2026年4月24日金曜日

「フィルム・ノワール」と、ドイツ表現主義映画

 Film Noir

「フィルム・ノワール」は、1940 ~ 1950 年代の白黒映画時代に多く作られた。「Film Noir」(黒い映画)のとおり、退廃的な都会を舞台にした犯罪映画で、人間の心の闇を暴く映画だった。光と影のコントラストの強い映像が特徴で、不安や恐れのイメージを喚起する。


数あるフィルム・ノワールのなかで、ビリー・ワイルダー監督の「深夜の告白」(1944)は傑作だ。保険会社の外交員が訪れた豪邸で、美貌の人妻に会う。彼女は夫に高額の生命保険を掛けたいと言う。女に魅了されてしまった外交員はそれを認めてしまう。やがて夫は死亡するが、保険会社は疑念を抱く。妻による保険金目的の殺人事件ではないかと調査を始める・・・
謎の女が登場するのもフィルム・ノワールの定番のパターンだ。

フィルム・ノワールの最高傑作はなんといっても巨匠キャロル・リード監督の「第三の男」(1949)だ。第二次世界大戦直後の荒廃したウィーンの街を舞台にしたサスペンス映画だ。アメリカ人の男が友人に会いにウィーンを訪れる。するとその友人はすでに死んでいることがわかり、男は真相究明を始める・・・ 暗い街路に浮かび上がる人影などのミステリアスな映像が見事だ。

現在ではほとんど消えてしまったフィルム・ノワールだが、新しく作られた唯一のフィルム・ノワールとして巨匠タル・ベーラ監督の「ロンドンから来た男」(2007)がある。カラーの時代にあえて白黒で撮った映像が美しい。

港で働いている平凡な鉄道員の男が偶然に殺人事件を目撃し、大金を手に入れてしまったことから彼の運命が狂っていく・・・


フィルム・ノワールの多くはハリウッドで作られたが、その源流はドイツにある。自然を美しく描いた印象主義絵画は、20 世紀に入ると、時代感覚とズレてしまう。特に第一次大戦での殺戮を経験したドイツでは、人間の内面を描く表現主義絵画が発展する。人間の心に潜む狂気や不安の感情を描いた画家グロッスはその代表だ。

この表現主義は絵画だけでなく、美術全体の潮流となり、特に映画では「ドイツ表現主義映画」が盛んになる。「カリガリ博士」や「メトロポリス」などの映画史に今でも名が残る名作が生まれた。

そのなかで、フリッツ・ラング監督の、連続少女誘拐殺人事件を題材にした「M」(1931)は、人間を衝動的な殺人に突き進ませる心の闇を暴き出した表現主義映画の傑作だった。

しかしやがてヒトラーが政権を握ると、表現主義の絵画も映画も激しく弾圧される。そしてフリッツ・ラング監督をはじめとしてほとんどの映画人はアメリカへ亡命する。

そしてフリッツ・ラング監督はハリウッドでもドイツ表現主義映画の手法をそのままに映画を作り続けた。

「飾り窓の女」(1944)が代表作。男がショーウィンドウに飾ってある女の肖像画に見とれていると、絵の本人が現れて、やがて殺人事件になっていく・・・ これが「フィルム・ノワール」の始まりだった。


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