2020年6月29日月曜日

今話題のパンデミック映画「コンテイジョン」

「Contagion」

緊急事態宣言が出されたのと同時くらいに、レンタルビデオで「コンテイジョン」を予約をしたが、今だに順番が回ってこない。大人気の「アホノマスク」でさえ、たった3ヶ月で届いたのに、それを上回る人気のようだ。やむなく自分で DVD を購入した。

「コンテイジョン」は「感染」という意味。9年前(2 0 1 1 年)の映画だが、今コロナで世界中で起きていることとそっくりそのままで、予見していたかのようだ。しかも科学的な考証に基づいた内容なので、ドキュメンタリー映画のようなリアリティがある。

感染爆発、パンデミック、医療崩壊、都市封鎖、情報隠蔽、パニック、買い占めや略奪、など。また WHO が特定の国と政治的にくっつくことや、世界最強の防疫組織 CDC が無力であることや、自国の利益しか考えないワクチン開発、などの生々しい話も出てくる。ラストシーンで、感染経路を外国まで追っていった医師がついに発生源にたどり着く。その場所も今回のコロナにそっくり似ているので驚く・・・

2020年6月27日土曜日

光が美しいチェンバレンの水彩画

Trevor Chamberlain


チェンバレンの絵は光が美しい。最近、あるFB友がチェンバレンの絵の模写を投稿していたので、久しぶりに3冊ある画集をじっくり眺めてみた。水彩画は、形や色の表現よりも、光を描くことに絶対の強みがある。チェンバレンはそのことに徹している。




その人が模写した「照り返す光」のチェンバレンの原画。真夏の太陽が照りつける砂浜の明るさが3槽のボートに照り返している。


「雨傘」というプラハの街を描いた絵。雨粒を通してぼんやりと光る湿った空気を描いている。水墨画にも通じるような気持ちのいい空気感が伝わってくる。

2020年6月25日木曜日

西洋の魚の絵と高橋由一の「鮭」

Allegory of Fish

キリスト教がまだローマ帝国の迫害を受けていたマイナー宗教だった頃、信者が一本の円弧を描くと、もう一人が2本目の円弧を加えて魚の図にした。これが信者同士の合言葉だったという。

魚がキリストのシンボルとされたのは、ギリシャ語で、「イエス、キリスト、神の、子、救い主」という言葉の頭文字をつなげると、「魚」という文字になることからきたそうだ。だから宗教画にはよく魚が登場した。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のテーブルの料理は拡大すると魚料理であることが分かるそうだ。 1 7 世紀の寓意画が盛んだった頃の絵には魚のモチーフがよく使われた。この「魚売りの老夫婦」も宗教的な寓意が込められているという。


高橋由一の「鮭」は日本初の西洋画として有名だが、これについて荒俣宏が面白いことを言っている。もし当時、魚の寓意に慣れている西洋人がこの絵を見たら、魚が半分身を切られてぶら下げられているから、十字架にかけられたキリストの処刑の図であると思って、ひれ伏して涙を流しただろうという。もちろん高橋由一自身はそんなつもりはなく、単純な静物画として描いている。見る側も単にリアルな絵だと感心して見ていた。日本では、絵とは純粋に「見る」もので、そこから何かの言語的な意味を「読み取る」ようなものではなかった。

2020年6月23日火曜日

映画「エジソンズ・ゲーム」

The Current War

数ヶ月ぶりに再開した映画館で観た第一号。

電球を発明したのはエジソンだが、各家庭に配電するシステムを作ったのはウェスティングハウスだった。あの名門「ウェスティングハウス」の創業者だ。原題の「The Current War」どうり、直流方式のエジソンと、交流方式のウェスティングハウスが送電システムの世界標準を争ってバトルを繰り広げる。

3年前ウェスティングハウスを買収した東芝が経営破綻したが、原発事業でつまずいて巨額赤字を抱えていた同社を高値で買ったせいだった。

映画にテスラというエンジニアが出てきたのにはびっくりした。あの「テスラ」の創業者なのだ。テスラがそんなに古い会社だったとは知らなかった。テスラは画期的な発電機を発明する。そしてウェスティングハウスと組んで「電気の時代」を
作り上げる。それが現在のテスラの電気自動車に
つながっていくのだから、”時代はめぐる”だ。

2020年6月21日日曜日

ゴッホの人物デッサンの練習 Before & After

Gogh's figure drawing

ゴッホの若い頃のデッサンだが、ゴッホとは思えないほど下手だ。もともと牧師になるつもりだったが、神学部の入試に失敗して画家に転身しようとする。最初の2年間くらいは、独学でひたすらデッサンの練習をしたという。初めのうちは、輪郭とプロポーションばかりに意識がいってしまい、モデルの表面をなぞっているだけのデッサンになっている。






デッサンとは何かをつかむと、細部にとらわれず、大きく全体を捉えたデッサンになっていく。

2020年6月19日金曜日

「世界史を変えたパンデミック」

A History of Pandemic

コロナを機に感染症関係の本をいろいろ読んだが、いちばん面白かったのが「世界史を変えたパンデミック」だ。日本に関係する部分からちょっとだけ紹介。

戦争中、アメリカでペニシリンという強力な薬ができたという噂が入るが、ドイツも日本も交戦国だから詳しい情報が入ってこない。それで自国で独自開発しようと研究が始まる。ドイツはなかなか成功しないまま敗戦を迎えてしまったが、日本は研究者を総動員して敗戦の一年半前くらいに完成させ量産もしていた。おかげでたくさんの負傷者の命を救えたという。

ドイツは、撃墜した米軍戦闘機のパイロットの救急バッグからペニシリンを回収していたそうだ。しかしそんな少量を兵士に使うわけにはいかない。ヒトラーの暗殺計画事件(映画にもなったワルキューレ事件)で重傷を負ったヒトラーにそのペニシリンを初めて使った。おかげでヒトラーは一命をとりとめた・・・

2020年6月17日水曜日

情報を見える化する「インフォグラフィックス」の力

Infographics

噂やデマなどの誤った情報が蔓延する「インフォデミック」は、正しい情報が「見えない」ことから生じる。コロナでも何かにつけてモヤモヤ感が広がるのは、国や専門家から明確な情報が発信されないからだ。過去の歴史では、正しい情報を科学的に把握して、それを「見える化」して伝える「インフォグラフィックス」が力を発揮した例がいくつもある。

ナイチンゲールは看護婦として有名だが、実際はもっと大きい功績を残している。従軍看護婦として野戦病院に勤務していた時、あることに気付く。戦傷で死ぬよりも、それとは関係のない病気で死ぬ患者の方が多かったのだ。実はナイチンゲールは大学で統計学を学んでいたので、死亡者の詳細なデータを取り始めた。それにより、死者を減らせる方法を突きとめる。まだ細菌やウィルスなどが知られていない時代だったが、部屋の換気や、消毒の徹底、衛生状態の改善など、今では常識だが当時としては画期的な感染防止対策を実行した。それによって驚異的に死亡率を減らした。その結果を政府に報告して、病院の改善を提案した。その時の報告書に載せたのが、月ごとの死者の死亡原因を可視化した有名な図で、形から「トサカ図」と呼ばれた。この「インフォグラフィックス」による「見える化」の説得力は強力だったので、国を動かすことに成功する。数字の羅列だけだったらそんな効果はなかっただろう。

1 9 世紀のロンドンでコレラが発生し、死者が爆発的に増えた。市は医師のジョン・スノウに原因の調査を依頼する。彼は死者の住所を地図上にプロットしていった。すると、ある特定の場所に集中していて、その中心に井戸があることに気付く。住民が飲み水にしている井戸が感染源ではないかとひらめいて、井戸を閉鎖すると感染がピタリと止まった。細菌の存在など知られておらず、コレラは悪い空気のせいだと思われていた当時、飲み水から感染することを発見したのだ。「インフォグラフィックス」の威力抜群だった。

「インフォグラフィックス」の教科書に必ず載っている有名な図がこの「ナポレオンのロシア遠征」だ。茶色の線の幅が、パリからモスクワまで進軍する間の兵力の推移を示している。出発時に 4 5 万人もいた兵力がどんどん減っていったことが分かる。原因はチフスの感染だった。進軍中はテントの中で身を寄せ合って夜営するので、まさに「3蜜」状態だから、感染して兵士がバタバタ死んでいった。フランス領内ですでに減り始め、ポーランドに着いたあたりで半分になっている。モスクワに着いて、かんじんの会戦が始まった時には4分の1以下の 1 0 万人にまでなっていて、撤退を余儀なくされる。ナポレオンが破れたのは「冬将軍」のためだとよく言われるが、真実はそうでなかったのだ。黒い線が復路の推移だが、さらに減り続け、パリまで生きて帰れたのはわずか5千人だった。

2020年6月15日月曜日

ヴァニタス ”むなしさ”の静物画

Vanitas

1 7 世紀オランダでは経済的な発展で、庶民が絵を買うようになり、絵は一般受けを狙うようになる。代表がフェルメールなどのような庶民の生活を描く「風俗画」だが、静物画でも「ヴァニタス」というジャンルが生まれた。「ヴァニタス」とは「むなしさ」の意味で、「生のはかなさ」「快楽の空しさ」「死の確実さ」などを想起させる人生訓的な絵画だった。

「ヴァニタス」では、死を象徴する頭蓋骨が必ず描かれた。他にも「むなしさ」を象徴するモチーフが組み合わされた。人生に限りがあることを意味する「時計」、知識や学問もやがて無価値になるという意味の古びた「書籍」、刹那的な人生を表す「楽器」、享楽的な生活を表す空の「ワイングラス」、炎が消えてしまった「ろうそく」、などなど。図像に言葉的な意味を持たせる絵画(寓意画)だった。

2020年6月13日土曜日

ブリューゲルの「死の勝利」

Bruegel

全人口の半分近くが死んだペストの恐怖から生まれたといわれる「死の舞踏」という絵画がたくさん描かれたが、ブリューゲルはさらに恐怖感のすごい「死の勝利」を描いた。骸骨を猛威を振るうペストに置き換えて見ると当時の人たちの恐怖感が分かる。

             骸骨に制圧され遠くに火が上がり、人間はわずかに抵抗しているが無力
骸骨に様々な方法で処刑される人間たち
骸骨軍団が棺桶を盾に進軍してくる。死んだ人間の頭蓋骨が荷馬車で運ばれている

2020年6月11日木曜日

「死の舞踏」ペストの恐怖から生まれた「メメント・モリ」の絵画

Memento Mori

1 4 世紀にペストが猛威を振るい、人口の半分近くが死んだことが、人々の死生感に大きな影響を与えた。「人は誰もが死すべき運命にあることを自覚して生きよ」という意味の「メメント・モリ」という哲学が生まれた。そしてそれをテーマにした絵画が生まれたが、必ず死の象徴としての骸骨が描かれた。



骸骨が人間を死へ導いていく「死の舞踏」。王侯貴族や聖職者も身分に関係なくいずれは死ぬという図で、一人一人に骸骨が取り付いてダンスをしている。

ペストの恐怖から、人々が集団ヒステリーを起こしている。楽器を奏でながら半狂乱で「死の舞踏」を踊り続けている。それを骸骨が導いてゆき、墓穴へ放り込んでいる。

ブリューゲルの「死の勝利」という恐怖の絵。死がすべての人間を打ち倒す様子を描いている。人々は黒装束の骸骨に襲われ、様々な残虐な方法で処刑されている。

「ヴァニタス」という静物画のジャンルが 1 7 世紀に流行した。ヴァニタスとは「空虚」という意味で、人生の虚しさと、人間が死ぬべき運命であることを示した寓意画。頭蓋骨が必ず描かれた。
「死の島」で有名なベックリンの「ヴァイオリンを弾く死者のいる自画像」は、近代版「死の舞踏」だろう。

背中に取り付いた骸骨がニタリと笑いながら音楽を奏でている。ベックリンはチフスにかかり九死に一生を得たが、家族を失った。

ベックリンは疫病と戦争によって文明が滅びるだろうというペシミスティックな終末論的世界観を持っていた。やがて実際に第一次世界大戦とスペイン風邪で何千万の人が死ぬことになる。この絵はその予言かもしれない。

2020年6月9日火曜日

アメリカの出来事と映画「国民の創生」

The Birth of A Nation

白人警官が黒人を殺す事件がまた起きた。しかし警官本人は社会正義を守るという使命感からやっている。そして警官を心情的に応援する人たち(トランプ大統領が典型)がたくさんいる。そのなぜ?が分かる映画がある。

サイレント時代( 1 9 1 5 年)の有名な映画「国民の創生」は極端な人種差別映画だった。このポスターから分かるように、黒人を虐殺する白人至上主義者たちを「正義の味方」として描いている。

南北戦争で分断された北部民と南部民がひとつになって「アメリカ国民」が生まれるまでの歴史を描いている。南北戦争後に市民権を得た黒人を「民主主義を守る」ために白人が集団リンチする。映画はそれを美化している。黒人を排除することで、初めて一つの国民として団結できたというわけで、最初から黒人は「アメリカ国民」には含まれていなかった。

この映画は圧倒的な支持を得て大ヒットした。映画から、なぜ黒人を殺すのが正義になり、なぜそれが共感されるのかを理解することができる。そして今度のような事件からも、このような意識が今も人々の心の奥底で生き続けていることが分かる。

映画史上に残る名作とされるが、史上最悪とも言われるこの映画、一応は見ておこうというには、こちら→   https://www.youtube.com/watch?v=2Qcf7AvTuvM

2020年6月7日日曜日

1 7 世紀の医療用マスク

Plague Doctor

コロナのおかげで、この絵を最近見かけるようになった。ペスト(黒死病)の流行にたびたび見舞われたヨーロッパでは、ペストの治療を専門にする医者がいたそうで、その姿を描いている。

マスクは鳥の形をしていて、くちばし部分は空気浄化用の香料が入ったフィルターになっている。目の部分にはガラスがはめられている。マスクは顔全体を覆っているから、フェースシールドにもなっている。全身を覆う防護ガウンはワックスが塗られていて通気を遮断する。手に持っている棒は、患者に触れずに治療するためのもの。ウィルスの存在など知らなかった当時でも、現在と変わらない感染防止策をとっていた。それでも医師たちは感染して、死ぬ確率が高かったらしい。

この姿に似た鳥の怪物が、ヒエロニムス・ボスの絵に出てくる。(「幻想芸術」という本の表紙になっている。)地獄で人間を襲う怪物の一匹として描かれている。医学未発達の時代、魔除けのおまじない的な意味で、このような怪物としての鳥の姿を借りていたのだろう。医者といえども「医術」より「魔術」頼りだったようだ。

2020年6月5日金曜日

”死んだ都市”の絵(その8)ギーガー

Giger

有機的・生物的な高層ビルと、無機的・機械的な人間という、本来とは逆転した姿を描いている。そしてそれらが一つに合体している。A I やロボットの発達した都市が人間的な機能を持ち、逆に人間は都市というシステムの部品として組み込まれている。これからの都市文明のありようを暗示している。


2020年6月3日水曜日

”死んだ都市”の絵(その7)イヴ・タンギー

Yves Tanguy

シュール・リアリズムのイヴ・タンギーの代表作「孤の増殖」。都市を俯瞰しているが、動物か植物か鉱物か、それともウィルスか、何か分からないものが「増殖」して、地面を埋め尽くしている。人間的な生活のできる場所でなくなった現代都市のメタファーなのだろう。


2020年6月1日月曜日

”死んだ都市”の絵(その6)ベクシンスキー

Beksinski

ナチスドイツによるホロコーストを経験したポーランド人のベクシンスキーは、戦争による人間の死を、破壊された都市で表現した。市街戦で蜂の巣のようになった建物は、ただの岩の塊になっている。文明的なものが破壊しつくされた「終わりの世界」を描いている。