「The Book of Lost Things」
ジョン・コナリーの「失われたものたちの本」が、宮崎駿のアニメ「君たちはどう生きるか」に大きな影響を与えたという。本の帯に「ぼくをしあわせにしてくれた本です。出会えて本当に良かったと思ってます。」という宮崎駿の推薦文がある。そしてアニメの物語構成が、この本とそっくり同じになっている。ラベル
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2023年7月31日月曜日
「失われたものたちの本」
2023年7月27日木曜日
映画「君たちはどう生きるか」
「The Boy and the Heron」
今話題の「君たちはどう生きるか」を観た。82 歳の宮崎駿の最後になる(だろう)渾身の一作だ。10 年前の前作「風立ちぬ」は、堀辰雄のセンチメンタルな小説をアニメ化した作品で、宮崎駿らしさがあまりなかったが、今回は宮崎ワールドを思う存分に作り上げている。題名は、「君たちはどう生きるか」という戦前の本からきているが、軍国主義の時代にあっても、自由な個人として生きるために、自律的に物事を考えるべきことを教える本だった。映画の内容は、この本と直接関係はないが、主人公の少年がこの本を読んでいるシーンが出てくる。これは宮崎駿自身の体験だったのだろう。
ストーリーは、東京大空襲で自分の母親を亡くすという少年の戦時中の悲劇的な体験から始まり、後半は母を取り戻すために、死の匂いがふんぷんとする怪しい異界へ入っていく冒険物語になっている。
宮崎駿の戦時中の体験をもとにした「生と死」がテーマの映画だが、そいう経験のない人は普通にファンタジック・アドヴェンチャー映画として見るかもしれない。しかし戦時中のシーンがとてもリアルで、宮崎駿と同年代の人間にとってはファンタジーには思えない。例えば子供の頃、夜寝ている時に空襲警報が鳴ると、飛び起きて洋服に着替えて防空壕に飛び込むのだが、そのために枕元にきちんと畳んだ洋服を置いて寝るの習慣だったが、その畳んだ洋服が忠実に描写されていて、おおっ!と思ったりする。
アメリカでの公開はこれからだが、英語の題名は「The Boy and the Heron」になっている。「Heron」は「サギ」の意味で、映画の主人公とつねに行動を共にしている「青サギ」を指している。アメリカでは「青サギ」はスピリチュアルな鳥で、「決断力」「判断力」「自立心」などの意味があるという。映画の最後で、異界で生きている大叔父から自分が築きあげた世界を引き継いで守っていくよう頼まれるが、それを拒否して、新しい世界を自分で創っていこうと決断して、現実世界に戻っていく。まさに「青サギ」のスピリットだが、ここではじめて、自立心と決断力を問うている本である「君たちはどう生きるか」とのつながりが見えてくる。
2023年7月23日日曜日
映画「ビッグ」とその時代
「BIG」
「ビッグ」というロマンチック・コメディは、今から 35 年前の 1988 年公開で、今から35 年前の映画だが、この時代を思い起こさせる場面がたくさん出てくる。
まず舞台のニューヨーク都心の風景が写し出されるが、日本の電機メーカーのネオンで埋め尽くされている。この時代確かにそうだったなと久々に思い出す。JVC, PANSONIC, TOSHIBA, MINOLTA, SONY, などなど・・・
特に SONY のネオンは巨大だが、この頃コロンビア・ピクチャーズを買収した時代だった。アメリカ人にとっては、アメリカの魂である映画会社が日本企業に買われてしまったことには少なからず反感を買われたようだ。今の中国のように。
主人公の 13 歳の少年がビデオゲームに熱中しているが、モニターはブラウン管で、メディアはフロッピー・ディクス。画像は 8 ビットで粗いが、当時は日本でも同じで、みんなが夢中になっていた。
ゲームソフトのレンタル店も出てくるが、この店のショーウィンドウに「ATARI」の看板が見える。当時一世を風靡したゲームメーカーだが、粗悪なソフトを乱造して自滅してしまう。有名な「アタリ・ショック」だが、これをみて任天堂は、ソフトのクオリティが重要なことに気づいて、大成功を収めていく。
大人になった主人公は玩具メーカーに就職して商品企画を担当するが、画期的なアイデアでヒットを連発する。そして最後にビデオゲームに進出する計画を考えて社長にプレゼンする。 絵コンテで説明しているのは、ユーザーがストーリーを自分で決めていく、今でいう RPG のはしりだ。アナログ玩具会社が IT 企業に転身して成功した任天堂を思わせる。
冒頭の電機メーカーのネオンは今は一つもないし、そもそも企業自体が沈没してしまったところもある。ただ任天堂や SONY のように IT コンテンツ企業に転身した会社がまだ元気だが、この映画はそんなことを予言しているかのようだ。
2023年7月19日水曜日
映画「スーパー・マリオ・ブラザース」
「The Super Mario Bros.」
Illumination と任天堂が共同製作した興味深い映画で、ジャンルもフォーマットも違う映像メディアである映画とゲームという二つが切れ目なく一体化している。登場するキャラクターも繰り広げられるアクションも、ゲームの「マリオ」の元ネタが満載なのは当然だが、他にもちょっとしたことだが、こんなことにも注目した。
冒頭で、マリオが住んでいる場所としてブルックリンの街がが示され、そこのアパートで暮らすイタリア系移民であるマリオの家族が登場し、そしてマリオが弟といっしょに配管工として働いているシーンが続くが、それが映画全体の導入部になっている。
ここでマリオの、住居、家族、仕事、を具体的に示すことで、「ゲーム」のキャラクターだったマリオを、リアリティのある「映画」の主人公に変身させている。(映画「ブルックリン」は、ブルックリンに住むアイルランド系移民の女性がイタリア系移民の青年に恋をするという物語だが、青年がやはり配管工だった。)
これなどゲームと映画の融合の結果だと思うが、任天堂は「マリオ」をディズニーの「ミッキーマウス」並みの IP キャラクターに育ていく”野望” を抱いているのかもしれない。
2023年7月15日土曜日
ディズニーアニメの ”名誉挽回” 法
Disney Animation
2023年7月11日火曜日
映画「リトル・マーメイド」
「The Little Mermaid」
けっこうよくできていて、じゅうぶん楽しめる映画だ。かつてのアニメ版を実写に変えたリメイクだが、人魚のアリエルの役にハリー・ベイリーという新人の黒人女性を登用したことが大きな議論になっている。
我々日本人には、彼女は純真で賢くて可愛いいし、なんの問題もなく思えるが、アメリカではこのキャスティングに賛否両論で割れているという。アニメ版では白人で赤毛だったアニエルが、今度は黒人になってしまい、いままで抱いていた人魚姫のイメージが壊れてしまった、というのが反対派の声だ。しかしその裏に人種差別的な意識があるように思える。
近年、多様化と共生への声が高まるなか、映画界は白人中心主義が根強いと批判されている。それをかわすために、マイノリティを主役にしたり、その作品にアカデミー賞を与えたりしている。特に、グリム童話やアンデルセン童話などをもとにしたディズニーのアニメ映画は、表向きの ”美しい夢の世界” とは裏腹に、人種差別の ”宝庫”と批判され「暗黒ディズニー」などと呼ばれてきた。だから今、過去のそういう作品を修正したり、アーカイブから消し去って、そんな映画はもともと存在しなかったふりをしたりしている。この「リトル・マーメイド」で、黒人を主役にしたのもディズニーのイメージチェンジのねらいの一環だろう。主役の他にも、人魚姫の6人の姉妹の中に、アフリカ系やアジア系の顔が混じっていたり、王子様の母親がなぜか黒人だったりして、多様化社会を無理やり演出している感があって、かえって不自然さを感じてしまう。
2023年7月7日金曜日
柴田敏雄の写真
Photographs by Toshio Shibata
今、開催中の抽象絵画の展覧会「アブストラクション展」(アーティゾン美術館)を見ていたら、まるで写真のような表現の絵画があった・・・と思ったら、ほんとうに写真だった。
それで柴田敏雄という写真家を知って、その作品集を見てみた。モチーフにしているのは、すべてダムなどの「土木」で、その大規模な人工物の「造形美」を撮っている。同じ人工物でも、使う人の美意識に配慮して作られる車や住宅と違って、純粋に構造力学から生まれる形だから抽象性が高い。だから一見、抽象絵画に見えて、抽象絵画展に展示されていても違和感がない。
2023年7月5日水曜日
2023年7月2日日曜日
「なぜ脳はアートがわかるのか」
「Reductionism in art and brain science」
「なぜ脳はアートがわかるのか 現代美術史から学ぶ脳科学入門」は、抽象絵画を人はどうして理解できるのかを脳科学の観点から説いている面白い本だ。著者は、エリック・カンデルというアメリカの脳科学者。
ターナーの例が出てくる。左は若い頃の海洋画で、帆船が嵐に翻弄されている。暗い雲や波立つ荒波などが写実的に描かれていて迫力がある。右は同じモチーフの晩年の作で、雲は黒い渦状の帯に単純化されていて、船はマストの線一本だけになっている。抽象画とは言えないが、そちらへ一歩踏み出している。そして嵐の恐ろしさはこちらの方がより伝わってくる。絵画が見る人の情動を動かすのは、写実よりも、現実の形を単純な形に「還元」した絵画の方で、抽象絵画を人間が「わかる」のはそのためだとこの本は説明している。
そのことを脳科学の実験で証明している。チンパンジーの写真や絵をチンパンジーに見せて、脳波の反応の仕方を調べている。a は写真で、b c d はそれぞれ顔を単純化した図形に変えてある。c d は目や口だけで、脳波の反応は低いのは、これらは顔だとは認識されにくいから当然だろう。面白いのは a の写真よりも、b の図形の顔のほうが反応が強いことで、写実的な顔よりも、単純な図形に「還元」したほうが、顔だということを強く認識していることがわかる。
本では、戦後アメリカで隆盛を極めた「ニューヨーク派」の抽象絵画を詳しく取り上げている。アクション・ペインティングのポロックや、抽象表現主義のデ・クーニングなどだ。デ・クーニングのこの「発掘」は、ジャズ音楽を思わせる都市の力動を描いている。リズム感あふれる線が、動いたり、急に曲がったり、止まったりする。しかしこれらの線は具象的な人体の姿を感じさせる。カンディンスキーの完全に抽象的な還元主義と違って、具象の還元主義と言える。
脳科学では、ものを理解する頭の働きについて、全体を部分に分解する「還元」と、部分を集めることで全体を理解する「統合」の二つがあり、抽象絵画では「還元」が行われ、具象絵画では「統合」が行われる。ところがこの本で、具象絵画で還元主義の試みを行ったチャック・クローズというユニークな画家を取り上げている。下の例のように、モデルの写真を撮り、それをグリッドに分解して、キャンバスの上で、各グリッドの中に小さい図形を描いていくという「還元」作業を行う。完成すると、各部分が「統合」されて一つの人物画が出来上がる。