2026年8月31日月曜日

エットーレ・ソットサス展

 Ettore Sottsass

アーティゾン美術館で「エットーレ・ソットサス展」が開かれている。しかしあまり見に行く気にならない。

ソットサスは 1960 ~ 1970 年代にかけて、オリベッティの製品のデザインを手がけていた。機能主義のデザインだが、ドイツの機能主義と違ってイタリアらしい温かみのあるデザインだった。その頃のソットサスの製品デザインはデザインの教科書のような憧れの存在だった。

例えばこの「テクネ3」(1964年)というタイプライターは、端正な造形が美しい機能主義デザインの見本だった。


上はプロ用だが、こちらは一般コンシューマー向けのタイプライターで有名な「ヴァレンタイン」(1969年)。すこしポップなデザインだが、キャリングケース(愛称がバケツだった)にすっぽり入れて持ち運べる便利なデザインだった。パソコンがない時代で、自分でも買って使っていた。


大型コンピュータの「エレア9003」(1959年)は大型コンピュータだが、ディスプレーのように見えるのは操作パネルで、ボタンをグラフィカルに配置している。今の時代に普通になるGUI の考え方を先取りしていた。


「シンテシス45」(1970年)はオフィス用家具で、モジュールによるシステム家具のはしりだった。


1980 年代になると、世界的な「ポスト・モダン」の時流に乗って、「メンフィス」というグループを結成して一世を風靡する。それまでの機能主義を捨て、鑑賞用オブジェのようなデザインへ行ってしまった。


2026年8月30日日曜日

映画「マグニフィセント・セブン」

The Magnificent Seven 

「マグニフィセント・セブン」(2016年)は 10年ほど前の映画だが、 NETFLIX で配信が始まったのでさっそく見た。黒澤明監督の名作「七人の侍」を西部劇に変えたリメイク映画だが、なかなかよくできている。「七人の侍」は、七人の野武士が、野盗の軍団の襲撃から村を救うという物語だが、こちらでは悪徳鉱山会社の大軍団が住民の土地を奪おうと攻めてくるのを7人のガンマンが救うというふうに変えている。


「七人の侍」のリメイクといえば何といっても大ヒットした名作「荒野の七人」(1960年)が有名だが、これも原題は「The Magnificent Seven」だから、今回の「マグニフィセント・セブン」はリメイクのリメイクといえるかもしれない。


こういう歴史を見ると、改めて黒澤明監督と「七人の侍」(1954年)が、いかに世界からリスペクトされきたかがわかる。


2026年8月29日土曜日

「敗北を抱きしめて」(続きの続き)

 Embracing Defeat

第二次世界大戦後の日本人を描いた「敗北を抱きしめて」は、下巻の最後のページでこんな漫画を取り上げている。アメリカの占領が終わりに近づいた頃の加藤悦郎の漫画だ。

「占領」という檻から日本人が釈放され、「安保条約」と書かれた別の檻に入れられようとしている。その檻の鍵はアメリカ軍兵士が握っている。

この頃になると東西冷戦が激しくなり、朝鮮戦争も起きた。アメリカは、日本に再軍備を命令して、警察予備隊(自衛隊の前身)が生まれた。そして日本全土にアメリカ軍基地を張り巡らせた。「日本の非軍事化と民主主義化」という占領初期のアメリカの政策は逆転してしまった。この漫画はそんな日本の哀しい状況を描いている。

右は同じ加藤悦郎が戦後すぐに描いた漫画で、アメリカの占領軍が日本を軍国主義から救った解放軍として描いていた。このような「平和」と「民主主義」の理想を追求していた日本人の夢は同じアメリカによって打ち砕かれた。

その問題は 80年たった今も、憲法改正問題などのように未解決のまま続いている。同書の最後で著者はこう言っている。『日本の敗北とアメリカの占領は多くの遺産を残したが、同時に大きな問題を残した。しかしその問題はまだ何ひとつ決着をみていない。日本がどこに着陸するのか誰にもわからない。』


2026年8月28日金曜日

ドキュメンタリー「WHAT THE HEALTH」

What the Health 

ネットには高齢者むけの健康情報が溢れている。NETFLIX の「WHAT THE HEALTH」というドキュメンタリーを見ると、そんな情報を安易に鵜呑みにしてはいけないことがわかる。

医者は、健康にいい食事は、米などの炭水化物と、肉などのタンパク質と、野菜などのビタミンをバランスよく摂れと必ず言う。しかしこの番組は、肉や乳製品や卵などの動物性食品は、糖尿病やガンや心臓病などの原因になると警告している。

そもそもタンパク質は植物に最も多く含まれている。だから馬や牛などの草食動物はみな体が大きく強い。肉食動物はその草食動物を食べることで間接的にタンパク質を補っている。植物性食品は必要なすべての栄養素を含んだ完璧な食べ物だという。人間も動物性の食べ物をいっさい摂らず、植物性の食べ物だけを食べるのが最も健康にいいという。

しかし食品業界は、動物性食品の害について何も言わない。番組はそのことを食品業界にただそうとするが取材を拒絶される。そして糖尿病協会やガン協会や心臓病協会などの健康を守るべき医学団体にも取材を申し込むがやはり拒否される。医学団体は食品業界から多額の資金援助を受けているからだ。


2026年8月26日水曜日

「敗北を抱きしめて」(続き)

 Embracing Defeat

一昨日、ジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」について書いた。→
https://www.blogger.com/blog/post/edit/5842824525266145803/5499197433097563952


もう少し追加をすると、この本の序文で著者は、こんなことを書いている。

「この本の目的は、世界で最も苦しい敗北をした日本の人々が、敗戦後に直面した苦難を伝えることでことであり、同時に敗戦にたいして日本人がみせた多様で、エネルギッシュで、矛盾に満ちた、素晴らしい反応を描くことである。」

「日本人にとって敗戦は、自己変革のまたとないチャンスでもあった。「よい社会」とは何なのか。この途方もない大問題が敗戦の直後から問われ始め、この国のすみずみで、男が、女が、子供までもが、この問題を真剣に考えた。そしてなんと多くの日本人が「平和」と「民主主義」の理想を真剣に考えていたことか!」 

「それは、戦勝国アメリカが改革を強要したからではなく、それをチャンスと捉えて多くの日本人が変革の筋立てを自ら前進させた。そういう国民の声を背景に、政治家や官僚は、改革を実行していき、「農地改革」「選挙制度化改革」「憲法改正」「労働法改革」「教育改革」など今日まで続く国の根幹を作っていった。」

このような状況を表している資料として同書は、当時の加藤悦郎の漫画をあげている。巨大なアメリカのハサミが日本の国民を抑圧してきた鎖を断ち切り、国民は解放の喜びにひたっている。その背後で、保守的な政治家と軍人が逃げ出している。これは終戦のわずか2ヶ月後の漫画だ。


それから80年たった今、世界の環境は激変し、日本の「国の在り方」が問われ始めているが、この本はその議論をするうえでの示唆に富んでいる。 


2026年8月25日火曜日

2026年8月24日月曜日

「敗北を抱きしめて」

 Embracing Defeat

「敗北を抱きしめて」は、歴史家ジョン・ダワーによる、敗戦直後の日本の歴史を論じた名著で、アメリカと日本の両方で大ベストセラーになり、ピュリツッア賞など多くの受賞をした。公的資料にもとづく普通の歴史書と違い、当時の日本人の苦難の生活を、雑誌、写真、漫画、流行語などの資料を使ってリアルに描き出している。本の帯に、同書における著者の歴史観が簡潔に書かれているので、以下にそのまま引用する。

『1945 年 8月、焦土と化した日本に上陸した占領軍兵士が、そこに見出したのは驚くべきことに、敗者の卑屈や憎悪ではなく、平和な世界と改革への希望に満ちた民衆の姿であった。勝者による上からの革命に、敗北を抱きしめながら民衆が力強く呼応したこの奇跡的な「敗北の物語」を、米国最高の歴史家が描く。』


同書に使われいる写真の資料は当時を経験した年代の人間には懐かしい。街中で進駐軍(当時はそう呼んでいた)のジープが走り回っていた。米軍兵士たちはガムやチョコレートを子供たちに配っていた。

校舎不足とベビーブームから青空教室が普通だった。クラスを2つに分けて、午前と午後に二度授業をする二部授業も経験した。



2026年8月23日日曜日

認知戦「現代の戦場はスマホと脳だ」

 Cognitive Warfare

SNS で毎日のように偽情報や偽画像があふれている。ほとんどが素人が作ったものだと一目でわかる。しかし外国の諜報機関による世論工作のための SNS 情報は一見して見分けがつきにくい。

最近出た「認知戦  悪意の SNS 戦略」という本は、SNS によって人の心理に影響を及ぼそうとする認知戦の実態を明らかにしている。著者はイスラエル軍で認知戦の実務経験のある専門家だ。

現代の戦争は軍事力よりも、SNS の情報発信によって敵対国民の意識に働きかけて、国を内部から分断させる「認知戦」が重視されている。この本の帯に「戦場はスマホと脳だ」とあるように、スマホとSNS を使って情報工作が行われる。

いま強力に認知戦を仕掛けているのは、世界の覇権を狙っている中国で「中国は素晴らしい国だ」と思わせる情報を世界中に発信し、何十万ものフェイクユーザーを使ってその情報を拡散させている。特に日本は最大のターゲットで、「日本は悪い国だ」というイメージを植え付ける情報を垂れ流している。情報をスマホに頼っている人、特にAI を神の声のようにありがたがる人は、その情報を間に受けて拡散に協力してくれやすい。そういう人間を中国では「役に立つ馬鹿」と呼んでいる。


2026年8月22日土曜日

「戦争の文化」

 Culture of War

戦争が終わらない今の世界情勢から、「戦争の文化」を再読した。6年前の本なので、ウクライナやイランへの言及はないが、そんな現在進行形の戦争について考えるのにも、この本は参考になる。

「真珠湾攻撃」「広島の原爆投下」「9.11テロ」「イラク戦争」の4つを事例にして、戦争がなぜ起こるかの論考をしている。自らに都合の良い思考、異論や批判の排除、過度のナショナリズム、文化的・人種的偏見、などいずれの戦争にも共通する「戦争の文化」を検証している。

例えばアメリカがイラクを先制攻撃した戦争について、このように言っている。

2003 年にアメリカがイラク戦争を始めた時の理由づけは、1942 年に太平洋戦争に突入した時の理由づけとまったくよく似ている。共通するのは「屈辱」で、必ず報復しなければならないという感情だ。アメリカ人は真珠湾の奇襲攻撃の日を「屈辱の日」と呼び、それが現在でもアメリカ人の心の中に定着している。「屈辱」を決して忘れてはならないという意味だ。

2001 年にニューヨークでイスラム教徒による同時多発テロが起きた時、アメリカ国民のほとんどが反射的に思い出したのが「真珠湾」だった。不意打ちをくらって、たくさんの犠牲者を出した「屈辱」だ。テロリストの飛行機が高層ビルに突入する衝撃的な映像は、カミカゼ特攻機がアメリカ空母に突入する映像を思い出させた。ブッシュ大統領は「今日、21世紀の真珠湾が起きた」と言って「報復」すべしという国民感情に訴えた。そしてイラクに対する先制攻撃を開始した。

しかしイラク戦争は、むき出しの軍事力さえあれば敵を打ち破れると信じてしまった結果、完全な失敗に終わった。いままたアメリカはイランに先制攻撃を仕掛けているが、今回も同じ過ちを繰り返すに違いないということがこの本から読み取れる。


2026年8月21日金曜日

シーバス・リーガルのある静物

 Chivas Regal

ガラス製品だけをモチーフにして、シーバス・リーガル(パステル)





2026年8月19日水曜日

ドキュメンタリー「100 まで生きる」

Live to 100   Secrets of the "Blue Zones" 

NETFLIXのドキュメンタリー「「100 まで生きる  ブルーゾーンと健康長寿の秘訣」が興味ぶかい。平均寿命が 100 歳くらいの世界の4つの地域について現地調査をして、長生きの秘訣を探っている。それは、日本の沖縄、ギリシャのイカリア島、イタリアのサルディーニア島、などの離島で、古くからの独自の食文化が守られている地域だ。

沖縄編で取り上げているのは「大宣味村」(おおぎみそん)という沖縄本島の北端にある高齢者が多い村で、そこでは昔ながらの食習慣が守られている。主食は沖縄特産の「紅芋」で、タンパク質や糖質などが多い栄養豊富な食品だ。他にも豆類やゴーヤーなどの野菜がメインで、肉や魚はあまり食べない。

和食は、味噌汁、漬物、魚の干物など塩分がいっぱいの食べ物ばかりで、脳梗塞などになりやすい。しかしここの人たちは味噌汁、漬物、干物などはほとんど食べない。調味料も塩を使わず、油で炒めるだけ。高血圧などの高齢者の病気を防ぐ合理的な食事になっている。映画のなかで、調理の様子を解説付きで紹介しているので参考まで。→

https://www.youtube.com/watch?v=YxASpKajEGo&t=1s


酒のラベル

 Liquor Label

酒のラベルのデザインをモチーフに。

チンザノ(アクリル)

キャンパリ (コラージュ:ラベルの実物を絵に貼り付けた)

ハイネケン(パステル)

2026年8月18日火曜日

映画のパイオニア アリス・ギイ

 Alice Guy「Be Natural」 

19 世紀末に、世界で初めて映画を撮影したルミエール兄弟は「映画の父」として有名だ。しかし同じ頃に画期的な映画を作っていたアリス・ギイという女性映画監督についてはほとんど知られていない。

ルミエール兄弟が作ったのは有名な「工場の出口」のように ”記録映画” だった。それに対してアリスは、世界初の”劇映画” を作った。それが「キャベツ畑の妖精たち」という1分の映画で、若い女性が畑でキャベツを収穫すると、中から赤ん坊が出てくるという今でいえば ”ファンタジー映画” のようなものだが、当時は大人気だったという。

その後アメリカに渡って撮影スタジオを作り、1 0 0 0 本もの作品を次々に作り、大成功を収める。アクション映画、コメディ映画、歴史映画、戦争映画、ミュージカル映画、などの今では普通になっている映画ジャンルのほとんどを生み出していく。技術的にも、クローズアップ撮影、特殊効果、カラー化、映像と音のシンクロ、などの”世界初” をやっていく。

アリス・ギイの最大の功績は、俳優の演技に自然さを求めたことだった。生まれたばかりの当時の映画は舞台演劇を引きずっていた。大袈裟な演技をする舞台と違って、映画ではそんな必要がない。顔の微妙な表情も映すことができる。それで彼女が求めたのは不自然でない演技だった。スタジオに「Be Natural」(自然に振る舞え)という看板を掲げていたという。映画の本質をついたこの考え方によって映画は自立した芸術ジャンルになった。

これだけの功績をあげたにもかかわらず、アリスの名前は映画の歴史から消えていたのは、当時がまだ男社会だったからだという。5年ほど前の「映画はアリスから始まった」というドキュメンタリー映画でアリスの生涯と功績をたどっていた。


2026年8月17日月曜日

アルツハイマーと認知症

Alzheimer's And Dementia 

ある脳科学者によれば、アルツハイマー病になっても、認知症にならない人がけっこう多いという。そもそもアルツハイマー病とは、脳の中に有害な物質(アミロイド β)が溜まって脳の機能が低下する病気だが、脳には「認知予備能」という機能があり、ダメになった部分をその予備で補うという。

「認知予備能」は脳の認知機能の ”貯金” のようなもので、若い頃から脳を使う知的活動を続けてきた人は、脳にたくさんの ”貯金” ができている。そういう人はアルツハイマーになっても  "貯金" がカバーしてくれるから認知症にならないというのだ。そんな人はアルツハイマー病患者全体のうちの 20~30% くらいいるそうだ。


2026年8月16日日曜日

SNS の 良いニュースと悪いニュース

Confirmation Bias 

「知性はバイアスでできている」という本は、人間の「賢さ」と「愚かさ」について論じている実に面白い本で、その中から昨日に続いてもうひとつ紹介する。


SNS はバイアスまみれの情報を日々拡散している。それに対して、多くの人は自分の考えに合致する情報ばかりに注目して、さらにそれと同様の情報を集めたがる。しかし自分の考えとは違う情報は無視する。それによって自分の信念がますます強化され、自分を客観的に見直すことはしない。このバイアスは「確証バイアス」と呼ばれる。

例えば、自分は優秀だと自負している学生が、テストの点数が悪かった場合、問題が難しすぎたせいだと思い、自分の実力について見直すことはしないのと同じだ。

ところがテスト結果が悪かった学生が「テストなんか無意味だから止めてしまえ」とテストそのものを否定してしまう場合もある。そうすれば自分の能力についてあれこれ考える必要がなくなるからだ。

その最大の例がトランプ大統領で、さまざまなことで批判されると、個々の事案について具体的な反論をせずに、「メデイアはフェイクニュースばかり流している。」と言ったり、気候変動問題には、「気候変動は学者のでっち上げで、そんなものは存在しない。」と言ったり、国連でアメリカが非難されると「国連などいらないから脱退する。」と言ったりする。このように、メディアや、学者や、国際機関など、批判する相手そのものを全否定してしまえば、個々の論点についていちいち反論しなくても済んでしまう。これは誰にも論破されない最強の論法だ。


2026年8月15日土曜日

「ランダム性」 PK戦のゴールキーパー

Randomness

昨日書いたように「知性はバイアスでできている」という本は、人間の推論の方法が「賢さ」と「愚かさ」の両面を持っていることを論じている。それをたくさんの具体的な事例をあげて解説している。そのなかから一例を紹介する。


壺の中にたくさんのビー玉が入っている。その中に赤い色のビー玉が何%あるかを調べろと言われたとする。すると壺に手を突っ込んで 一掴みのビー玉を取り出して赤い色の%を調べる。しかしこれはあくまで近似値であって完全な正解ではない。もっと完全を目指そうとすると、何度も同じことを繰り返して、その都度の赤の%の平均値を出すとだんだん正解に近づいていく。しかしそんな手間ひまをかける人はほとんどいない。

これは「サンプリング」による調査であり、全数を数える労力を省く上手い方法だ。同じことが例えば世論調査に応用される。「内閣支持率は何%か」を調べるとき、調査対象にするのはたいていわずか1000人ぐらいで、その答えはあくまで近似値だ。しかし人口1億人全員の声を聞こうとすると膨大な時間と費用がかかるからそんなことはしない。

この時重要なことがサンプルの「ランダム性」だ。サンプル1000人の性別や年齢や職業などが偏っていると正しい答えが得られない。だから調査対象を選ぶ時、乱数を使ったりして完全な「ランダム性」を保つようにする。

他にも「ランダム性」を利用するのが合理的な場合がある。サッカーの PK戦で、ゴールキーパーが右か左かどちらに跳ぼうかと考える時、キッカーの癖を考えてもが意味がない。キッカーは自分の癖を読まれているとわかれば、裏を描くかもしれないし、裏をかくことを気づかれていると思えば裏の裏をかくかもしれない。だからどの方向を選んでも勝つ確率は同じだ。だからキーパーもキッカーも自分の行動には規則性がなく「ランダムな行動」をとると相手に思わせて、そのとうり行動するのが最善の策になる。これは「戦略的ランダム性」と呼ばれる。

この戦略は政治の世界でも応用される。最近、台湾有事になったらアメリカ軍は出動するかが話題になる。これに対してアメリカ政府は意図的にあいまいな態度をとってきた。トランプ大統領は外交政策について「我々は予測不能でなければいけない。我々は予測不能になる。」と言った。まさに PK戦のゴールキーパーと同じ「戦略的ランダム性」で、それが最大の抑止力になる。


2026年8月14日金曜日

「知性はバイアスでできている」

 「What Makes Us Smart」

「バイアス」といえば普通は、「偏り」や「思い込み」などのように、人間が間違った判断をするものとして悪者扱いされる。しかしこの本は、人間の知性とはそもそもバイアスでできているという考え方を主張している。

動物も人間も、食べ物を探したり、外敵から身を守ったりするために視覚や聴覚によって得られる外部からの情報を集めて、それに基づいて物事を判断する。しかしそれらの情報はまわりの世界にある膨大な情報のごく一部でしかない。

人間はその情報の少なさを脳の力で補う。例えば「あの時はこうだったから今度もそうだろう」などと過去の記憶を頼りにしたりする。しかしそれが往々にして「思い込み」などの間違いを引き起こす。

しかし一方で、そういう脳の力を借りずに少ない情報だけで正解を求めようとすると、あれこれ考えている間に外敵に喰われてしまうかもしれない。つまり「記憶」や「知識」は、いちいち最初から考えなくとも効率的に物事を判断するための力になる。

このように人間が得られるデータは限られていて、世界を不完全にしか把握できない。だから脳は観察を事前知識と組み合わせることで、正解を知ろうとする。しかし人間の脳はコンピュータと違って、データ量も、計算力も限界がある。それを解決するために、脳はさまざまな戦略を持っている。「バイアス」もそのひとつだ。このように人間の「賢さ」と「愚かさ」の本質をこの本は追求している。


2026年8月13日木曜日

横浜・根岸の工場地帯

Oil Refinery in Yokohama

自宅からそう遠くない横浜・根岸には巨大な工場が立ち並んでいて、よくその辺りを散歩する。その中心が、海岸べりにある日本一の石油精製工場。中東からの石油タンカーが接岸する専用の埠頭があり、タンカーから工場へ直接パイプによって原油が送られる。

精製工場には無数のタンクが並んでいる。
ここで原油はガソリンやナフサや軽油などに分けられる。

石油精製工場の隣には発電量日本一の火力発電所がある。
精製工場のすぐ隣だから、燃料の石油を直接パイプで供給できて効率がいい。

精製工場の周辺には石油やナフサなどを使う石油化学工業の工場が
並んでいる。これはセメント工場。周りにはタンクローリーが走り回っている。

そういう工場のさらに周辺には、小さい町工場の区域がある。かなり
広い範囲にわたって町工場が並んでいる。(雨の日のスケッチ)

JR根岸駅は乗降客の少ない駅だが、代わりに石油運搬のタンク車がズラリと
並んでいる。精製工場からの専用線と繋がっている。(駅ホームからの眺め)

2026年8月12日水曜日

バイアスのいろいろ

 Cognitive Bias

「バイアスの心理学」という本に、80 種類以上のいろいろなバイアスについて解説している。それらすべてで、認知心理学者による実証実験が紹介されていてとても面白い。そのなかから少しだけ紹介。


「ラベリング効果」

2グループに分けた被験者に左の図形を見せる。Aグループには「これは砂時計に似た図形です」と伝える。Bグループには「これはテーブルに似た図形です」と伝える。

そして1週間後に、その図形を思い出して描くようにいう。するとAグループは砂時計のような形を描き、Bグループはテーブルのような形を描いた。

人間は曖昧な図形が「砂時計」とか「テーブル」とかラベル付けされるとその知識に沿うように覚えてしまう。これは認知バイアスのひとつで、「ラベリング効果」という。

「ラベリング効果」は政治の世界で日常的に利用されている。「ラベルづけ」は日本語の「レッテル貼り」と同じで、「レッテル貼り」によって敵対する政治家のイメージを悪くしようとする。例えば「彼は極右政治家だ」などとラベリング(レッテル貼り)して、人々に偏見を植え付けようとする。


「アンカリング効果」

被験者を2グループに分けて質問をする。Aグループには「国連加盟国のうち、アフリカ諸国は何%だと思いますか?  65%より多いと思いますか?」と聞く。すると「 65%より少なそうだから 45% くらいかな」と答える。

一方 Bグループには「国連加盟国のうち、アフリカ諸国は何%だと思いますか?  10%より多いと思いますか?」と聞く。すると「 10%より多そうだから 25%くらいかな」と答える。

正解は 30%で、両グループともはずれている。最初に数値を示されると、それを目安にして物事を判断してしまう。これは「アンカリング効果」と呼ばれる。これは TVショッピングのCM などでしょっちゅう目にする。「本来 ¥3000 の商品を特別に ¥2000 で提供します」 と言われると ¥3000 に何の根拠がなくても安く感じてしまう。


「同調バイアス」

線の長さを比較する図表を見せて、「標準線と同じ長さの線は ABC のうちどれですか?」と聞いて、複数の回答者に答えさせる。ところが被験者以外はサクラで、全員「B」と答える。しかし被験者は  「C 」ではと思いつつも「B」と答えてしまう。

このようにまわりの意見に影響されて、周囲に合わせた行動とるのを「同調バイアス」という。物事の正しさや価値を自分で判断できなくなる。

例えば職場で、自分が仕事が終わっても、みんなはまだ残業しているので帰れないとか、飲み会に行きたくないが、和を乱すのを気にして参加する・・・など「同調バイアス」はしょっちゅう目にする。


2026年8月11日火曜日

SNS の認知バイアス

Cognitive Bias 

SNS などのネットの情報を受け取ったとき、「バイアスのかかった」判断をしてしまうことが多い。自分のなかにある、「偏り」や「思い込み」や「先入観」などによって、無意識のうちに判断が歪められてしまう。

コロナの時のワクチンに関するニセ情報をたくさんの人が信じてしまったのはいい例だった。「ワクチンを打つと妊娠できなくなる」とか「ワクチンより安全な⚪︎⚪︎の薬を飲む方がいい」などといった情報が SNS に溢れた。発信者は「⚪︎⚪︎大学医学部教授」などと名乗って、専門用語を並べたもっともらしい情報だったが、実は薬を売って金儲けをするためだった。

これは肩書きや権威のある人の意見は正しいと思ってしまう「権威バイアス」と呼ばれる。またこの情報が拡散されると、同じ情報に繰り返し接することになる。すると何度も接する情報は真実だと思ってしまう「真実性の錯覚」というバイアスに陥る。また情報が正しいと信じると、それとは違う情報には目をそむけ、同じような情報だけを集める「確証バイアス」がある。さらには「敵対的メディア認知」というバイアスがある。SNS の情報をTVが伝えないのはマスコミの報道が偏っているからだと考えてしまう。このようにコロナの例だけでもいろいろな種類のバイアスが影響していた。

「バイアスの心理学」(Newton 別冊)という本は、このような「認知バイアス」を 80 種類以上にわたって詳しい解説をしている。バイアス思考に陥らないために役に立つ。


2026年8月10日月曜日

映画「アルジャーノンに花束を」

 Flowers for Algernon

「アルジャーノンに花束を」という映画があった。主人公の男は子供なみの知能しかない知的障害だが、脳外科医から脳の手術を勧められる。手術は成功し、超難問の数学がスラスラと解けるようになったり、何カ国もの言葉をしゃべるようになったりと知能が驚異的に高まる・・・

この映画はSF小説をもとに、1968年に映画化された。まだAI (人工知能)が無かった時代だが、映画の脳外科手術は今だったらAI に相当する。「知性」とは?「人間」とは? を問いかけている映画だ。

しかしその脳外科手術の効果は、だんだん減衰していくことが分かってくる。医者は再手術を勧めるが、主人公はそれを断り、元の自分に戻ることを決める・・・

その理由は、知識や思考力は完璧になったが、他者への共感や思いやりといった「人間的な感情」が薄れていくことに気づいたからだ。映画は現代の ”AIの恐ろしさ” を予見していたかのようだ。ラストで、元の知能に戻った主人公は、いっしょに手術をして先に死んでしまった実験用マウスの「アルジャーノン」の墓にそっと花束をたむける。


2026年8月9日日曜日

ロールス・ロイス

 Rolls-Royce

しばらく前だが、横浜・山手を歩いていたら、道路にロールス・ロイスがさりげなく駐車していた。エレガントな姿に見とれてしまったが、写真に撮って、後で絵にしてみた。調べてみたら、さだかではないが、1950 年代の「シルバーレイス」というモデルらしい。ナンバーが「11-22」で、「いい夫婦」と読めるので、近くの結婚式場の新婚さん送迎用の車に違いない。



2026年8月8日土曜日

ドキュメンタリー「ビッグ・チキン ファストフード業界の不都合な真実」

Big Chicken

NETFLIX のドキュメンタリー 「ビッグ・チキン  ファストフード業界の不都合な真実」は見ていて恐ろしくなる。KFC などのフライドチキン業界は、鶏は健康的な食べ物だというイメージで、世界中でビジネスを拡大している。しかしその裏に隠されている闇をこの番組は暴いている。

ある一人の男を実験台にして、1ヶ月間毎日3食、フライドチキンだけを食べ続けるという実験をする。すると体調がおかしくなっていくが、それ以上に精神状態が不安定になっていく。それでも彼はフライドチキンを食べている間は幸せな気分になり、次の食事を楽しみにする。

その理由はこうだ。鶏の飼育業者は効率的に大量生産するために、鶏の品種改良をして、通常の半分の期間で親鳥に育つようにしている。しかしその鶏は味がなくて不味いので、餌に化学物質の添加物を加えて鶏らしい味にしている。その化学物質は、人間の体に良くなく、鶏肉依存症にする麻薬のような性質があるという。

そして他にも、鶏が病死するくらい不健康な過密飼育や、安い賃金の外国人労働者を過酷に働かせる労働環境や、鶏の排出物による地域の水質汚染の問題など、この業界の”不都合な真実”を次々に暴いている。しかし彼らはメディアの取材を拒否し続けているという。


2026年8月7日金曜日

ドキュメンタリー「グレート・ハック SNS 史上最悪のスキャンダル」

 「The Great Hack」

「フェイスブック」が政治に介入して、選挙結果を左右させることがが世界中で問題になっている。このドキュメンタリー(NETFLIX)は、それがどういう仕組みで行われるのかを生々しく暴いている。

例えばある選挙で、A党とB党が接戦になっていて、残り20% の浮動票の行方で勝敗が決まる状況だとする。A党から依頼を受けたフェースブックは、今まで投稿した人や「いいね」をした人の膨大な個人情報を利用して、A党が有利になるような情報活動をする。

実際には傘下の企業の「ケンブリッジ・アナリティカ」というデータ分析の企業が、フェースブックからもらった個人データをもとに、フェイスブックユーザーのプロファイルを分析する。するとこの人は浮動票で、しかもSNS の影響を受けやすい人だなどということがすぐわかるという。

するとフェースブックは、その層の人たちにウケそうなニセ情報を作って、狙い撃ち発信する。それは一見すると選挙宣伝のように見えないように巧妙に作られている。2016年の大統領選でおおかたの予想に反してトランプが勝った時にこれが行われた。同番組ではこれ以外にも、世界中で行われた同様の事例も多数挙げている。

多くの人は、自分の意志で投票したつもりでいるが、実は情報操作されていることに気ずかないでいる。民主主義の根本の破壊につながる行為だが、フェースブックはそれを認めていない。


2026年8月6日木曜日

アニメ「風たちぬ」とイタリアの飛行機

 Itaian Plane

日英伊3国による次期戦闘機の共同開発が進み始めたようだ。しかし戦闘機の歴史で、日本の「零戦」とイギリスの「スピットファイア」はすぐに思い浮かぶが、イタリアは?と思うのは間違いで、イタリアには先進的な飛行機の伝統がある。そのことがわかるのが宮崎駿のアニメ「風たちぬ」だ。

このアニメは「零戦」の設計者だった堀越二郎の生い立ちを描いている。少年の頃からパイロットを夢見ていた二郎は、イタリアの飛行機「カブローニ」に憧れていた。

カブローニ社の「カブローニ Ca.60」という飛行機がこのアニメで登場する。3段重ねの主翼が3つある9葉機で、100人の乗客を乗せて大西洋を横断する巨大旅客機だった。また戦争中にカブローニは、実用化には至らなかったが、世界初のジェットエンジンの開発に成功している。



大人になった堀越二郎は、カブローニのように「美しい飛行機」を作りたいという夢を「零戦」で実現する。しかしやがてそれは特攻兵器として使われるようになり、「美しい飛行機」への夢が裏切られていく。なお、イタリアの飛行機へのリスペクトに溢れたこのアニメはイタリアで大絶賛されたという。

2026年8月5日水曜日

横浜の産業遺産

 Old Machine

山下公園に係留保存されている「氷川丸」は、戦前に建造されて現存している唯一の大型豪華客船で、重要文化財に指定されている。この機関室は大迫力で、船底の3階だての建物くらいの大空間に巨大なディーゼルエンジンが並んでいる。このエンジンは、デンマークの B &W社で、当時の最新鋭だった。そのなかの機械の操作部分が人間の内臓のように複雑で、いかにも古い機械という感じでなかなか魅力的だった。

「錆びた機械」30号 アクリル

現在のみなとみらいあたりはかつて造船所だった。帆船「日本丸」が係留されている場所も造船ドックだった。日本丸の近くの公園で、かつての造船所のなごりを見ることができる。造船所の機械を圧縮空気で動かしていたが、そのエアコンプレッサーが保存展示されている。巨大な大砲のような円筒形が組み合わさって大迫力だ。アメリカの「シカゴ・マシナリー」というメーカー名と「1918」という製造年が書かれている。

「古い機械」30号 パステル

2026年8月4日火曜日

「黄金期のアメリカン・イラストレーター」

 J. C. Leyendecker  

「黄金期のアメリカン・イラストレーター」という本は、アメリカのイラストレーションの黄金期だった20世紀初めに活躍したイラストレーター 11人を取り上げて解説している。著者の津神久三は、自身もアメリカで画家兼イラストレーターとして活躍した人で、後に千葉大学教授になっている。

ここで紹介されている11人には、アンドリュー・ワイエスの父親の N. C. ワイエスも含まれているが、昨日書いた J. C. ライエンデッカーも取り上げらている。この本の表紙になっている絵は、ライエンデッカーの作品だ。

昨日書いたように、ライエンデッカーは週刊誌「サタデー・イブニング・ポスト」の表紙絵で大人気を博したが、それ以上に名声を高めたのは、「アロウ・カラー」というワイシャツのカラーのメーカーの広告を手掛けたことだった。

そのイラストは「若い男性」を描いていて、とびきりのハンサムで、その雰囲気は優雅、裕福、知性のすべてを備えた魅力たっぷりの男を描いた。それはセックスシンボルとしての男を描いた史上初のイラストといわれる。それまでの男の広告は、いわゆる「男らしい」男を描いていたのと対照的だった。


彼の描く理想的な若い男性のイメージは1920年代のファッションに大きな影響を及ぼした。そのイメージは小説や映画に取り入れられた。その有名な例がフィッツジェラルドの小説「華麗なるギャッツビー」であり、その映画化「華麗なるギャッツビー」だった。ロバート・レッドフォード演じるギャッツビーは、ライエンデッカーのイラストレーションから抜け出したようだった。特にワイシャツのカラーの先が丸いのは「アロウ・カラー」そのままだ。

ライエンデッカーは若い頃、パリへ留学して本格的に絵画の勉強をした。描写力の凄さはその経験からきている。津神久三によると、ほとんどのアメリカのイラストレーターは、画家としての高い画力を持っていて、社会的な地位も高く、収入もものすごい額を稼ぐという。ライエンデッカーもその一人で、大豪邸に住んで優雅な生活をしていたそうだ。