2020年11月22日日曜日

「階段を降りる女」の写真と絵画

「Go down the stairs」Photograph and Painting

1 9 世紀末に、エドワード・マイブリッジという人が写真の革命を起こす。感光材料の感度が低いため超スローシャッターでしか撮れなかった当時、高感度の感光材料を開発し、高速シャッター撮影を可能にした。その結果、連写ができるようになり、実験したのが有名な走行する馬の撮影だった。馬は常にどれか一本の脚が地面についていると思われていた通説を覆し、脚が4本とも宙に浮いている瞬間があることを証明した。

マイブリッジは人間の動きについても様々な連写撮影をする。「階段を降りて曲がる」(1 8 8 5 年)などだ。これらの各コマをパラパラマンガ式につなげれば動画になるが、まだ映画が生まれる以前の時代だった。


写真が捉える「動き」が絵画に大きな影響を与える。マルセル・デュシャンの有名な「階段を降りる裸体 No,2」(1 9 1 2 年)は明らかににマイブリッジの写真からヒントを得ている。連写の一コマづつを重ねることで、絵画という静止したメディア上で「動き」を表現している。


時代はとんで、2 0 世紀ドイツの現代画家ゲルハルト・リヒターは、マイブリッジやデュシャンと同じテーマの「階段を降りる女」(1 9 6 5 年)を描いた。しかしこれはデュシャンのように静止画像を重ねるのではなく、連写の一コマに、その前のコマの残像を浸透させる(階段とスカートが溶け合っているなど)ことで動きを感じさせている。再生している動画にストップ・モーションをかけた瞬間のような感覚がある。映画の時代の「動き」の表現だろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿