「The Knowledge Illusion」
「知ってるつもり 無知の科学」は面白い本で、こんな実験の話が出てくる。大学生を被験者にして、不完全に描かれた自転車の絵を見せて、欠けている部品を付け足すよう求めた。結果は、とうてい走れないような自転車ばかりという惨憺たるものだった。自転車のような単純な物でも、知っていないのに、知っていると思っている。だからもっと複雑な社会問題や政治問題について、ほとんど無知なのに、そのことに気付いていない。だから世の中に溢れている、一見もっともらしい言説や、強硬に主張する極論などに引きずられてしまう。
「脱原発」のような世論を二分するような問題での実験もでてくる。まず脱原発に賛成か反対かを聞いたうえで、「脱原発について、関係する様々な要因間の因果関係についてできるだけ詳しく説明してください。またその政策をとった場合の影響について、できるだけ詳しく説明してください。」と質問をした。結果は、賛成の人も反対の人も共に、説明する能力はまったくお粗末だった。政策の仕組みについて説明を求められても語れる人はほとんどいなかった。(本では、アメリカの「医療制度改革」で実験しているが、本稿ではわかりやすくするために、日本の「脱原発」に置き換えている)
次の段階で、この問題に対する自分の理解度の自己評価をしてもらったうえで、もう一度政策に対する賛成/反対の意見を言ってもらった。すると、初めに強く賛成していた人も、強く反対していた人も、どちらも中庸の意見に近ずいていったという。つまり自分が無知であることを自覚すると、判断が慎重になるということがわかる。
客観的な因果分析にもとずく議論は国民は苦手だ。だからそれを利用して、特定の政治的立場の人たちが、単純な価値観の問題(例えば「唯一の被爆国の日本は・・」的な)にすり替えることで支持を得ようとする。騙されないためには、まずはじめに「自分は無知である」ことを知って、知識を得るべきことを強調している。
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