2021年1月17日日曜日

アンドレイ・タルコフスキーの「鏡」

 Andrei Tarkovsky 「Mirror」

アンドレイ・タルコフスキーの代表作の一つ「鏡」は自伝的映画で、「映像の詩人」と呼ばれる通り、その映像に魅了される。子供の頃の記憶をたどっていく映画だが、ストーリーで語るのでなく、映像に語らせている。断片的な映像が脈絡なくつながっていくが、その中のいろいろなシーケンスで、題名どおり「鏡」が重要な役割をしている。現実と幻想、現在と過去、などを交差させる道具として「鏡」の使い方が見事。たくさんの鏡が登場するが、以下の3場面は特に有名だ。


母親が髪を洗ったあと下着だけでいるとき、初めて母親に女性を感じるシーンで、カメラは母親自身と、鏡に映った母親とを同時に写す。実物の方は優しい母の顔だが、鏡に映る横顔の像は妖艶で、今まで見えていなかった母親が鏡を通して見えている。


タルコフスキーが大人になってから、亡くなった母親が幻影として現れるシーンで、透明人間のようにドアをすり抜けて室内へ入ってきて鏡に近寄る。そして鏡に映った自分の姿に手を当てる。自分がまだ生きていることを確かめているかのようだ。


お金がなくて食べ物にも困るほどだったころ、母親が金持ちの家を訪れて、自分のイヤリングを買ってもらう相談をする。その間、待っている少年はふと鏡に映った自分の姿をまじまじと見るという初めての体験をする。薄暗い鏡の中にぼんやり映る少年の像をカメラはズームアップする。思春期の少年が初めて自己と向き合い、自分とは何かという自己認識が生まれ始めた瞬間を見事に描き出している。


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