2023年10月6日金曜日

印象派カイユボットの街を見下ろす風景

 Eye-Level

カイユボットは印象派の巨匠だが、自然を描いた他の画家と違って、都会の風景を描いた。そして、風景を上から見下ろす構図が多いのだが、そこに風景を見ている人間を描き入れている。街を見ているのはカイユボット本人の視線なのだが、絵の中の人間に自分の身代わりをさせている。そして、街や建物と、見ている人間との関係を正確な遠近法で描いている。その点に注目して絵をチェックしてみる。


「地平線の高さは、その風景を見ている人の目の高さ(アイレベル)と一致する」というのが遠近法(透視図法)の基本中の基本原理だが、この絵はそれを忠実に描いている。地平線は直接見えてはいないが、その位置は向こうにあるビルから特定できる。建物の消失点を求め、それを通る水平線を引けば、そこが地平線の位置だが、手前にいる人間の目がピッタリその線上にある。


上の応用だが、下の絵で「外を眺めているこの人がいるのは何階か?」というクイズがあったとして、その答えは? 上の絵と同じ方法でチェックしてみれば、簡単に答えを割り出せる。正解は「3階」。


カイユボットの最も有名な作品のひとつで、男が鉄橋から線路を見下ろしている。空には機関車の煙が見えていて、遠くには別の鉄橋も見えていて、近代化したパリの風景を緻密に描写している。これも遠近法が極めて正確で、鉄橋などの消失点がピッタリと一点に集まっている。そして消失点を通る水平線を引けば、それが地平線になるが、その地平線の上にシルクハットの男の目の高さ(アイレベル)がピッタリと乗っている。右側の白い服の男の目は、前かがみになっている分、地平線より下の位置になっている。この絵でも「地平線の高さは、その風景を見ている人の目の高さ(アイレベル)と一致する」という原則が忠実に守られている。


この絵も上と同様。向こうのビルのひさしが水平になっているところが地平線の位置で、地平線の高さが右に立っている男の目の高さと一致している。左の男は前かがみになっている分、目の位置は地平線より少し下になっている。

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