2025年6月14日土曜日

ハイパーリアリズムの絵画

 Hyperrealism

「ハイパーリアリズム」は超写実主義の絵画をいうが、多くは写真をもとにするので「フォトリアリズム」とも呼ばれる。さらにはそれ以前の、ワイエスやホッパーなどの写実主義も含めて「アメリカンリアリズム」と呼ばれ、アメリカ美術史の主流をなしている。

写実主義の殿堂「ホキ美術館」へ行くと、来館者は「写真みたいだ!」と感嘆している。実際、展示されている絵の多くは、意図して写真に見えるように描いている。しかし「ハイパーリアリズム」はそうではなく、写真を利用しながらも、写真以上に「現実」をありのままに描こうとする。既存の価値観に依存した「美しい絵画」ではなく、「そのものズバリ」を描こうとする。

モデルを美しく、あるいは立派な人間として描こうとする一般的な人物画と違って、ただズバリ「ありのまま」を描いている。


どこにでもあるような裏ぶれた店を描いていて、決して「絵になる風景」ではない。しかし傷だらけの車まで含めて、隅々まで忠実に「現実」を描いている。


2025年6月12日木曜日

イラストの手法「ヴィネット」

Vignette

「ヴィネット」(Vignette)という言葉は、フランス語の「ぶどう」という意味の「ヴィーニュ」(Vigne)から来ている。中世の装飾本の挿絵に「ぶどう」の「つる」がモチーフに使われた。各ページの周辺に文字を囲むようにぶどうのつるが描かれている。

このことから、イラストレーションの手法としての、「ヴィネット」(Vignette)になった。雑誌の挿絵や広告で盛んに使われる。絵画(タブロー)との違いは、小さいサイズの絵で、スケッチ的ないし素描的な描き方の、軽妙な表現が特徴。また画面全体を埋めるのではなく、余白の面白さを活かす。さらに印刷媒体に使われることから、テキストとの関係を意識することも重要になる。かつて集めたスクラップのなかからいくつかを紹介。





2025年6月10日火曜日

映画「THE DAYS」

「THE DAYS」


映画「THE DAYS」のネット配信(NETFLIX)が始まった。 福島原発の事故の一部始終をドキュメンタリータッチで描いた再現ドラマだ。入念なリサーチに基づいていて、あの日、関係者たちはどう動いたかが克明に描かれている。

巨大津波で水没した原発は、全電源を失い、冷却機能を失った原子炉はメルトダウンの危機が刻々と迫っている。所長以下職員たちは放射線の危険を顧みず、原子炉建屋に入って決死の復旧を試みる。

ところが、東京の東電本社の幹部たちは、現場の所長に電話で怒鳴り散らすだけで何も手を打つことができない。それどころか悪戦苦闘している現場の妨害をしている。さらに本社の経営トップの記者発表では、記者の質問にまともに答えられず、トンチンカンぶりを露呈してしまう。この事故は津波によるものではあるが、人災とされる所以だ。

もうひとつの人災は首相だった。現場の状況を把握できない首相はいらついて、まわりの関係者を怒鳴り続ける。最後に我慢できなくなって現地へ乗り込んでいく。そして所長に状況を説明しろと迫る。このことは当時から現場の邪魔をしているだけだと批判されていた。

連日行われた官房長官の記者発表が今でもはっきり記憶に残っているが、映画でもその通りに描かれている。深刻な緊急事態であるにもかかわらず、住民の避難を指示しない。「健康被害の恐れはないので、自宅に止まってください」と言い続けた。これも被害拡大の原因になった人災のひとつだった。


おりしも、先週6月6日に東京高裁が、東電旧経営陣の法的責任を認めない判決を下した。(下は6/7. 日経新聞記事)この判決に納得できない人は多いだろう。この裁判は津波の予見性に関わるものではあるが、事故後の東電経営陣や政府の責任についても疑問を持つ人は多いのではないか。この映画はそのことを強く感じさせる。


2025年6月8日日曜日

映画「リターン・トゥ・スペース」

「Return to Space」

イーロン・マスクは、トランプ大統領の請われて政府入りしたが、メチャクチャなことをして国民の大反発を受け、結局トランプとも大喧嘩してクビになった。このニュースが連日 TV で伝えられているが、そのイーロン・マスクの宇宙事業での功績を描いたのが、ドキュメンタリー映画「 リターン・トゥ・スペース」(NETFLIX)だ。

半世紀前にアメリカが世界初の有人月面着陸に成功したが、その後は各国が続々と月面着陸に成功し、中国は月の裏側に着陸するまでになった。そこでイーロン・マスクは、月より難しい火星への民間宇宙旅行を最終目標にして宇宙開発ビジネスに挑む。だから題名の「リターン・トゥ・スペース」(Return to Space)は「もう一度宇宙へ」という意味だ。

映画のクライマックスは、国際宇宙ステーションへの宇宙船のドッキングだ。両方とも地球を周回しながらのドッキングだから、月面着陸よりも難易度は高いだろう。徐々にスピードを下げながら接近するが、失敗すれば今度の日本の月面着陸のような激突になってしまう。ついに成功し、乗組員が宇宙ステーションに乗り移るシーは感動的だ。

この映画は、開発過程の中で、何度もイーロン・マスクが登場してコメントする。NASA との共同事業ではあるが、資金提供しているイーロン・マスクが主導しているプロジョジェクトであることがよくわかる。またマスクがトランプ内閣に招かれたのはそのためだろうこともわかる。


2025年6月6日金曜日

「超知性」はできるか

Superintelligence


先日、「AI は頭のいいバカ」だと悪口を書いたが、AI 科学者も当然、次の段階の AI 開発を始めている。「AGI」と呼ばれる「人工超知能」で、’27 年の達成を目指しているという。

その目標は、人間並みの知性を持つ AI で、その研究者はこう説明しているという。「ニュートンが、落ちるリンゴを見て万有引力の法則をひらめくことができたような知性だ」

人間の推論形式は「帰納」と「演繹」だが、 AI はそれを完璧にやってのける。しかし人間には「アブダクション」という AI にはできない推論能力を持っている。それがニュートンがやったような「ひらめき」という知性だ。それはニュートンのような天才にしかできない知性だが、「AGI」は、それが普通にできるようになるという。

本当にそんなことが達成できるのか半信半疑だが、もしできたら、 AI を人間が制御できなくなり、恐ろしいことになると警告する科学者もいる。


2025年6月4日水曜日

「スマホ認知症」が高齢者に増えている

 Smartphone Dementia

朝から晩まで一日中スマホを使っていると、過剰使用が原因の「スマホ認知症」になる。最近、高齢者に増えているという。スマホを使っていると”頭を使う” から認知症にならないと思うのは全くの逆で、スマホに ”おまかせ” 状態になり、自分の頭で物事を考えなくなる。そして脳の認知機能が低下して認知症になる。しかし本人はそのことに気づいていないことが多い。

そもそも脳の「認知機能」とは、次のようなステップで行われる。

 ① 外から「情報」が脳にインプットされる。
 ② 受けた情報を脳の中で「整理」する。
 ③ 整理した情報について、「解釈」「思考」「判断」する。
 ④ その結果を、「話す」「書く」などの形でアウトプットする。

この各ステップを「スマホ認知症」の人に当てはめるとこうなる。

 ① インプットをスマホだけに頼っていて、多面的な情報が入ってこない。
 ② スマホからの過剰な情報を整理できなくて、脳の中が「ゴミ屋敷」状態になる。
 ③ スマホに「おまかせ」状態になり、自分の頭で「考える」ことをしない。
 ④ 話すとき、思いついたことを次々に脈絡なく口に出すだけで中身がない。

専門家によれば、「スマホ認知症」になると、認知機能の低下だけでなく、下半身のかゆみや痺れなどの身体的な不調も生じやすいという。また「スマホ認知症」は、アルツハイマー型認知症に進展しやすいという。

2025年6月2日月曜日

「西洋絵画、どこから見るか?」展の静物画

 Bodegon (Still Life) 

国立西洋美術館で開催中の「西洋絵画、どこから見るか?」展を観た。

「ボデゴン」はスペイン語の静物画のことだそうだが、これはその最高傑作だとされる。ファン・サンチェス・コターンというスペインの画家の「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」。

17 世紀の作品だが、驚くほど近代的だ。モチーフを壁のくぼみに配して細密描写をするというのは当時の「だまし絵」の定番手法だが、この場合は、モチーフをカーブした一列に並べて、画面中央に暗い空間を大きく残している構図が斬新だ。

この絵の隣にもう一枚、ファン・バン・デル・アメンという同時代の画家の静物画が並べられている。こちらは、当時の静物画の普通の構図で、モチーフがぎっしりと画面いっぱいに描かれている。これと比較すると、モノだけでなく、空間を意識した構図の上の絵が斬新なことがよくわかる。