2016年2月16日火曜日

閑人の 5☆ 映画 「2001年宇宙の旅」

" 2001 : A Space Odyssey "


「2001年宇宙の旅」は、50年ちかく前の作品だが、映画史上の名画ベスト30くらいにはいつも入るし、SF映画部門では断然トップで、もう古典名画と言っていいと思う。今更ながらこの映画のことを取り上げようと思ったのは、いま公開中の「オデッセイ」を見たからだ。これは火星に取り残された宇宙飛行士をありとあらゆる科学技術の知識を総動員して救出するというSF映画。原題は「The Martian」(火星の人)だが、邦題の「オデッセイ」は内容と無関係なタイトルだ。( 本家の "2001:A Space Odyssey" 以降、宇宙ものであれば内容いかんにお構いなく「〜オデッセイ」とつけたB級映画がたくさんある。)

Odyssey(オデッセイ)とは、ギリシャ神話が語源で「長い旅」といった意味で使われる。「2001年宇宙の旅」では人類史を「長い旅」になぞらえた現代版の神話物語とでも言える壮大な映画だった。しかし今では惑星探査も宇宙船も現実のものになっているので、今度の「オデッセイ」はリアルすぎてそんなロマンはない。宇宙が舞台のサスペンス映画と思えばいい。

「2001年宇宙の旅」の公開当時は「難しい」と言われたようだが、50年経った今では意味が理解し易くなったと思う。スタンリー・キューブリック監督のメッセージは冒頭の猿のシーンに凝縮されている。まだ人類誕生以前の頃、猿の群れどうしが水飲み場の縄張り争いをしている。ある時一匹が動物の骨で物を叩くと強い力が出ることに偶然気がつく。彼らは全員が骨を持って相手に襲いかかり勝利する。動物の骨という「道具」を使うことによっ人類が誕生した瞬間だ。

それから人類は道具を進化させ、より強くなっていくという長い旅(オデッセイ)を続けてきた。骨が敵と戦う道具であったように、その後も人を殺す戦争の道具を進化させ、あるいは原子力のような恐ろしいものも作った。そしてこの映画に登場する究極の道具が人工知能を備えたコンピュータで、それが人間に逆らい敵対的になる。今度の「オデッセイ」が科学技術に対して楽天的なのとは対照的だ。

「説明」のほとんどないこの映画では観る人が意味を読み取らなければならないが、科学技術による道具の進化によって行き着く先の世界を暗示させている。人間が人工知能に支配され、人間自身もクローンのような人工物になってしまい、いわゆる「人間」は消滅してしまう。そして人間をそのように「進化」させるように導いてきたのは、実は高度な地球外生命体で、それが人間を支配する「神」のような絶対的な存在であった・・・

当時よりずっと「進んだ」今の時代、もう一度この映画を観る価値があるように思う。

2016年2月10日水曜日

「ラインズ 線の文化史」

Tim Ingold,  " Lines : A Brief History "

いろいろな角度から「線」について書いた珍しい本で、とても面白い。盛りだくさんの内容から、ひとつだけ紹介します。


このような勢いのある線で描かれた建築スケッチは「建築家の頭の中で成長を続ける発展途上のアイデアのある瞬間を示している。」それに対して「CAD図面は手の軌跡を残すことがないので、検討の途中の線図でも、そのつど完成されたものとしてプリントアウトされてしまう。」 建築やデザインに関わるひとにはピンとくる話だと思う。


作曲家が作曲途上で書いている楽譜の例もあげている。頭に浮かんでくる音を「スケッチ」しているのだが、「ラインは活動的で、生きているように強烈な運動の感覚を伝えている。しかしこれは五線譜に印刷しないと、このままでは演奏者は読めない。建築のスケッチを建設業者に渡すときにはCAD化するのと同じように。」建築と音楽の違いはあっても両者のスケッチの線の性質がとてもよく似ているのが面白い。





近代建築では「直線性」が合理性や確実性を与えるものとされてきたが、同時に矛盾も引き起こす(例えば建築の画一化)ようになり、ポストモダニズムのような考え方が生まれた。この建築図面(左)は線がずたずたに断片化され、場所の連続性がない。現代音楽で五線譜の代わりに使われる図形楽譜の例(右)でも線が断片化されていて演奏の順序も明示されていない。これらも建築と音楽の違いにもかかわらず、見た目がそっくりだ。その共通性は「ばらばらになった位置の断絶の中から、見るひとが自分たちの道を見つけ出し、自分の場所を作ることができることにある。」と言っている。なるほどと思う。


2016年1月29日金曜日

閑人の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎映画「私を離さないで」

"Never Let Me Go"

今、テレビの連続ドラマで「私を離さないで」を放映しているそうだが、見ないことにする。映画で「私を離さないで」を観たのは5年くらい前だが、悲しく切ない物語で、キャリー・マリガンとキーラ・ナイトレイがハイティーンの少女役を初々しく演じた胸キュンの作品だった。そのいいイメージをテレビドラマで壊されたくない。

エンドロールで「Based on the Novel by Kazuo Ishiguro」というクレジットが出てきたので日本人の原作だったのかとびっくりした。それで初めてカズオ・イシグロのことを知った。血は純粋の日本人だが、小さい頃からイギリスで育ちイギリス国籍で日本語は話せない。小説も英語で書いている。

彼は村上春樹から大きな影響を受けたという。そう言われるとたしかにこの作品は「ノルウェーの森」を連想させるような共通点が多い。若者たちが世の中から隔離された特殊な施設で共同生活をしている点、彼らが未来への希望のない状況に置かれている点、そして死に向い合っている点、など。

世界中で高く評価されている彼は村上春樹と同じくノーベル賞候補だという。
予告編はこちらで  → https://youtu.be/o6aFQmcZEYo 

2016年1月24日日曜日

知らなかった、卍

Pictogram Design for Tokyo Olympic

2020年の東京オリンピックに向けて、外国人用の地図記号を新たに作るという記事が先日の新聞に載っていた。日本の地図記号は今のようにピクトグラムの国際標準化が進む以前に作られたので、外国人には通用しにくいのかもしれない。記事では、外国人の意見を参考にして作られたという各デザイン案の理由が説明されているが、そのなかで寺院の卍記号がナチスドイツを連想させるから三重の塔にした、とあった。

鎌倉をよく散歩するが、お寺が多いので、こんな案内標識があちこちにある。卍(まんじ)は日本人にはおなじみだが、これに不快感を示す外国人観光客がけっこういるらしい。先日読んだ中垣顕實著「卍とハーケンクロイツ」は、これについて書いたとても面白い本なので紹介したい。

この本を読んでから卍に目がいくようになり、あらためてお寺に行って、どのくらい卍が使われているか見てみた。下は浅草の浅草寺で撮った写真のほんの一部だが、そのつもりで見るとたしかにそこらじゅうに卍がある。


卍は仏教だけのシンボルかと思っていたが、ちがうそうだ。仏教 • ヒンズー教 • ジャイナ教など多くの宗教で使われてきた。地域的には日本やインドなどアジア全域、さらにはヨーロッパやアメリカにも存在していて、時間的には3千年以上の歴史がある普遍的なマークだということだ。これら世界各地の卍のバリエーションすべては共通して、「幸福」や「幸運」を意味している。このマークを総称する一般名称は「スワスティカ」(Swastika)というそうだ。


ナチの「ハーケンクロイツ」(Hakenkreuz)は似ていても起源は全く別で、キリスト教の十字架のバリエーションのひとつだそうだ。(だから日本では鉤形の十字架=『鉤十字』と訳されている)ところがこのマークがホロコーストのシンボルとなってしまったため、戦後、欧米では意図的に「ハーケンクロイツ」と呼ばず、あえて「スワスティカ」と呼ぶことで、キリスト教がナチと無関係であるふりをしてきたという。

欧米の観光客が日本の寺で卍を見つけると、仏教はナチのシンパかと怒る人がいる原因はそこにあると著者は言う。ハーケンクロイツは十字架であり、むしろキリスト教のほうががシンパであったことを欧米人自身が知らない(知らされていない)ことからくる誤解だ。だから著者の主張は、お寺の卍記号の横に正しい情報を知らせるように、英文の解説をかかげるべきだとしている。

2016年1月16日土曜日

パステル「イタリアの水差し」

にわとりの形をしたイタリア製の水差しを描いた。表面の模様が楽しいデザインだが、こういうモチーフは2Dの模様を3Dの形の上にちゃんと乗せるのがむずかしい。模様を立体の明暗に連動させればいいわけだが、自然に見せるのにかなり苦労する。
" Italian Pitcher "   Soft pastel,   Sanded paper,   40cm × 27cm  

以前、冗談半分でやったのだが、模様を究極の写実(?)で描いてみた。ラベルはボトルからはがした現物を貼付けたコラージュだが、そこに明暗を加えてボトルの形にうまく溶け込ませると、手で描いたように見える。人をだませて面白い。
 " Cinzano "    Collage +Acrylic,  14cm × 15cm

これは 3D CG の「ピクチャーマッピング」と同じことを超アナログでやっているといえる。Shade や 3ds MAX を使えば、絵のような苦労がない。クリックひとつで瞬時に立体の上に模様が乗ってリアルになるのが快感だ。
" Tea cup"   3D CG with 3ds MAX

2016年1月12日火曜日

すばらしいアニメーションを見つけた

Beautiful animation  by Ryan Woodward

ネットで偶然見つけたアニメーションがあまりによかったので紹介します。
Coldplay の "Gravity" という曲のプロモーションビデオらしいが、描画力といい、動きの表現といい、クオリティがとても高い。調べたら、作者はライアン • ウッドワード( Ryan Woodward )というけっこう有名なアニメーターらしい。実際にダンサーに踊らせて、それを見ながら描いたそうで、絵がクロッキー風なことの理由がわかった。思わず繰り返し見てしまう。

2016年1月6日水曜日