「The Boy and the Heron」
今話題の「君たちはどう生きるか」を観た。82 歳の宮崎駿の最後になる(だろう)渾身の一作だ。10 年前の前作「風立ちぬ」は、堀辰雄のセンチメンタルな小説をアニメ化した作品で、宮崎駿らしさがあまりなかったが、今回は宮崎ワールドを思う存分に作り上げている。題名は、「君たちはどう生きるか」という戦前の本からきているが、軍国主義の時代にあっても、自由な個人として生きるために、自律的に物事を考えるべきことを教える本だった。映画の内容は、この本と直接関係はないが、主人公の少年がこの本を読んでいるシーンが出てくる。これは宮崎駿自身の体験だったのだろう。
ストーリーは、東京大空襲で自分の母親を亡くすという少年の戦時中の悲劇的な体験から始まり、後半は母を取り戻すために、死の匂いがふんぷんとする怪しい異界へ入っていく冒険物語になっている。
宮崎駿の戦時中の体験をもとにした「生と死」がテーマの映画だが、そいう経験のない人は普通にファンタジック・アドヴェンチャー映画として見るかもしれない。しかし戦時中のシーンがとてもリアルで、宮崎駿と同年代の人間にとってはファンタジーには思えない。例えば子供の頃、夜寝ている時に空襲警報が鳴ると、飛び起きて洋服に着替えて防空壕に飛び込むのだが、そのために枕元にきちんと畳んだ洋服を置いて寝るの習慣だったが、その畳んだ洋服が忠実に描写されていて、おおっ!と思ったりする。
アメリカでの公開はこれからだが、英語の題名は「The Boy and the Heron」になっている。「Heron」は「サギ」の意味で、映画の主人公とつねに行動を共にしている「青サギ」を指している。アメリカでは「青サギ」はスピリチュアルな鳥で、「決断力」「判断力」「自立心」などの意味があるという。映画の最後で、異界で生きている大叔父から自分が築きあげた世界を引き継いで守っていくよう頼まれるが、それを拒否して、新しい世界を自分で創っていこうと決断して、現実世界に戻っていく。まさに「青サギ」のスピリットだが、ここではじめて、自立心と決断力を問うている本である「君たちはどう生きるか」とのつながりが見えてくる。
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