2025年9月30日火曜日

ギブソンの「動きの速さの遠近法」

 The Perception of the Visual World

遠近法といえば普通は「線遠近法」だが、他にも「空気遠近法」や「重なりの遠近法」や「肌理の遠近法」などがある。しかし認知心理学者の J. J. ギブソンは、著書「視覚ワールドの知覚」のなかで、遠近法には他にも全部で 13 種類もあることを指摘した。それはギブソン自身の実体験にもとづいていた。

ギブソンは戦時中に、戦闘機パイロットの訓練に携わった。敵機の距離を正確に把握することや、宙返りしても方向感覚を失わないことや、山などに衝突しないように地形や距離を正しく読み取ることなど、パイロットには視覚による環境の正確な把握が求められる。そのためのフライト・シュミレーターでの訓練をやってた。

例えば、パイロットが滑走路に着陸するときの風景の見え方を示す図がある。地平線上の視点を中心に、放射状に風景が後ろへ流れていく。そして手前はすごいスピードで飛んでいくが、遠くの風景はゆっくり近づいてくる。

ギブソンの遠近法研究はこのような体験がもとになっている。だから提唱する 13 種類の遠近法の中には、人間自身が動いている時の風景の見え方に関する遠近法が多く含まれている。人間が静止していることが前提の絵画の遠近法にはなかった遠近法だ。

例えば「動きの速さの遠近法」。列車から車窓の風景を眺めているとき、近くのものは目にもとまらない速さで後ろへ流れていくが、遠くの風景はほとんど止まっているくらいゆっくりと動いている。これが「動きの速さの遠近法」だ。日常的に経験していることだが、言われてみれば確かにそうだ。下の映像であらためてそれを確認できる。https://www.shutterstock.com/ja/video/clip-3460862813-field-view-yogyakarta-airport-transit-train

なお映画でよく使われる「マットペイント」もこの遠近法の応用だ。遠景の背景に静止画のマットペイントを使い、その手前で撮った動く映像を組み合わせる。


いじわるの家

 The Grudge

レバノンのベイルートに「いじわるの家」という建物がある。4階だてのアパートだが、幅が2mもないくらいの塀のように薄い建物だ。ここは、地中海が見える眺望の良い場所だが、その場所に建っているマンション(写真右側)の眺望を遮る目的のためだけに建てられた。オーナーどうしが仲が悪かったのだろう。それで「いじわるの家」と呼ばれる。

文化人類学者のエドワード・T・ホールの「かくれた次元」は、人間が他者との間で無意識にとる「距離」が持つ文化的な意味について研究した面白い本だが、そこでこの建物が紹介されている。

ついでだがこれは、同書の「日本」と「アラブ圏」の人々の、空間に対する意識の違いを比較をしている章で取り上げられている。日本文化についても、日本人自身があまり意識していないことに気づかせてくれる本だ。


2025年9月28日日曜日

よくしゃべる人

Talkative person 

歳をとると、よくしゃべるようになる人がいる。次から次へとしゃべって止まらない。一つのことをしゃべり始めても、すぐに関係のない別のことに話が移る。思いついた言葉を次々に口に出していて、話に脈絡がない。何かを考えてしゃべっているわけでなく「口から出まかせ」だ。だからこちらは黙ってただ聞いているだけになる。そうしたら「あなたって寡黙な人ですね」と言われてしまったこともある。

相手にお構いなく一方的にしゃべる人とは「会話」が成り立たない。そういう人は認知症の始まりといわれる。認知症では、認知機能のひとつである「言語能力」が低下する。「言語能力」とは相手の言葉を理解して、それに対応して自分の考えを言葉で伝えることだ。だから「言語能力」が低下すると、相手にお構いなく一方的にしゃべるようになる。そのため「会話」が成り立たず、人との意思疎通ができなくなる。


2025年9月26日金曜日

日本の洋画の先駆者たちを育てた ワーグマンとフォンタネージ

 Wergman & Fontanege

幕末から明治にかけて西洋から入ってきた絵画は日本の画家たちに衝撃を与えた。そして洋画を学ぶ画家たちが現れたが、彼らを指導した二人の西洋の画家が大きな役割を果たした。チャールズ・ワーグマンとアントニオ・フォンタネージだ。

ワーグマンは、イギリスの絵入り新聞の特派員として幕末に来日して、雑誌のイラストを手掛けたが、絵画の先生でもあり、明治になって洋画の先駆者となる日本人の画家を育てた。今でも横浜の外人墓地に眠る、横浜の人には馴染み深い人だ。

ワーグマンの「街道」という代表作で、保土ヶ谷付近の風景を描いている。木漏れ日が心地よい街道を歩む夫婦の姿と、馬が繋がれた茶店などが描かれている。ワーグマンは、亀井竹次郎や五姓田義松など、明治になって洋画の先駆者となる画家たちを育てた。


もう一人のフォンタネージは、明治初期に日本の美術学校の教師になったイタリア人で、バルビゾン派的な作風だった。代表作は「風景(不忍池)」で、画面中央に太陽があり、空や木や池はその光の陰影として描かれている。茶褐色系統の色で統一されて、静寂な空気感を魅力的に描き出す手法は日本絵画になかったもので、日本人に衝撃を与えた。フォンタネージは浅井忠や小山正太郎などの日本の洋画をリードする弟子を輩出した。


2025年9月24日水曜日

「ダーク パターン」に注意

Dark pattern

ネット通販サイトで、ひどい目にあったことがある。サプリメントの通販サイトで、「お試しキャンペーン」中というので、一回だけ試してみようとした。しかしそのサイトには罠があった。一回だけの「通常の注文」か、毎月の「定期購入」かの選択肢が(さりげなく)あるが下図のように、あらかじめ「定期購入」の方が選択されている。これは見逃しやすい。

       ◯  通常の注文
       ◉  定期購入

翌月も商品が届いたので、騙されたことに気がついた。あわてて解約しようとしてサイト内を探したが、解約手続きの画面が見つからなくて、1時間くらいかかってやっと解約できた。サイトデザインが、意図的に解約しにくいようにされている。


こういう悪質なサイトには「ダークパターン」という名前があることを新聞(日経 8 / 5)で初めて知った。顧客を惑わすサイトデザインには法的な規制があるが、通販の7割が違法な「ダークパターン」だという。その手口にはいろいろあるが、一番多いのが、自分も騙された上記のような「勝手に定期購入」だそうだ。



2025年9月22日月曜日

「スマホ馬鹿」について

Smartphone Idiot

 愛知県豊明市という町で、子供のスマホ使用を、1日2時間に制限する条例ができるというニュースについて書いた(8 / 31)が、今朝(9 / 22)の TV で、条例が正式に可決されたと報じていた。前にも書いたとうり、条例の実効性はほとんどないだろう。かんじんの親たちが、「子供がコミュニケーションができなくなる」とか「子供が情報収集ができなくなる」などの理由で反対しているからだ。

また逆に条例に賛成という人も、子供の睡眠時間がスマホによって短くなっていることを理由にしている。しかし大事なのはそういうことではないだろう。スマホで子供が「バカ」になるということが大問題だ。「スマホ人間」のことを英語では「Smartphone Idiot」という。つまり「スマホ馬鹿」だ。

「スマホ馬鹿」といわれる理由は、スマホで得られる情報を鵜呑みにして、それで「情報収集」ができたと思っているからだ。いい加減な情報に接しても、それはおかしいと判断できない。そういう判断ができるためには、自分の頭で物事を考える「知識」の力が要る。

知識の力を身につけるには「読書」しかない。読書は「読解力」という言葉のとうり、「読んで理解する」ことで、それには自分の頭で考える能力が必要になる。読書によってその力が身についていく。スマホは、読書することを阻害して、子供を「スマホ馬鹿」にする。


2025年9月20日土曜日

ロバート・レッドフォード死去

Robert Redford


先日、NETFLIX で、「夜が明けるまで」という映画を何気なく見ていた。妻に先立たれた初老のさえないおじさんが主人公だった。この俳優が誰かに似ているなと思いつつ見ていたが、そのうちロバート・レッドフォード似かなと思い始めた。そうしたら最後のクレジットで「ロバート・レッドフォード」と出てきたので、やっぱりそうかと驚いた。「明日に向かって撃て」や「スティング」や「華麗なるギャツビー」など、スタイリッシュでかっこいい男を演じてきた彼がこんなさえない老け役をやるとは思っていなかった。

なお相手の女優が、孫もいるおばあさんの役だが、やたらと美人だと思っていたら、これもクレジットで「ジェーン・フォンダ」と出てきたのでまた驚いた。なお彼女は 87 歳で現在も健在のようだ。

そうしたらそのすぐ翌日(9 / 16)の TV ニュースで、ロバート・レッドフォードが 89 歳で死去したと報じられた。あまりの偶然でびっくりだった。



2025年9月18日木曜日

ドキュメンタリー「やがて悲しき奇跡かな」

The period of high economic growth

「昭和 100 年」の企画で、NHK の「映像の世紀  昭和 100 年特集」のドキュメンタリー「高度成長  やがて悲しき奇跡かな」(9 / 8 放映)が 面白かった。戦後10 年で奇跡的な経済復興を遂げた日本が、空前の好景気になり、高度経済成長時代に突入した。番組で当時の映像が次々と映し出されると、あの時代にどっぷり浸かっていた人間にとっては、身につまされる思いがする。


当時よくあった職場での朝礼風景で、鉢巻をして「ガンバロー」と気合を入れている。後ろの横断幕には、「男なら、売って、売って、売れまくれ!」とある。当時「モーレツ社員」とか「企業戦士」とかいう言葉が流行ったように、サラリーマンはがむしゃらに働いた。経済成長率は毎年 10 % を超えていたので、給料も毎年 10 % 上がるという今では考えられない時代だった。まだ銀行振り込みはなく、現金支給だったから、ボーナスは札束の入った封筒が立つくらいぶ厚かった。明日は今日より必ず良くなると信じることができた時代で、人々の気持ちは明かるかった。


人口増にともなう住宅不足対策で、郊外に団地やニュータウンが続々と生まれた。高い応募倍率だが、運よく抽選に当たれば、水洗トイレのある近代的な生活ができた。そして「三種の神器」と呼ばれる家電製品が飛ぶように売れた。それとひきかえに、都心までの通勤時間は2時間はざらで、電車は乗車率 300 % の通勤地獄だった。駅には”押し屋”と呼ばれる客の押し込みが専門の駅員がいたのが今では信じられない。夜中までの残業が当たり前で、労働基準法の規制を超えると、超過分はタダ働きになるのが普通のことだった。そして深夜にまた2時間かけてヘトヘトになりながら帰宅する。


高度経済成長は公害問題を引き起こした。工場排水で汚染された海や川の水が深刻な健康被害をもたらした。また自家用車の普及で、排気ガスによる大気汚染がひどくなった。この映像はあの時代を象徴している。手前の渋滞した高速道路と、背後の煙を出す工場に挟まれて、どんよりした空気に包まれて、住宅が並んでいる。そして環境問題とオイルショックで、イケイケドンドンの高度成長時代は、1970 年代中頃までで終わりを告げる。そして虚しかったバブル経済時代を経て、現在は「失われた 30 年」が続いている。番組タイトルどうりの「やがて悲しき」だ。


2025年9月16日火曜日

映画「アドレセンス」

 Adolescence

イギリス映画の「アドレセンス」は、NETFLIX で配信中で、世界中で最高視聴率をあげた衝撃的な映画だ。「アドレセンス(Adolescence)」とは「思春期」という意味だが、日本を含め世界中で共通の社会問題になっている青少年の犯罪をテーマにしている。

13 歳の少年が同級生の女の子をナイフで刺し殺す事件が起きる。警察はその動機を知ろうと、学校や両親に聞き込みをしたり、精神鑑定士に調べさせたりするがなかなか真相がつかめない・・・

映画は、その過程をドキュメンタリータッチで追っている。それを見ていると、イギリスの学校の様子が日本とそっくりで、他人ごととは思えない。機械的に詰め込み教育をしているだけで生徒と向き合わない教師たちや、学級崩壊が起きている荒んだ教室や、いじめや喧嘩が常態化している生徒たち。さらには息子がサッカーの試合でミスをすると叱りつける父親。などが暴き出される。そしてこの事件は、同級生どうしの SNS での悪口の言い合いがきっかけになったことがわかってくる・・・

なおこの映画は、イギリス政府にも衝撃を与え、首相はこの映画を全国の中学校の教師や保護者が見るように推奨し、NETFLIX も教材として配信することを決定したという。


2025年9月14日日曜日

小説「BUTTER」

 「BUTTER」

近年イギリスで日本の小説が大ブームで、たくさんの日本人作家の小説が翻訳され出版されている。そして去年 2024 年1年間のイギリスのベストセラー・ランキンングの第1位が柚木麻子の「BUTTER」だったという発表があった。イギリスで、高い評価を得て、数々の文学賞を受賞した。またイギリス以外でも世界で100 万部以上売れた。

海外での日本小説ブームは近年ずっと続いていて、小川洋子や多和田葉子はすでにノーベル文学賞候補になっている。例年名前があがる村上春樹より先に受賞するのではないかといわれている。柚木麻子もそれに続くかもしれない。

「BUTTER」を読んだが、今までにない斬新な発想の小説だ。2009 年に実際に起きた、男をつぎつぎに結婚詐欺で騙して財産を奪い、そして3人を殺した連続不審死事件の犯人の女を題材にしている。当時も、この若くもなく美しくもない女がなぜ男たちを簡単に騙せたのか不思議がられていたが、この小説は、雑誌の女性記者が、拘置所にいる女と何度も面会を重ねて、女の人間性を解き明かしていくという設定になっている。会うたびに聞かされるのは、女の「食」への強いこだわりだ。記者は、教わったレシピを自分でも作ってみたりする。特に「バター」を使った料理は絶品で、記者は「食への欲望」に目覚めていく。そして女性記者は徐々に女の魔力的なまでの人間性の魅力に魅せられ、取り憑かれていく・・・

この柚木麻子だけでなく、小川洋子や多和田葉子などの、文化背景の違う日本の小説が世界中で読まれるようになったのは、その世界観に、世界に通用する「普遍性」があるからだ。日本でしか通用しない「私小説」ばかりだった日本の小説が変わってきた。それにしても、ノーベル賞の季節 10 月が近くなったが、日本人作家の文学賞受賞はあるかどうか。


2025年9月12日金曜日

エッシャーとアラベスク模様

Escher & Alhambra 

ある友人が、スペインのアルハンブラ宮殿へスケッチ旅行をしたときのことを書いたブログが面白かった。自分は行ったことはないが、アルハンブラにはとても興味がある。その理由はエッシャーだ。エッシャーはアルハンブラを訪れてたくさんのスケッチをした。

イスラム様式の建物のスケッチ(右図)もあるが、エッシャーがもっとも興味を持ったのが壁面の装飾模様だった。いわゆる「アラベスク模様」だ。壁全体を細かい幾何学模様でびっしりと埋めている。エッシャーはそれを詳細にスケッチした。

「ALHAMBRA」のメモがあり、日付も記入してある。それを見ると、このスケッチを数日間続けたことがわかる。(図は「Le Monde de M. C. Escher」 より)


これらの模様に共通していることは、普通の意味の「図」と「地」の関係がないことだ。例えばこの模様で、黒の T 字型が「図」で、白の T 字型は「地」だ。しかし同時に、白の T 字型が「図」であり、黒の T 字型は「地」である。そして同じ形の白と黒の T 字型が隙間なく、びっしりと全体を埋めている。幾何学が発達していたイスラム文化ならではの模様だ。

エッシャーはこれに魅入られて徹底的に研究した。そしてこの原理を応用した自分オリジナルの模様を作った。例えばこれは幾何学的でなく、具象的な鳥の形で試みている。白と黒の鳥の反転図形で隙間なく画面を埋めている。これは幾何学図形でやるよりかなり難しいだろう。

そしてその習作を応用して、絵画作品にしている。例えば、この鳥の模様を使ったのが有名な「昼と夜」だ。そのほかにもこの原理を活かした作品を多数制作している。


こういうアラベスク模様は、日本にあるイスラム教のモスクでも少し見られるが、大阪万博に何かないかと思いついて、イスラム圏の館をネットで調べたらあった。ウズベキスタン館で、館内の四方の壁全体に映像が写し出されている。おそらくプロジェクション・マッピングで、映像の大きさも実物と同じ原寸だろう。壁全体を覆うアラベスク模様が壮観で、迫力がありそうだ。



2025年9月10日水曜日

「コピペ」について

 「copy & paste」

「コピペ」は、「copy & paste」で、人の書いたものを書き写して(copy)自分の文章に貼り付ける(paste)だけという意味だ。普通の人は「コピペ」は恥ずかしいこととしてやらない。しかしコピペ大好きなコピペ専門の人もいる。

「コピペ」は、読んだことに対する自分の「感想」やら「意見」などがいっさいない。書き写すだけで終わりになる。ちなみに「引用」は「コピペ」と違う。「誰それは〜と言っている」で終わるのはコピペだが、「誰それは〜と言っているが、自分はこう思う。」などと自分の考えを述べるのが「引用」だ。


2025年9月8日月曜日

映画「遠い山なみの光」

 A Pale View of Hills


公開そうそうに「遠い山なみの光」を観た。カズオ・イシグロ原作の映画はすべて素晴らしかったので、この映画も期待して見に行った。

映画は、終戦後間もない、まだ原爆の傷が残っている1952 年の長崎と、1980 年代のイギリスという時代的にも距離的にも遠く離れた二つの舞台が交互に交差しながら進んでいく。長崎で生まれたイギリス人のカズオ・イシグロ自身に重ねている構成だ。

イギリスに住む作家志望の若い女性(ニキ)が、小説の題材にするために、母(悦子)から家族の歴史を聞き出していくという形で物語は進む。それを通して、戦争責任をめぐる世代間の溝や、戦後の日本女性の生き方が描かれる。そして最後に、悦子がついていた「嘘」が明らかになっていく・・・

ノーベル賞受賞のカズオ・イシグロの原作は、ちろん英語で書かれている。そしてすでに映画化された名作「日の名残り」も「私を離さないで」も、英語原作のイギリス映画だった。そして「日の名残り」はアンソニー・ホプキンスが主役で、「私を離さないで」はキャリー・マリガンとキーラ・ナイトレイという演技力が最高の名優たちだった。だから、感情の表現を抑制する演技がいかにもイギリス映画らしくてよかった。その演技が、カズオ・イシグロの小説の魅力である、曖昧でミステリアスな特徴を活かしていた。しかし今回の映画化は、なんでも説明的にしてしまうのが好きな日本映画で、しかも主役がファッションモデルの広瀬スズあることに不安があった。だが、まあまあにまとめたのはやはり原作の力だろう。


2025年9月6日土曜日

映画「おもいでの夏」(「Summer of '42」)

 Summer of '42

前回、生まれた年の1942 年の出来事をもとにした映画3つを紹介したが、追加でもうひとつ「おもいでの夏」をあげる。原題が「Summer of  '42」で、自分の生まれた年が題名になっていているためもあり、この映画には強い印象が残っている。ある作家の回想録をもとにした映画で、思春期の少年の甘く切ない思い出の物語だ。なぜ 「'42 」なのかは、すでに第二次世界大戦が始まっていて、戦争が落とす影がストーリーの重要な軸になっているためだ。

ひと夏、ある島に一家と避暑にやってきた少年が、仲間の”悪ガキ”たち3人でいつも遊んでいる。ある日、島の先端の家に住んでいる若い夫婦を見かける。新婚らしい二人は幸せそうだ。しかしやがて、夫は招集されてヨーロッパ戦線に送られる。少年はひとり残された美しい女性に憧れを抱き、親しくなっていく・・・

・・・ラストで、いつものように少年が女性の家を訪れると、女性の姿が見えない。するとテーブルの上に置いてある電報が目にとまる。夫が戦死したという陸軍省からの知らせだった・・・

ミッシェル・ルグランのテーマ曲は、今でも映画音楽の名曲としてよく耳にするが、聴くたびに映画のシーが目に浮かんでくる。


2025年9月4日木曜日

今年は「昭和 100 年」 自分が生まれた年の歴史を映画で知る


今年は「昭和 100 年」ということで、昭和を振り返る企画がたくさん行われている。なかでも産経新聞の「プレイバック100 年」は、昭和生まれの有名人たちが自分の生まれた年の出来事を調べて、それをつないでいくことで、昭和の歴史を浮かび上がらせる、という企画で、面白かった。それで自分でも生まれた年の出来事を調べてみた。

昭和 17 年(1942 年)の出来事
 ・日本軍、マニラを占領
 ・日本軍、シンガポールを陥落
 ・大日本婦人会発足
 ・アメリカ大統領が、日系人の強制収容を命令
 ・食料管理法制定、米が配給制になる
 ・東京に初空襲
 ・ミッドウェー海戦で日本軍敗北
 ・日本軍、ガダルカナル島から撤退

戦中なので戦争関係の事項ばかりだが、当時は誰もがウソだらけの「大本営発表」でしか戦争を知らなかった。歴史の真実を知るには映画がいちばんいい。ということで上記の 1942 年の出来事のうちの3つを題材にした映画を紹介する。(これらは現在でも DVD で観ることができる)



⚫︎ミッドウェー海戦で日本軍敗北 「ミッドウェー海戦」

1942 年のミッドウェー海戦は、真珠湾攻撃以来、連戦連勝だった日本軍が敗戦への坂を転げ落ちていく始まりだった。よく知られているように、すでにアメリカは日本の暗号を解読していたので、日本軍の作戦が筒抜けになっていた。それでアメリカ艦隊がミッドウェーで待ち伏せして、日本艦隊を壊滅させた。しかし日本の「大本営発表」では日本の大勝利ということになっていた。

その戦いを記録したのが、ジョン・フォード監督の「ミッドウェー海戦」だ。従軍して戦争記録映画を撮っていたフォード監督が、ミッドウェー海戦を撮った実写映像だから迫力がある。フォード自身も被弾して負傷したが撮り続けたという。その年 1942 年にすぐに公開されて、アメリカ人の戦意高揚に役立った。


⚫︎東京空襲が始まる 「東京空襲 30 秒」

上記ミッドウェー海戦の大惨敗で、日本は太平洋の制海権と制空権を失った。この年に東京空襲が始まったのも、そのためだった。その後アメリカは「飛び石作戦」で次々と太平洋の島々を奪って日本に近づいていく。1942 年の時点ではまだ日本から遠かったが、ドゥーリトル中佐の爆撃隊が初の東京空襲を試みた。

その再現ドラマが、「東京空襲 30 秒」だった。ガソリンは満タンでも片道分しかないが、爆撃後は中国に不時着する計画だ。そして空襲は成功し、東京・横浜・川崎などに打撃を与えた。当時中国はアメリカの同盟国だったので、計画通り中国に不時着した乗組員は、中国人に助けられ、無事にアメリカに帰還できた。映画は戦中の1944 年に公開された。


⚫︎アメリカで日系人の強制収容が始まる 「愛と哀しみの旅路」

真珠湾攻撃の時、ハワイに住む日系人が、真珠湾のアメリカ艦隊の動静を日本に通報していたとされていた。日系人は敵性外国人とされ、 1942 年にルーズベルト大統領は日系人の強制収容の命令を出す。日系人は全て拘束されて、アリゾナの砂漠地帯の収容所に送られた。

「愛と哀しみの旅路」は、収容所送りになった日系人女性の悲劇を描いている。LA のリトルトーキョーで働いていた主人公は、差別を受けている。そして白人の夫と引き離され、収容所に送られる。この映画で、今でもほとんど知られていない収容所の過酷な実態を見ることができる。ただしこの映画は、すでにアメリカ政府が強制収容は誤りだったと認めた後の1990 年制作なので、日本人の側に立った映画になっている。


2025年9月2日火曜日

「防災の日」の政府防災会議

 Disaster Prevention Day

昨日9月1日は「防災の日」だった。例年どうりこの日には、首相以下全閣僚が危機対応の訓練をする「総合防災会議」が行われ、その様子が TV で報じられていた。

しかしこの会議は、全員防災服を着ている儀式的なパーフォーマンスで、緊迫感などまったくない。そのことをある官僚が暴露していた。この会議のシナリオは官僚が作っていて、誰がどういう順番で、何を発言するかがも全て決まっていて、その台本どうりにペーパーを読んでいるだけなのだという。(写真でも全員がペーパーを眺めている)まず首相が「全力で被害状況を把握して、住民の安全を最優先に、政府一丸となって対応にあたるように・・」的なお決まりの訓示を垂れる・・・

この防災会議は、福島原発事故のわずか1ヶ月前にも開かれていた。その時もおざなりな台本朗読方式だったから、全員がその訓練のことなど頭に何も残っていない。だから事故が実際に起きて、首相以下全員どうしていいか分からず右往左往した。

特に住民の避難指示がひどかった。事前の訓練会議で、すでに住民避難のさせ方についてレクチャーされていた。この地域の風向きが南東からなので、放射能は北西の方向へ広がっていく。だから北西方向の 30 km の範囲の住民を避難させなければならないとしていた。ところが実際に出された避難指示は、原発から半径 10 km の同心円を描いただけの範囲だった。そして官房長官は連日 TV で「健康被害の心配はありません」と言い続けた。そして教わったとうりの避難区域に訂正したのが一週間後だった。その間、被害状況は悪化し続けた。ちなみにこの時政府が言い訳けに使った「想定外」は、政府のバカさ加減を表す言葉として、当時流行語になった。