2025年9月30日火曜日

ギブソンの「動きの速さの遠近法」

 The Perception of the Visual World

遠近法といえば普通は「線遠近法」だが、他にも「空気遠近法」や「重なりの遠近法」や「肌理の遠近法」などがある。しかし認知心理学者の J. J. ギブソンは、著書「視覚ワールドの知覚」のなかで、遠近法には他にも全部で 13 種類もあることを指摘した。それはギブソン自身の実体験にもとづいていた。

ギブソンは戦時中に、戦闘機パイロットの訓練に携わった。敵機の距離を正確に把握することや、宙返りしても方向感覚を失わないことや、山などに衝突しないように地形や距離を正しく読み取ることなど、パイロットには視覚による環境の正確な把握が求められる。そのためのフライト・シュミレーターでの訓練をやってた。

例えば、パイロットが滑走路に着陸するときの風景の見え方を示す図がある。地平線上の視点を中心に、放射状に風景が後ろへ流れていく。そして手前はすごいスピードで飛んでいくが、遠くの風景はゆっくり近づいてくる。

ギブソンの遠近法研究はこのような体験がもとになっている。だから提唱する 13 種類の遠近法の中には、人間自身が動いている時の風景の見え方に関する遠近法が多く含まれている。人間が静止していることが前提の絵画の遠近法にはなかった遠近法だ。

例えば「動きの速さの遠近法」。列車から車窓の風景を眺めているとき、近くのものは目にもとまらない速さで後ろへ流れていくが、遠くの風景はほとんど止まっているくらいゆっくりと動いている。これが「動きの速さの遠近法」だ。日常的に経験していることだが、言われてみれば確かにそうだ。下の映像であらためてそれを確認できる。https://www.shutterstock.com/ja/video/clip-3460862813-field-view-yogyakarta-airport-transit-train

なお映画でよく使われる「マットペイント」もこの遠近法の応用だ。遠景の背景に静止画のマットペイントを使い、その手前で撮った動く映像を組み合わせる。


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