2023年10月10日火曜日

食べる映画(その2)「コックと泥棒、その妻と愛人」

 「The Cook,  the Thief,  His Wife and Her Lover」


奇才ピーター・グリーナウェイの「コックと泥棒、その妻と愛人」は、「食べること」をテーマにした映画。この間紹介した「バベットの晩餐会」や「ショコラ」などが、キリストがパンを分け与えるように「食べること」の”聖性” を題材にした映画だったが、これは正反対で、欲望のまま食べる醜さを露悪的に描いている。

主人公の男は豪華レストランのオーナーなのだが、自分が客席で料理をガツガツと食いながら、口汚い言葉で悪口雑言をわめき散らしまくる。自分の妻に暴力をふるい、やがて発覚した妻の愛人にも暴力をふるい・・・最後は妻が自分で依頼してコック長に作らせた”特別な料理” を男に振る舞う。それを妻から無理やり食わされるのだが、その料理とは・・・

映像もユニークで、画面に奥行きがまったくなく、横長の画面に登場人物が横一列に広がっていて、演劇の舞台のようだ。だから普通の映画のように、見る人が中に入っていくような没入感がなく、観客は第3者的に外から見ることになる。登場人物たちを愚かな人間として、さげすむような目で描くという意図だろう。


上の場面で注目すべきは、後ろの壁にある絵で、17 世紀のオランダの巨匠フランス・ハルスの「聖ゲオルギウス市警備隊の士官たちの晩餐」という作品(下図)で、品格のある名士たちの会食を描いている。共に食事をすることで、仲間同士の結束を確かめるという、古来からの「食べること」の意味を描いている絵だ。この絵と対比させることで、手前にいる人間たちの粗野さを皮肉ろうというのが、グリーナウェイ監督の意図だろう。


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