2020年10月29日木曜日

名画の遠近法 ① 「アイ・レベル」

Perspective in masterpieces  「Eye Level」 

遠近法(透視図法)の「アイ・レベル」の説明でこんな図がよく出てくる。遠くまで続いている線路を人間が見ている。近くの枕木を見ている時の視線は下を向いているが、遠くの枕木を見るにつれて視線は上向きになっていく。最後に無限に遠くの枕木を見た時、視線は水平になる。その時見えるのは地平線だから、見ている人の目の高さ(アイ・レベル)は地平線の高さと等しい。


印象派のカイユボットはもっぱらパリの風景を描いたが、この絵では男が窓から外を眺めている。地平線は見えていないが、向かい側のビルの横線が水平になっている階の高さにあるはずだ。そしてその水平になった線上に、男の目がピッタリ乗っている。「アイ・レベルと地平線は一致する」の遠近法の原理どうりに描かれている。


これもカイユボットの街路の絵で、遠くの人物も近くの人物も全ての人の目の高さが地平線上に乗っている。遠くの人物が小さくなっても目の高さは変わらない。ただしそれは見ている人(画家)と同じ身長の人の場合で、中央奥のうつむいている人の目は線より少し下になってる。この微妙な差を描きわけていることからも、この絵は遠近法に極めて忠実なことがわかる。


フェルメールの「絵画芸術」は、絵を描いているフェルメール自身を描いている。フェルメールの目の高さ(アイ・レベル)は、立っているモデルの女性の肩あたりになっている。フェルメールが座っている分アイ・レベルが低くなる。


フェルメールの室内画は窓や床などの直線要素があるので、消失点を見つけやすい。消失点を通る水平線を引けば、それが描いているフェルメールのアイ・レベルということになる。そしてその線がモデルのどこを通っているかを調べる。するとモデルが座ってい場合は、必ず目の高さを通っている。つまりフェルメールのアイ・レベルと座っているモデルのアイ・レベルが一致しているということは、フェルメールは椅子に座って描いていることになる。


フェルメールの全作品は 3 7 点あるが、そのうち消失点を割り出せる絵が 1 8 点あるので、それら全てを調べて見たら、1 0 0 % フェルメールは座って描いていることがわかった。下はそのうちの2つだが、アイ・レベルが座っている人物の目の高さにきっちり合っている。そして立っている人物の場合は胸のあたりにあることも正確さを示している。いまさらながらフェルメールの遠近法の正確さが確認できる。


 1 7 世紀オランダのロイスダールは風景画というジャンルを初めて生み出した。この「城の廃墟と教会のある風景」は代表作で、手前には廃墟や堀が描かれていて、遠くには教会の尖塔が見えている。壮大なスケールと自然の崇高さを感じさせる。その原因は地平線の位置で、画面の下3分の1くらいの低い位置に置かれていて、空が大きな割合を占めている。アイ・レベルの位置が心理的な影響を与えることがわかる。


「神奈川沖浪裏」は北斎の最高傑作だが、若い頃これと同じテーマでもう一つ描いている。比べると、構図はほぼ同じなのに迫力がまったく違う。その原因は水平線の位置にある。左では水平線は画面の下3分の1あたりにあるので、波を見上げる角度になっていて、波が上から覆いかぶさってくるような迫力がある。それに対して右では、水平線が画面中央くらいにあって、アイ・レベルが高いので、波を見下ろす角度になっている。それが迫力の差になっている。


サーンレダムは17 世紀オランダの画家だが、教会建築を専門に描いた。遠近法の研究が盛んだった時代だったので、フェルメールやロイスダールと同じく、その技術を誇示するかのような絵を描いている。この絵の場合、奥にいる人物の目の高さにアイ・レベルがあるが、それは画面の下5分の1くらいの極端に低い位置にある。それによって、上を見上げる空間の大きさを描いている。巨大なものや壮大なものを表現するとき、低いアイ・レベルがよく使われる。


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