2016年2月10日水曜日

「ラインズ 線の文化史」

Tim Ingold,  " Lines : A Brief History "

いろいろな角度から「線」について書いた珍しい本で、とても面白い。盛りだくさんの内容から、ひとつだけ紹介します。


このような勢いのある線で描かれた建築スケッチは「建築家の頭の中で成長を続ける発展途上のアイデアのある瞬間を示している。」それに対して「CAD図面は手の軌跡を残すことがないので、検討の途中の線図でも、そのつど完成されたものとしてプリントアウトされてしまう。」 建築やデザインに関わるひとにはピンとくる話だと思う。


作曲家が作曲途上で書いている楽譜の例もあげている。頭に浮かんでくる音を「スケッチ」しているのだが、「ラインは活動的で、生きているように強烈な運動の感覚を伝えている。しかしこれは五線譜に印刷しないと、このままでは演奏者は読めない。建築のスケッチを建設業者に渡すときにはCAD化するのと同じように。」建築と音楽の違いはあっても両者のスケッチの線の性質がとてもよく似ているのが面白い。





近代建築では「直線性」が合理性や確実性を与えるものとされてきたが、同時に矛盾も引き起こす(例えば建築の画一化)ようになり、ポストモダニズムのような考え方が生まれた。この建築図面(左)は線がずたずたに断片化され、場所の連続性がない。現代音楽で五線譜の代わりに使われる図形楽譜の例(右)でも線が断片化されていて演奏の順序も明示されていない。これらも建築と音楽の違いにもかかわらず、見た目がそっくりだ。その共通性は「ばらばらになった位置の断絶の中から、見るひとが自分たちの道を見つけ出し、自分の場所を作ることができることにある。」と言っている。なるほどと思う。


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