2023年10月27日金曜日

映画「マンダレイ」が描くアメリカ

 「Manderlay」

ラース・フォン・トリアー監督の作品のなかで「マンダレイ」(「Manderlay」 2005年)が強烈で、アメリカの「民主主義」の矛盾を鋭く描いている。

主人公の若い女性がアメリカ南部の小さい村にやってくるが、そこでは何十年も前に廃止された奴隷制度がいまだに生き残っている。黒人をはりつけにしてムチで打つリンチも行われている。女性は、人種差別に憤り「民主主義」を人々に教え込む。やがて村人たちは集まって議論し、多数決によって物事を決めるようになる。彼らは共同体意識を持ち、助け合うようになる。そして彼女は村人たちを指導するリーダーになる。・・・・・

しかしそう見えただけで、やがて真実があらわになってくる。黒人たちは ”民主的な” 村の中で自分の役割を演じることで身を守ろうとしていただけだった。黒人は白人に支配されていることに何百年にもわたって慣らされてきて、つねに支配されていないと安心できない。だから、自分たちを支配する白人として、主人公の女性をリーダーにして、彼女を「法律」と呼んでいたのだ・・・・・


そして彼女も、理性的だと思っている自分の心の奥の奥では黒人に対する憎しみが潜んでいることを自身も気がついていない。やがてそれが暴きだされる。差別をなくすことを説いてきた彼女がラストで、はりつけにされた黒人を、憎悪をむきだしにして、狂ったようにムチで打ち続ける・・・・・


アメリカはいつも民主主義の理想を掲げ、自分たちが「正義」だと信じている。だから独裁政治の国を非難したり、民主主義を押し付けようとする。それでいて自国の人種差別は無くならない。デンマーク人のトリアー監督は、この小さな村を縮図にして、アメリカの「独善」と「傲慢」を、第三者的な目で冷ややかに描いている。


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