2022年10月10日月曜日

絵の、風景と窓の関係

 Window & View

箱根の芦ノ湖のほとりに「成川美術館」という美術館がある。その展示室に窓が開いていて富士山と芦ノ湖が見えている。本物の風景を、あたかも風景画を展示しているかのように見せかけている。一種のトリックアートのようで面白い。


1 6 世紀のイタリアでは、壁面に風景を描いて、あたかもそこに窓があるかのように見せかけるだまし絵が流行った。これは貴族の邸宅だが、円柱が並んでいて、その向こうにローマの景観が見えているが、これらはすべて壁に描かれた絵だ。成川美術館は、本物の風景を絵に見せかけていて、これの逆をいっているわけだ。


 現代絵画では、キルヒナーが「日の当たる庭」で窓からの風景を描いている。上の絵で、円柱を描くことで、その向こうに見えるのが、窓から見た本物の風景だと思わせる効果を出していたが、この絵でも、手前にタバコと煙を描くことで、”風景の絵” ではなく、”窓から見た風景の絵” であることを強調している。


写真でも、ヴォルフガング・ティルマンスが窓から見た風景を撮っている。やはり手前に小物やソファを入れている。リアルな写真だから、大きく引き伸ばして壁に貼っておけば、1 6 世紀のだまし絵のように、本当に窓がそこにあるように見えるかもしれない。


デューラーの有名な図で、モチーフの前に四角い枠を置いて、それを通して対象を見ながら描くという、絵の描き方解説がある。絵はもともと枠という窓を通して見たものを描くというのが始まりだったわけだ。上にあげたような例は、枠の窓をはみ出して、窓の周囲まで同時に描くことで、デューラーの図のように、画家が  ”窓をとおして風景を見ている” という関係性を強調している。


ルネッサンス時代の画家アルベルティは「絵画論」の中で、「私は自分が描きたいと思う大きさの四角の枠を引く。これを私は、描こうとするものを見るための開いた窓とみなす。」と書いている。つまり「絵画=窓」と定義している。

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