2023年1月20日金曜日

「ピカソとその時代」展のパウル・クレーの作品

 Picasso and His Time

「ピカソとその時代」展は、ピカソとクレーを中心にした 20世紀美術展だが、クレーの作品 34 点は、すべてがバウハウス時代の作品で、日本初公開が多い。だからこれらは、手元にあるクレーの画集にもほとんど載っていない初めて見る作品ばかりだ。クレーがバウハウスの教授を務めたのは、 1 9 2 1 年からだが、やがてヒトラーが政権を握ると、バウハウスを弾圧し、クレーの作品は「頽廃芸術」の烙印を押されて美術館から強奪される。それでクレーは 1 9 3 1 年にバウハウスを辞めたのだが、その 1 0 年間の作品が今回展示されている。

こんな作品があった。「暗い扉のある部屋の透視図法」という絵で、題名どうり透視図法をテーマにした絵だ。クレーといえば色彩と詩情にあふれたグラフィカルな絵という印象が強いが、感覚的でない理論的な表現もあることがわかる。

バウハウスでの講義ノートをまとめたのが「造形思考」で、クレーの造形理論がよくわかる本だが、その中に透視図法の理論も出てくる。ただしそれは、図法の説明としてではなく、透視図法的な眼で物を見て、それを絵画の中にテーマとしてどう活かしていくかという論点で説明されている。

「アラビアの町」という作例が載っている。四角い家々が並んでいる風景だが、いろいろな眼の高さ(アイレベル)から見た家の形が組み合わさっている。正面から見た家は四角だが、上や下から見た家は台形になる。つまり視点が移動しているのだが、それを同一画面内に描いている。

このテーマをさらに発展させた作品もある。左の「屋根の上の7時」ではいろいろな角度から見た家が組み合わさっている。右の「町の城郭への道」では、さらに抽象化され、透視図的な街並みの形は消えて、2次元的なグラフィックになりきっている。クレーの作品の裏側に透視図的な視点が隠れていることを、この本で知ることができる。


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