2014年6月24日火曜日

ワイエスの「写実」(1)

アンドリュー • ワイエスの写実力はすごい。この絵では、肌、髪の毛の一本一本、セーターの編み目、などの質感がきわめてリアルに描出されている。彼がリアリズム絵画の頂点として認められているのは、よく分かる。彼は作品を描き始める前に、ものすごい枚数の予備的な鉛筆デッサンを長い時間をかけて行っている。しかしそれは、ただモデルを丹念に「写生」しているわけではない。それは、対象の見えている姿かたちの向こうにある真実のイメージを探して、それを自分が見えるかたちにしていくためのプロセスとして行っている。だから彼はこう言っている。「私はものごとに対してロマンチックな空想を抱いている。それを私は絵に描くのだが、リアリズムによってそれが可能になるのだ、夢を真実で裏付けなければ、貧弱な作品しか生まれない。」つまり彼のリアリズムは、物自体を本物らしく写生することが目的ではなく、自分の中にある物に対する夢=イメージが真実であることを示すための写実だ、ということを言っている。だから一見写真のような絵でありながら、写真では捉えられないモデルの内面と、それに対する画家自身の思いが伝わってきて見る人の共感を呼ぶ。


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