではなかった。

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