2025年9月8日月曜日

映画「遠い山なみの光」

 A Pale View of Hills


公開そうそうに「遠い山なみの光」を観た。カズオ・イシグロ原作の映画はすべて素晴らしかったので、この映画も期待して見に行った。

映画は、終戦後間もない、まだ原爆の傷が残っている1952 年の長崎と、1980 年代のイギリスという時代的にも距離的にも遠く離れた二つの舞台が交互に交差しながら進んでいく。長崎で生まれたイギリス人のカズオ・イシグロ自身に重ねている構成だ。

イギリスに住む作家志望の若い女性(ニキ)が、小説の題材にするために、母(悦子)から家族の歴史を聞き出していくという形で物語は進む。それを通して、戦争責任をめぐる世代間の溝や、戦後の日本女性の生き方が描かれる。そして最後に、悦子がついていた「嘘」が明らかになっていく・・・

ノーベル賞受賞のカズオ・イシグロの原作は、ちろん英語で書かれている。そしてすでに映画化された名作「日の名残り」も「私を離さないで」も、英語原作のイギリス映画だった。そして「日の名残り」はアンソニー・ホプキンスが主役で、「私を離さないで」はキャリー・マリガンとキーラ・ナイトレイという演技力が最高の名優たちだった。だから、感情の表現を抑制する演技がいかにもイギリス映画らしくてよかった。その演技が、カズオ・イシグロの小説の魅力である、曖昧でミステリアスな特徴を活かしていた。しかし今回の映画化は、なんでも説明的にしてしまうのが好きな日本映画で、しかも主役がファッションモデルの広瀬スズあることに不安があった。だが、まあまあにまとめたのはやはり原作の力だろう。


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