2022年11月3日木曜日

「ストーリーが世界を滅ぼす」

「The Story Paradox」 

2ヶ月前に出たばかりの「ストーリーが世界を滅ぼす」という本が面白い。世界にあふれている政治家や評論家やメディアなどが語る「ストーリー」という ”闇の力” が、気付かないうちに我々の心に影響を与え、コントロールしている実態を暴いている。

極端な例だが日本でも、宗教団体が作り上げた「ストーリー」でたくさんの人々がコントロールされてしまった。

巧妙なストーリーテラーほど『語らず、示す』という。面白い例が出てくる。文豪ヘミングウェイは、筆力を自慢して、小説一冊分の内容を、たった6つの単語で書ける、と豪語して書いたのは「For sale : baby shoes, never worn.」で「売ります:ベビー靴、未使用」だった。これを読んだ人は、心の中にストーリーが生まれる。『これから生まれてくる待望の我が子のためにベビー靴を買ったが、死産してしまった。希望が砕けて悲嘆にくれる貧しい夫婦は靴を売りに出すことを決めた。』といった具合に。しかしこの6語自体は、そういうストーリーはいっさい「語らず」ただ事実を「示す」だけで、解釈は読む人にまかせている。

同じ意味で、映画のことにも触れている。映画館から出て振り返るとき、物語の思想や情報を、自分がもともと持っていた世界観に照らし合せて映画の意味を理解する。だからすぐれた映画はストーリーを語りすぎず、見終わった後にも観客に考えさせるだけの「余白」がある。そうすると、物語は与えられたものではなく、自分の物語になり、説得力を持つ。

だから、自国の ”偉大な国” ストーリーを一方的に語り、それを根拠に外国を攻撃する政治指導者の物語には説得力がない。


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