2019年1月29日火曜日

サーンレダムの加速遠近法

Saenredam

サーンレダムはフェルメールと同じ時代の同じオランダの画家で、「建築画」のジャンルを始めた人だった。教会建築の内部を専門に描いたが、遠近法をとことん研究した。

ある作品の制作過程。(図上)現場スケッチ。(図中)油彩画のための下絵。(図下)油彩画。

現場スケッチと最終作との遠近法の違いを見ると面白い。天井の5本の梁に注目するとその違いがはっきり分かる。現場スケッチでは梁の間隔が詰まっているのに比べて、油彩画では間隔を広げている。その結果、手前の梁は真下に近い所から見上げているように見え、奥の梁はずっと遠くにあるように見える。それが天井の高さと部屋の奥行きを実際以上に大きく感じさせ、この教会を壮大なものに見せている。このような、手前から向こうへビュンと加速するように遠近感を強調する遠近法は「加速遠近法」と呼ばれる。

物を見た通りに描く方法だった遠近法を、いわば本当らしい嘘をつく方法として使った画期的な人だった。
(図は、岡田季未子著「十七世紀の光 オランダ建築画の巨匠サーンレダム」の図を編集した)

2019年1月27日日曜日

「パワーシャベル」最終

"Hydraulic Shovel"  Soft pastel,  98cm × 80cm

モチーフの重量感をパステルで出すのは難しい。パステル特有の軽い感じになってしまう。それを補うやり方を試してきた中で、これがいいと思っている。
(ソフトパステル、 F 40 号)
下地:モデリング・ペースト  →  下地色:赤ジェッソ  →  エスキースの拡大
 明暗トーン:アクリル(白/黒)
着彩:ソフトパステル

2019年1月25日金曜日

ハンマースホイ






「ハンマースホイ」展が始まったので観に行こうと思ったが、もう一度チラシをよく見たら、来年の1月からだった。10 年くらい前に来たときの印象が鮮烈だったので、気がはやったようだ。室内画専門なので北欧のフェルメールと呼ばれているが、フェルメールの主題が人間なのに対して、ハンマースホイは人間のいない室内空間そのものを描いている。たまに人間がいても後ろ姿で、室内はしんと静まりかえっている。


2019年1月23日水曜日

ブレグジットのもうひとつの問題

Brexit

破壊された家の前で少女がぼうぜんと立っている。わきには兵士が銃を構えている。報道写真的だが、イギリス人画家ケン・ハワードの絵で、1970 年代に起きた「北アイルランド紛争」の場面を描いている。


北アイルランドの帰属をめぐるアイルランドとイギリスの紛争だが、アイルランドの過激派組織 IRA が爆弾テロや銃撃戦を繰り返して、たくさんの死者が出た。(落書きが絵では「TRA」だが実際は「IRA」のはず。)この絵のような事件がしょっちゅう報道されていたのを思い出す。

その後和平が成立して人の行き来は自由になったが、今でも分断の壁は残っていて、潜在的な対立が続いているという。イギリスが EU から離脱すると、EU に残るアイルランドとの国境に検問所や税関ができ、分断がもっと厳しいものになり、紛争の再燃につながらないかと心配されている。(当時の写真:検問所でボディチェックするIRAの女性兵士。壁に「イギリス人出て行け」と書いてある。)

2019年1月21日月曜日

ブレグジットがわかる図

Brexsit

イギリスの EU 離脱問題が連日報道されているが、なぜそんなにもめるのか根本的なことは報道してくれない。問題は EUとの境界線をどこにするかなのだが、それをすっきり理解できる図を見つけた。複雑な物事を一目で分からせてくれる「情報の視覚化」の好例だと思う。
( ”source : British and EU officials ”とあるから公式の図らしい )


(図右)英領北アイルランドと、EU に残るアイルランドとの間に陸続きの境界線ができ、道路や鉄道に検問所ができる最悪の事態。「合意なき離脱」とは自動的にこの状態になることで、それを避けるためにみんな必死になっている。

(図中)北アイルランドを EU の関税同盟に残せば、境界線が海になって、検問所は不要になるからいいじゃないかという案、しかし本州と北海道の間に国境ができるようなものだから、イギリスにとってはとんでもない話。

(図左)いい案が見つかるまでの間、イギリス本土もひっくるめて、関税同盟に残れば、という案。これで一旦合意したが、実質的に今と何も変わらないから、当然ながら離脱強硬派が猛反対して、この間の議会で否決されてしまった。

2019年1月19日土曜日

「忘れえぬ女(ひと)」とアンナ・カレーニナ

"Unknown Lady" & "Anna Karenina"

今やっている「ロマンティック・ロシア展」で大人気の「忘れえぬ女(ひと)」だが、面白いことに、これは日本でつけられた題名で、ロシア語の題名は素っ気なく「見知らぬ女」だそうだ。冷たくこちらを見下している高慢な表情と解釈すればそうなるのだろうが、日本の題名はもっとロマンティックに解釈したものだろう。この表情をどう見るかをめぐってずっと議論が続いてきたそうだ。

描かれた当時からモデルはアンナ・カレーニナではないかと言われていたそうだ。実際、作者のクラムスコイはトルストイと交流があった人で、「アンナ・カレーニナ」の執筆の最中にこの絵が描かれたそうで、影響を受けたという説が有力だという。

クラムスコイは「アンナ・カレーニナ」のイメージを絵画で視覚化したが、 20 世紀には映画がとってかわり、ここ 100 年の間になんと30 回も映画化されたそうだ。それぞれの脚色によって、様々なアンナ像が描かれてきた。新しいところでは、キーラ・ナイトレイが演じたヒロインは、情熱的で知的で意志が強く、「忘れえぬ女(ひと)」のイメージに近いように感じた。(これしか観ていないが)


2019年1月17日木曜日

「右か左か、それが問題だ」?    小野田直武の「不忍池図」は不思議か



小野田直武は江戸時代に西洋絵画の技術を習得した最初の人で、この「不忍池図」でも空気遠近法がうまく使われている。

「視覚心理学が明かす名画の秘密」(三浦佳世)という本で、西洋絵画では統計的に、左光源の絵が圧倒的に多いという理由で、右光源のこの絵が「不思議な感じがする」と決めつけている。しかし2年くらい前の「小野田直武展」でこの絵を見たが、同書の言う不思議さは感じなかった。

しかしそれとは別の点で不思議に感じたことがあった。ひとつは、右側の木の明暗コントラストに比べて鉢の明暗差が少なく、弱い光で描かれている点。もうひとつは、鉢植えの花のスケールが風景と合っていない感じがする点で、この絵のアイ・レベルと花の視角からすると、地面にぺったり座った状態で 50 cm くらいの至近距離から描かないとこうならないはずだ。なんとなく花が風景に溶け込んでいない感があるのはそんな理由からだろう。おそらくこの花はこの場所にはなく、花の静物画と池の風景画を合体させたものだと思う。そうだとすれば、この時代としては画期的だっただろう。