2022年10月19日水曜日

ホッパーの「深夜の人たち」と、小説「ナイトホークス」

 Nighthawks

「深夜の人たち」はホッパーの最高傑作として有名だが、原題は「Nighthawks」つまり「ナイトホークス(夜鷹)」だ。街が寝静まった深夜のカフェで、二人ずれの男女と、うつむいてコーヒーを飲んでいる男の姿から、都会で生息する人たちの孤独や倦怠感が滲み出ている。そして男女ふたりは訳ありで、背中の男がそれを盗み見みしているようにも見える。このどこか”不穏な”絵の雰囲気が、都会の孤独や不安をテーマにした映画や小説でよく引用される。


ミステリー小説の「ナイトホークス」にこの絵が登場する。主人公は、ハリー・ボッシュという、ヴェトナム戦争のトラウマをかかえた”訳あり”の刑事だが、彼の心象風景を表すのに、この絵が印象的に使われている。

彼はこの絵が好きで、事件に没頭している時に、よくこの絵のことを考えたりする。通りに面した店のカウンターに、静かな雰囲気の影のような男がひとりで座っているが、その男と自分を同一視している。『俺はあの男だ。俺は一匹狼のナイトホークだ』とボッシュは思う。『暗闇。どうしようもない孤独。一人きりで座って、暗闇に目を向けている男。俺はあの男だ。』とこの絵を見るたびにボッシュは思うのだった。

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