2019年6月28日金曜日

クリムト展と映画



都美術館の「クリムト展」は大人気で、入場するのが大変のようなので、同時開催中の国立新美術館の「ウィーン モダン  クリムトとエゴン・シーレ 世紀末への道」展の方を観た。こちらの方は、クリムトだけに限らず、ウィーン分離派が起こした芸術の革命運動の全体像をつかむことができるのでおすすめだ。

これらの展覧会に合わせて、ミニシアターなどで公開されている映画「クリムト  エゴン・シーレとウィーン黄金時代」もクリムトに関心のあるむきには大おすすめ。

邦題は明るい繁栄の時代をイメージさせるが、原題の「Klimt & Schiele Eros and Psyche」の方が内容に沿っている。19 世紀末、旧来の価値基準が崩れてしまった混沌とした時代に、フロイトなどの、性(Eros)と精神分析(Psyche)の考え方が出現する。そういう雰囲気の中で、分離派の運動は、今までの芸術をぶち壊そうとする。そういう視点で見ると、クリムトやエゴン・シーレの絵画がよく理解できる。

このドキュメンタリー映画は、そういう芸術と、その底流にある時代の変化を立体的に解説してくれている。

2019年6月25日火曜日

日台絵画交流展

Japan-Taiwan Painting Exchange Exhibition


台湾と日本で交互に開かれる「日台絵画交流展」は、今年は東京展で、 6 / 27 から始まる。日本側で一人だけパステル画で参加しているが、台湾側は全員パステル画という面白い会。出品用の絵を仕上げた。

Soft Pastel,   Canson Mi-Teintes Paper,   30 cm × 36 cm

2019年6月23日日曜日

ヴィクトリア & アルバート ミュージアム

V & A  Museum

「女王ヴィクトリア  愛に生きる」というドラマを観ていたら、思い出したことがある。

ヴィクトリア女王時代の 19 世紀、イギリスは産業が発展し、世界一の強国として繁栄した。ドラマは、夫のアルバートと二人三脚で国の発展を導いていく若い頃の女王を描いている。発明されたばかりの蒸気機関車にお忍びで乗る場面がある。保守派の反対を押し切って、産業革命を後押ししていくことになる象徴的なシーンだ。

ロンドンにある「V & A  ミュージアム」は、デザインの強化によって産業振興をはかろうとして二人が作ったミュージアムがもとになっている。 35 年も前のこと、このミュージアムの企画展に若干関係したことがあったが、「V & A 」が、昔の女王と夫の名前「ヴィクトリア & アルバート」を意味していることなど知らなかった。このドラマを観ていて、そのことに初めて気がついた。

日本の電気製品が世界を席巻していた当時、そのデザインを紹介する企画展だったが、パンフレットに載っていた浮世絵風イラストが面白かった。かつてウィリアム・モリスが目指したような「芸術とテクノロジーの融合」によってイギリス産業の復活を、という V & A の理想を日本に託して表現したかったようだ。

2019年6月20日木曜日

パステルで静物画「チンザノ」

"Cinzano"

だいぶ前に描いた絵だが、ある展覧会に出すことになり、大幅に加筆した。

チンザノのボトルはイタリアらしい華やかさで、眺めているだけでも楽しい。より賑やかにするために、チンザノのポスターを画中画に使おうと思い検索したら、ぴったりのが見つかった。


Soft pastel,  Canson pastel paper,  52cm × 45cm

2019年6月18日火曜日

「江戸の凸凹」展の「近像型構図」

Exhibition "Walking the hills and valleys of Edo"

「江戸の凸凹」展を見ていると、こんな絵にとくに目を引かれる。風景の手前に大きく物を配した構図の作品が数多くあり、下は中でも極端な例。(太田記念美術館、~ 6 / 26 )


こういう浮世絵独特の構図は「近像型構図」と呼ばれる。西洋の線遠近法とは違うやり方の、遠近感を表現する方法だった。浮世絵が西洋絵画に与えた影響はいろいろあるが、この構図はその一つだった。今回あった広重の「鉄砲洲」は船の帆柱が画面を縦に横切っているが、モネの「ポプラ並木」はその影響を受けた例。風景の中から幾何学的図形要素を抽出して手前に大きく浮かび上がらせること、それを画面フレームで途中で断ち切ることで遠景との距離感を強調すること、そういう広重のエッセンスがモネの絵に盛り込まれている。

2019年6月16日日曜日

「江戸の凸凹」展と、広重が描く坂道

Exhibition "Walking the hills and valleys of Edo"

「 江戸の凸凹   - 高低差を歩く- 」展が面白い。東京は丘陵や低地などの高低差が随所にある都市だが、その風景の特徴を描いた広重の絵ばかり数十点を集めている。(太田記念美術館、~ 6 / 26 )

高台・崖・渓谷・川・坂道、などのモチーフが多いが、その中で坂道がどう描かれているかを見てみた。浮世絵の坂の見方がわかって面白い。
遠景の坂道
手前の大きいい崖のおかげで、遠くにある坂道の距離感を強めている。ちなみに近景に大きく何かを描くのは「近像型構図」と呼ばれ、浮世絵が洋画に影響を与えた特徴の一つだった。
横から見る坂道
自身も坂の途中にいるが、視線は横を向いていて、坂道を通る人たちを描いている。透視図的でなく、いわば投影図的に坂を描いているから、遠近法なしでも坂道の傾きを表現できる。
見えない坂道
高低差のある地形を高台から見ている。坂道(階段)そのものは見えていないが、後から登ってくる人の頭だけを描いて、急勾配の坂を暗示しているのがしゃれている。
見通す坂道
建物の土台が道路と平行でないことから坂道であることがわかる。しかし建物の消失点に対する意識がないので坂道感が弱い。





上のような、向こうへ続く坂道を見通す構図は、浮世絵ではあまり多くないようだ。洋画ではそれが普通だが、それで坂道を表現できるのは遠近法のおかげ。(図は「How To Use Creative Pespective」より)


2019年6月14日金曜日

自撮りを自撮り?



東京都美術館の前にある、おなじみの鏡面球体のオブジェに左手を触れながら撮った。凸面鏡の効果で左手が巨大になる。エッシャーの自画像を思い出して真似してみた。


2019年6月12日水曜日

山手の洋館「イギリス館」でみつけたピクチャレスク絵画

British Consular Residence & Richard Wilson

横浜山手の洋館「イギリス館」は、1937 年築のイギリス総領事公邸だった建物で、まわりの洋館と違って、大英帝国の威厳を誇示するかのような佇まいがある。屋内の建具や家具なども英国建築風の重厚さに満ちている。そして居間に飾られていた2枚の絵が目を引いた。これはイギリス特有のスタイルとして大流行したピクチャレスク絵画ではないかと思った。



ピクチャレスク絵画は、イタリアの風景をモチーフにしながら、古代と現在の風景を空想で混ぜ合わせて、ノスタルジックな理想の風景を描いたもの。18 世紀のイギリスでイタリア旅行が大流行したことが背景にある。リチャード・ウィルソンはその大御所だった人で、イギリスの風景画に大きな影響を与えた。右はその代表作。上の2枚も彼の作品ではないかと思い検索したが、見つからなかったものの、構図や色調がそっくりなので、可能性はあると思う。

2019年6月10日月曜日

ポーランド・ポスター展

Poland Poster Exhibition


神奈川県立近代美術館(葉山館)は、相模湾を一望の素晴らしいロケーションだが、企画展もいいものが多い。今は「ポーランド・ポスター展」をやっている。ポーランドから寄贈された同館所蔵の、1950 ~ 1970 年代の名作が並ぶ。ユーモラスでシニカルな人間味あふれるポスターは「ポーランド派ポスター」と呼ばれた。( ~ 6 / 23 )

同時代、ポーランドと同じくらいのポスター大国だった日本で活躍していた亀倉雄策、田中一光、杉浦康平、などを思い出したが、みんなポーランドとは対照的に、幾何的構成がメインだったことに改めて気付いた。


2019年6月8日土曜日

日本水彩展

Japan Watercolor Exhibition 2019


いつもながらレベルが高い。何人かの知り合いの出品もあったが、Mさんは大きい賞を受賞していた。(東京都美術館、~ 6 / 13 )

この展覧会は、各作品のテーマも表現も多種多様で、観ていてとても刺激を受ける。他の公募展よりも作品数が桁違いに多いのに、低レベルの作品が一つもないということは、ハードルが高くて、かなりの落選者がいるのだろう。

2019年6月4日火曜日

「横浜地方気象台」と安藤忠雄

Yokohama Local Meteorological Office

横浜山手の外人墓地の向かいにある「横浜地方気象台」は、お役所の建物だから地味だが、1927 年築で、 現存するアール・デコ建築の名品とされている。まわりの洋館のように、観光客で賑わうこともなく、ひっそりとしている。

2009 年に新館が増築されて、本館と渡り廊下でつながっているが、両方とも現役というのが立派。新館を設計したのが安藤忠雄で、本館の造形をモチーフに使っているので、100 年近い差を超えて、二つは違和感なく並んでいる。新館(写真下)は、本館(写真上)の窓のプロポーションや配列、窓上部の階段状の飾りなど、そのまま踏襲している。安藤忠雄の、歴史的建造物に対するリスペクトが感じられる。



2019年6月2日日曜日

自動車が輝いていた時代のシド・ミードを懐かしむ

Syd Mead

シド・ミード展が今日(6 / 2)で終わったが、改めて彼が描いてきた時代を振り返ってみた。1960 年代の最初の画集「INNOVATIONS」は US スチールがスポンサーの広報誌的な性格があった。製鉄と鉄の応用製品である自動車の技術革新がもたらす明るい夢の未来を描いていた。(写真は「INNOVATIONS」より)

鉄鉱石の採掘現場を技術者が訪れたシーンだが、
乗ってきた自動車が、1960 年代に描かれたにしては超未来的。

建設現場で働く未来的なトラックをデザインしているが、
スタイルだけでなく、先進技術が盛り込まれている。

夢の自動車のもたらす豊かな生活シーンを描いているが、
この形を可能にするのは鉄板の生産技術の革新による、と説明されている。


しかしその後、自動車は環境問題や都市問題の元凶とされ、夢の存在ではなくなっていった。その象徴が映画「ブレードランナー」で、シド・ミードが描いたのは、酸性雨の降りしきる、頽廃的で終末的な暗い雰囲気の都会を走るパトカーだった。自動車が輝かしかった時代は終わってしまった。(写真は「Oblagon」より)

「INNOVATIONS」から 50 年経った今、製鉄産業のピッツバーグも自動車産業のデトロイトも「ラスト・ベルト」と呼ばれる "錆びた地域" になってしまった。それをトランプ大統領が関税を武器にして復興しようとやっきになっている。