2019年8月17日土曜日

「表現の不自由」展と「表現」

Expressionism

「表現の不自由」展の論争はたいして意味がないと思うが、そもそも「表現」とは何か、について考えるきっかけにはなる。「表現の自由」を押さえつけた最大の権力者はヒトラーで、近代絵画すべてを抑圧したが、中でも「表現主義」を徹底的に槍玉にあげた。

表現主義(Expressionism)は、印象派(Impressionism)とよく対比される。印象派が外の世界を内に(Im)取り入れて描くのに対して、表現主義は内の世界を外へ(Ex)出して描く。描く動機が正反対だ。

表現主義は、第一次大戦前後にドイツで盛んになった芸術運動で、オットー・ディクスやゲオルゲ・グロッスなどが有名だ。戦争で、残虐に殺しあう人間の姿を見てしまい、もう今までのように人間や世界を美しいものとして描くことができなくなった画家たちは、美しい世界を写実するのではなく、心で見た「美しくない現実」を表現する方法を模索した。それが「表現主義」だった。(写真はオットー・ディクスの作品)

人間を醜悪に描いた表現主義を、ヒトラーは精神病患者の狂った絵だ、とののしった。真実を「表現」しようとする表現主義はやがて体制批判につながっていくのではないかと恐れたに違いない。

何も「表現」していない、ただの政治プロパガンダの道具について「表現の不自由」と騒ぐほどのことはないと思う。

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