2025年12月19日金曜日

デューラーの「メランコリア」と映画「メランコリア」

「MELANCOLIA」 

国立西洋美術館で開催中の「デューラー展」を観た。デューラーの3大書物といわれる「ヨハネの黙示録」「大受難伝」「聖母伝」のほぼ全点がそろっている。本でしか見ていなかった現物を見るのは初めてだ。ところが、なぜか一番見たかった「ヨハネの黙示録」のなかの一枚「メランコリア」だけがないのががっかりだった。


下がデューラーの最も有名な作品のひとつ「メランコリア」。女性が頬杖をついて憂いにふけっている。背中に羽根がついているのは天使の寓意で、知的な女性であること示している。手にコンパスを持っていて、足元には球や幾何形体などの物理学のシンボルが置かれていて、女性は天文学者なのだ。そして天には、惑星が光っていて、そばに惑星の名前「MELANCOLIA」という文字が示されている。天使の女性はやがて惑星が近づいてきて地球に衝突してこの世は終わることを知っている。そして鬱(メランコリー)になっている。聖書の「黙示録」はやがて地球が滅びて、人類はみな死ぬことを予言した終末の書だが、デューラーはそれを10 数枚の絵で視覚化した。この「メランコリア」はその一枚だ。



このデューラーの「メランコリア」にインスピレーションを得た映画が、ラース・フォン・トリアー監督の同名の映画「メランコリア」だ。この名作映画のストーリーは、こんな感じ。

主人公の女性は、優秀なコピーライターの知的な女性だが、結婚したばかりで結婚披露宴をやっている。ところがそのとき大変なことが起きている。惑星が地球に近づいていて、衝突しそうなのだ。しかしTVのニュースでは「惑星が地球に接近していましたが、どうやら軌道がずれて、地球との衝突は避けられそうです。」と言っている。パニックになっていた人々はそれを聞いて安堵する。ところが、主人公の女性は天文学の知識があって、その TVニュースは嘘だということを知っている。そして鬱の錯乱状態になっていき、新夫にも、披露宴に来ている友人や上司などにもわざと悪態をついたりして、自分の結婚披露宴をメチャメチャにしてしまう。どうせこの世が終わりになるのだからと、自分という人間も壊してしまうのだ。やがて惑星が刻々と近づいてきて天を覆うほどに巨大になる。女性と姉とその子供の3人は木の枝で作った形だけの”シェルター”に入って死を待つ。そして姉は恐怖に怯えているが、主人公の妹は平然としている。もともと地球は邪悪なものだから消えて無くなってもいいという心境なのだ。



以上のように、映画の「メランコリア」のストーリーは、デューラーの「メランコリア」と完全に一致していることがわかる。そしてデューラーの「メランコリア」は、聖書の「ヨハネの黙示録」に書かれている『松明のように燃える巨大な星が天から落ちてくる』を絵画によって視覚化している。この絵は「黙示録」の終末思想を最もよく表していている作品だ。

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