The Window
「窓」にはいろいろな機能がある。明るさ・風・眺めなどで「内と外をつなぐ」働きと、雨風や外敵を防ぐ「内と外を区切る」働きがある。
窓を題材にした絵は数多くあるが、特にマティスは窓辺の絵をたくさん描いた。その中でこの2点は「窓の意味」という観点で見ると対照的だ。
左の「窓辺の女」では、女が開け放たれた窓から外を見ている。ガウン、椅子、窓枠、などの室内と、ヤシの木、砂浜、などの室外とが共通して黄色いトーンで描かれている。さらに、遠近の奥行き感を無くして、窓の内と外が境い目のない連続した絵になっている。
右の「待つ」は対照的だ。外の明るい暖色の色調に対して、室内は寒色で、女の服装は黒だ。窓は閉まっていて、窓の黒い桟がはっきりと内と外を区切っている。そして二人とも窓の外を見ていない。題名の「待つ」のとおり、右の女が頭を垂れて、外から来る何かを待っている。窓によって隔てられた、内と外との心理的な距離感が描かれている。
名作「八月の鯨」は、マティスの絵と同じ意味で、「窓」を主題にした映画だ。海を一望する眺めのいい家で老姉妹が生活しているが、誰も訪れてくることがない寂しい毎日を過ごしている。姉は、何もすることがなく、一日中、窓辺に座ったまま過ごしている。妹も家事はするものの、それ以外にすることがないから、わざとゆっくりと仕事をして、時間を引き伸ばしている。
この家は窓が小さいから室内はあまり明るくなく、どちかというと陰気な閉ざされた空間だ。妹は、ありあまる毎日の時間を費やすために、景色を眺めながら過ごせるように、海を見晴らす大きな窓を作りたいと姉に提案する。しかし目が不自由な姉は、そういう窓を必要としないから、反対をして喧嘩になる。
毎年8月になると、近くに鯨がやってくるが、二人が娘だった頃は、海へ走って見に行った。夏になるとその思い出がよみがえってくるが、歳をとった今、それは夢でしかない。外の世界から切り離されてしまったいま、せめて大きい窓を作ることで、内と外とをつなげる接点を取り戻したいと願っている。そして最後は姉が大きい窓を作ることに同意して映画は終わる。
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