2021年1月15日金曜日

「鏡」が登場する絵画いろいろ

Mirrors in painting

ピエール・ボナールの「洗面台」という絵で、鏡に映った妻の裸を描いている。妻は画家の向けている視線の方向とは反対の後ろ側にいるが、それを鏡を通して見ている。だからのぞき見的な、あるいは隠し撮り的な感覚が生じている。


マネの傑作「フォリー・ベルジュールのバー」は、画面いっぱいの大きな鏡の前にいる女性を描いている。鏡のおかげで、女性と、女性が見ている空間(1 8 0 度反対の空間)が同時に見えている。画面右端に映っている紳士は女性に話しかけているように見えるが、実はそうではないことが最新の研究でわかったという。絵全体の空間関係を解析すると、紳士が視線を向けているのはバーテンダーの女性ではなく、鏡の中で遠くに見えているショーを見ている白い服の女性だという。この紳士も、目をつけている女性を、鏡を通して盗み見しているということらしい。


印象派の女流画家メアリー・カサット の「母と子」で、母が子に手鏡をかざしている。鏡の中の子は鑑賞者の方を見ているので、子の正面の顔と、実物の横顔の両方が見えている。一方、後ろにある大きな鏡には母親の横顔が写っていて、実物のほぼ正面の顔と補完しあっている。4つの顔が親子のつながりの濃密さを表している。


美術史上最も有名な鏡の絵は 1 5 世紀ベルギーのヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」だろう。夫妻の真ん中の壁に丸い鏡がかかっているが、そこにこの絵を描いた画家自身とその妻が映っている。これは夫婦の婚礼の儀式に画家が立会人として参加しているシーンを描いたものだという。鏡の像をよく見ると、両夫妻が向かい合っていることがわかる。絵の中に画家は見えなくても、この場にいたことを証明するかのように鏡の像として描いている。そして念入りに(?)鏡の上の壁にサインをしている。


全く有名でないがこんな絵がある。1 8 世紀のジャン・バティスト・グルーズという人の「割れた鏡」で、床に落ちて砕けた鏡を若い女性が悲しげに見ている。この鏡は、彼女が失ったもの(処女性)の象徴だという。



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