2020年11月10日火曜日

名画の遠近法 ⑦ 「視点」

 Perspective in masterpieces 「View point」

ピエール・ボナールには食卓の絵がたくさんある。食卓の形が右辺以外は垂直水平の長方形で、皿がほぼ正円で描かれている。ということは、真上に近い高い位置からテーブルを見下ろしていることになる。それに対して人物は正面から見ている。だからこの絵には視点が2つあることになる。一つの固定した視点から見るという遠近法の見方に逆らっている。


子供は「テーブルは四角い」という概念で描く。大人になると遠近法的な見方ができるようになり、透視図として描くようになる。ボナールは子供的な見方でテーブルを描いている。これをボナール自身は「生の見方」と言っていたそうだが、遠近法にとらわれない子供の見方の方が純粋だということだ。(図は「Objective Drawing Techniques」より)

見えている世界を一つの固定した視点から描くという遠近法の原則が、2 0 世紀の絵画では崩れた。ル・コルビジェは一つの物を上面図と側面図に分解して、正円と長方形だけで描いた。建築図面のような考え方で、遠近法の見方を完全に捨てている。これを「純粋主義」とコルビジェ自身は呼んだが、ボナールの「生の見方」に通じる言い方で面白い。

複数の視点を持つ「多視点」絵画の先駆けとなったのがセザンヌだ。「ラム酒の瓶のある静物」で、瓶は真横から見ているが、テーブルは斜め上から見ている。

人間は物を観察するとき、固定した一つの視点から眺めるよりも、あちこちから眺めるほうが多い。セザンヌはそのような「多視点」の物の見方をそのまま絵にした。ポーラ美術館の「セザンヌ展」で、このことを解説した動画を作っていた。セザンヌは「脱遠近法」の先駆けで、それが 2 0 世紀のキュビズムにつながっていく。



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