2014年6月11日水曜日

ワイエス (その3)

ワイエスは若い頃、イラストレーターだった父親から絵のてほどきを受けた。父親は「まずそこにあるものを正確に描写するように、次に見なくても存在するかのように描くように」という指導を受けたという。前回「その2」で書いたような、「写生」ではなく「構成」というワイエスの特徴は、このような教育から生まれたと思うととても納得できる。

父親はイラストレーションという存在するものを描く自分の仕事と、絵画という実際には存在しない心のなかのイメージを描く絵画の仕事の違いを自覚した上で、子供を絵画の世界へ導こうとしたのだろうと解釈できる。イラストレーターを含めてデザインの仕事には
イラストレーションの仕事が必ずつきものだ。工業デザインの世界では、レンダリングであったり、映像の世界では絵コンテと呼んだり言い方は違うが広い意味でイラストレーションだ。イラストレーションは目の前にあるものをいかに魅力的に描くかの問題だが、絵画は見えるものの向こうにあるものを示さなければならない、と言われる。

実は先に書いた「ワイエスが好きでしょ」と言った先生が続けて聞いたもうひとつの質問がある。それは「あなた建築かデザインの仕事をしてませんでした?」というもので、これも図星で2度びっくりだった。そのときは分からなかったが、あとあと考えてみると、二つの質問は関係していて、しかもたいへんなことを言われたのだと気がついた。それは自分の絵がイラストレーションにとどまっていて絵画になっていない、という意味だろうと。つまり、ワイエスの父親の言う「イラストレーション:存在するものを描く」→「絵画:存在しないものを描く」への転換ができていないということだ。

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