2021年3月2日火曜日

黙示録映画「メランコリア」と絵画

Apocalypse movie「MELANCHOLIA」

ハリウッドの黙示録映画の多くは、人類の滅亡をスペクタクル的なディザスター映画にしているが、ヨーロッパ映画では、黙示録の世界観を正面から描いた優れた作品が多い。

デンマークのラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」(2 0 1 1 年)もそのひとつ。惑星が地球に接近してきて、ついに衝突して地球は消滅する。黙示録にある「松明のように燃え盛る巨大な星が天から落ちてくる」という記述がもとになっている。ラストで、惑星が空を覆うほどに巨大になって迫ってくる。衝突まであと数分になった時、主人公の女性は、姉とその子供の3人で、枯れ枝で作った三角形の ”シェルター” の中に入って死を待つ。


妹は広告会社の優秀なコピーライターという知的な女性だが、地球の終わりが近ずくにつれて「鬱」の錯乱状態になり、自分の結婚披露宴でありながら、宴会をめちゃくちゃにしてしまう。死を前にして、現実が空虚で浅薄なものに見えてきて、自分という人間をわざと壊してしまったのだ。吹っ切れた彼女は、姉が恐怖で打ち震えているのに対して、静かに運命の瞬間を待っている。そして地球はもともと邪悪なのだから、地球が消えても嘆くことはない、と黙示録的な言葉で姉を諭す・・・


この映画は、絵画が重要な役割をしている。主人公のイメージは 1 6 世紀のデューラーの銅版画「メランコリア」を下敷きにしている。左上に星が輝いていて、そこに「MELENCOLIA」という星の名前が書いてある。映画の題名とズバリ同じだからわかりやすい。そして天使の羽根をつけた女性が手にコンパスを持っているのは、天文学者であることのの寓意で、他にも数学や物理学を表す道具が描かれている。そして頰杖をついているのは「鬱」(メランコリー)状態にあることを示している。古来から知的な人間は「鬱」になりやすいと言われてきたという。この女性は、まさに映画の主人公そのものだ。(映画で、科学者は惑星は接近するが、すり抜けると嘘を言っていて、皆それを信じているが、彼女だけは衝突することを知っている。)


もうひとつ、披露宴の最中に書斎に入った彼女は、開いたままになっている画集を眺める。それはカンディンスキーなどの抽象絵画なのだが、突然それらを閉じて、代わりにブリューゲルの「雪上の狩人」などの古典的絵画の画集を開く。この行動は彼女のある決意を表していて、この直後、披露宴の招待客である上司の社長に向かってわざと暴言を吐く。そして別の招待客の男とわざと浮気をして、それを夫に見せつける。それによってすべてを失うが、もうそれ以上何かを失う恐れはなくなり、無の境地で静かに死を待つことができるようになる。画集はその転機の象徴として使われている。


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