2020年6月25日木曜日

西洋の魚の絵と高橋由一の「鮭」

Allegory of Fish

キリスト教がまだローマ帝国の迫害を受けていたマイナー宗教だった頃、信者が一本の円弧を描くと、もう一人が2本目の円弧を加えて魚の図にした。これが信者同士の合言葉だったという。

魚がキリストのシンボルとされたのは、ギリシャ語で、「イエス、キリスト、神の、子、救い主」という言葉の頭文字をつなげると、「魚」という文字になることからきたそうだ。だから宗教画にはよく魚が登場した。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のテーブルの料理は拡大すると魚料理であることが分かるそうだ。 1 7 世紀の寓意画が盛んだった頃の絵には魚のモチーフがよく使われた。この「魚売りの老夫婦」も宗教的な寓意が込められているという。


高橋由一の「鮭」は日本初の西洋画として有名だが、これについて荒俣宏が面白いことを言っている。もし当時、魚の寓意に慣れている西洋人がこの絵を見たら、魚が半分身を切られてぶら下げられているから、十字架にかけられたキリストの処刑の図であると思って、ひれ伏して涙を流しただろうという。もちろん高橋由一自身はそんなつもりはなく、単純な静物画として描いている。見る側も単にリアルな絵だと感心して見ていた。日本では、絵とは純粋に「見る」もので、そこから何かの言語的な意味を「読み取る」ようなものではなかった。

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