2020年9月23日水曜日

絵が上手くなるのを妨げる「恒常視」

Constant vision

人間の知覚はうまくできていて、形の情報が欠けていたり、普通と違った見え方であったりしても、眼から入ってきた情報を脳の中で補正して、常に同じ形として見ることができる。これが「恒常視」だが、絵を描く時には、眼で見たとうりに描くことの邪魔をする。それが特に子供の絵にはっきりと現れる。猫の絵で、顔は正面を向いていて、胴体は真横から見た形で、4本の足は奥行きがなく並列に描いている。猫がどんな姿勢をしていても、恒常視で見てしまうのでこういう絵になる。


大人も同様で「恒常視」が邪魔して、眼で見た通りに描けないことがよくある。この絵は顔を下から見上げているが、右側のプロの絵では、目と鼻の位置がかなり横並びに近くなっているので、下から見た顔になっている。また上唇が上に向いた円弧になっているのも同じ。左側のアマチュアの絵は、普段見慣れている正面から見た通りの恒常視の顔をそのまま描いているので、下から見ているように見えない。恒常視とは、顔とはこういう形のはずだという固定観念だから、そこから抜け出すのは容易でない。


これは「形の恒常視」だが、他にも「色の恒常視」や「大きさの恒常視」や「距離の恒常視」など色々ある。「色の恒常視」では例えば、木を描く時に直射日光が当たっているところはほとんど白に見えているし、陰の部分はほとんど黒に見えているのだが、恒常視が邪魔して全てを緑色でべったり塗ってしまい、立体感のない絵になってしまう。


左がアマチュアの絵で、右がプロの絵だが、大きい違いは色。アマチュアは、顔は肌色、髪は黒、セーターはピンク、といった「色の恒常視」にとらわてしまっている。固有色が光によって色調が変化しているのを眼では見えているはずなのに、脳で補正された恒常視を描いてしまう。だからベタ塗りの「塗り絵」になる。「脳」というフィルターの邪魔をはねのけて、「眼」で見たとうりに描くことは難しい。(画像は初心者向けの技法書「Do Art」より)

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