2021年1月9日土曜日

横顔の肖像画とヒッチコックの「めまい」

 Portrait in profile

「横顔」は文字通り横から見た顔のことだが、その人の経歴や特徴を説明する時の「人物像」という意味でも使われる。英語でも「プロフィール」は「横顔」であり「人物像」でもある。横顔がなぜその人の特徴を表すのかは肖像画の歴史からわかる。


ギリシャ時代、遠くへ去る恋人の面影をいつまでも留めておこうと、ろうそくの光で壁に映った影をなぞって顔を描いたのが、絵画の起源だといわれている。この時、正面の影ではただ丸いだけの影になってしまうので、目鼻立ちの輪郭がはっきりして、その人の特徴をとらえるには横顔でなければならなかった。


その後も横顔で描くことはずっと続き、特にルネサンス期、肖像画はすべて横顔で描かれた。例えばボッティチェリの「若い女性の肖像画」などが典型。やがて遠近法と陰影法が発明されると、やっと正面から描いても顔の特徴を表現できるようになる。ダ・ヴィンチの「モナリザ」は正面の顔だから画期的だった。
1 8 世紀に、絵画ではないが顔の特徴を研究する「観相学」が盛んになる。そのためにギリシャ時代にやったのと同じ、横顔の影のシルエットで顔の特徴抽出をした。そのための「シルエット製造機」なる機械まで発明されたというから面白い。(ストイキツァ「影の歴史」より)






このような、本人を特定する決め手として「横顔」が重要であることを軸にした映画がある。ヒッチコック監督の「めまい」は、ある男が自分の妻を自殺に見せかけて殺そうとするが、それを友人に目撃させて、自殺であることを証言させる計画を立てる。そして殺害に成功するが、その後目撃者の男は、別のよく似た女性が妻になりすまして、自分はだまされていたのではないかと気がつき、真相を調べはじめる・・・

偽物を探すことが話の軸なので、女性の顔の特徴が重要な要素になっているが、そのシーンでカメラは必ず横顔をクローズアップで撮る。若い頃画家志望だったヒッチコックは絵画について詳しい知識を持っていて、顔の特徴は横顔にもっとも現れることや、肖像画が横顔で描かれていた歴史を知った上での演出だという。(岡田温司「映画は絵画のように」より)

男が初めて妻に会う時のシーンでカメラは横顔だけを撮っていて、正面の顔を見せない。


街中で偶然見かけた女性の横顔を見た時、彼女が殺された妻の偽物ではないかと気づく。


女性の本性を見極めようとする時、横顔のシルエットになり顔の輪郭がはっきり見える。


(ついでだが、主役のキム・ノヴァクが一人二役をやっていると観客は信じてしまうが、実は最初から最後まで一人一役で、本当の妻は一度も出てこなかったことに最後に気づく。←ネタバレ)

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