2014年6月17日火曜日

写実絵画

千葉市に「ホキ美術館」というユニークで面白いところがある。ホキさんという個人コレクターが集めた絵を展示しているけっこう大きな美術館。人物、風景、静物などいろんなジャンルがあるが、収集品すべてが「写実絵画」に徹していて、それがうたい文句になっている。例えばこんな絵がある。あくまで絵だが、ほとんど写真だ。もっと写真らしさを出すためだろうか、下のように白黒で描いた絵もある。これらはもっとも極端な例で、もうすこし「絵画寄り」な作品もあるが、それでも普通に比べるとそうとう写真に近い。



ここは「写実」って何だろう。さらには「絵画」って何だろうと考えさせてくれる場所だ。「写実」とは、「実を」「写す」ことで、「実」からは「真実」「事実」「実体」「実質」などが連想される。写真はそういった「実」を正確に写し出す。だから「証拠写真」というものが成り立つ。絵画も「実」を描くのが目的だから、写真的に描く方法はあってもいいのだろう。だが、同じ「実」を描いても「証拠絵画」というものがありえないのは、写真の実と絵画の実が本来的に違うものだからだろう。

アンドリュー • ワイエスは「アメリカン • リアリズムの巨匠」と呼ばれ、写実的な画風で有名だ。だが、彼の「写実」は、ここの作品の「写実」とはかなり性格が違う。上の例は樹木や少女の見えるまま、あるがままの姿を写しとっていて、それは即物的な「実」と言える。それに対して、ワイエスはほとんどすべての絵で「うそ」を描いている。だが、それは「実」ではないかというと違うだろう。ものが見えている姿の向こうにある真実、見えてはいないが存在する事実、としての「実」を描いている。そして見えないものが本当に存在することを信じてもらうための手段として「写実」の技法を使っている。ワイエスにとっては、写実すること自体が目的ではない、というのがこの美術館との違いだと思う。

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