2024年10月30日水曜日

五重塔の免震構造

Traditional Japanese wooden architecture 

大阪万博の「大屋根リング」が完成したという。この巨大木造建造物は、日本の伝統的木造建築の工法を応用している。代表的なのが清水寺で、崖に張り出した「舞台」を格子状に組まれた木材どうしが支え合う、耐震性の高い構造になっている。

だいぶ昔だが、奈良の薬師寺西塔が再建された時の見学会に参加したことがある。現場を見ながら解説をしてくれたのが再建を手がけた有名な宮大工の西岡常一氏ご本人という贅沢な見学会だった。日本の伝統的建築工法の説明に感動したのを覚えている。


地震国の日本で、奈良時代の五重塔が千年以上もの間、倒れることなく現存し続けている理由を知ることができた。「心柱」と呼ばれる塔の中心を上から下まで貫いている太い柱が地面に固定されているわけではなく、上から吊り下げられている。だから地震の時には振り子のように揺れて、振動エネルギーを受け流してしまう。また5層の各階は積み上げているだけで、固く結合されていない。それで地震の時はクネクネと塔全体が揺れる。清水寺の構造も同じだ。

このような五重塔の構造は、現在の近代的な高層ビルに応用されている。地震の時にはあえて揺れることで振動を受け流す。揺れに抵抗する「耐震」ではなく「免震」の考え方だ。東日本大震災が発生した時、たまたま高層ビルの上階にいたが、揺れが強烈で、立っていることができないくらいだった。このビルは「免震」構造だったからで、心理的恐怖感は強いが、もちろん壊れたりすることはなかった。

2024年10月28日月曜日

戦争の終わり方

「All quiet on the western front」

「西部戦線異状なし」は第一次世界大戦の戦争を描いた名画だが、最近そのリメイク版が公開された。(NETFLIX  2022 年)ドイツとフランスの国境地帯の西部戦線での人間どうしの凄惨な殺し合いを生々しく描き、戦争の理不尽さと虚しさを描いている。

このリメイク版ではオリジナルになかった、戦争終結時における独仏休戦協定を締結する場面が出てくるのが興味深い。これは史実に基づいている。

戦争末期に、打ち負かされて退却を続けるドイツはフランスに停戦を求める。その交渉がパリ郊外の森の公園に展示されている古い客車の中で行われた。フランスが、こんな場所をあえて選んだのは、ドイツに屈辱感を与えるためだった。ドイツはとりあえずの「停戦」を懇願するが、フランスは強硬にはねつける。無条件に降伏する「休戦」協定に署名しろと高圧的に迫り、さもないと戦争をやめないと脅す。毎日戦死者が増え続けているドイツはそれに従わざるをえなかった。この休戦協定の結果、ドイツは国土を奪われ、天文学的な額の賠償金を払わされることになった歴史はよく知られている。


この時の休戦交渉が第二次世界大戦でも繰り返された。しかし今度はドイツとフランスの立場は逆転している。フランス軍は壊滅的な敗北を喫し、ヒトラーはフランスに侵攻する。フランスは無条件降伏して休戦交渉をするが、ヒトラーはその場所を意図的に上と同じ客車の中にする。第一次世界大戦時の屈辱の仕返しをするためだ。休戦協定の結果、フランス国土は占領され、政府は傀儡政権にさせられ、主権国家としてのフランスは消滅してしまう。


ウクライナとロシアの戦争が続いているが、ウクライナは休戦交渉を拒否している。上記の歴史からわかるように「休戦」とは国が占領された現状を固定化することだから、ウクライナは戦い続けるしかない。

2024年10月26日土曜日

アカデミー賞受賞の CG アニメーション「ORIGAMI」

Animation 「ORIGAMI」

CG アニメーション「ORIGAMI」が日本人初の学生アカデミー賞の銀賞を受賞した。作者の金森慧のデジタル・ハリウッド大学の卒業制作の作品だという。小学生の時に折紙に夢中になって以来、折紙の研究を重ねてきた成果を活かしている。一枚の紙が立体の鶴になり、それが空へ羽ばたいていく。そして無数の折紙が乱舞する・・・  作品を YouTube で見ることができる。  →  https://www.youtube.com/watch?v=X0hyTmlsBUI

ひとつひとつの折紙を CG で形づくり、それぞれの動きを設定していく。気が遠くなりそうな手間ひまがかかっている。そのメイキングの過程も見ることができる。  →https://x.com/kei_kanamori


2024年10月24日木曜日

昔の銀座の写真に見えるもの

 Old Ginza

ネットから拝借した昔の銀座の写真だが、ソニーのショールームは古いままで、まだソニービルに建て替えられていない。ソニービルが着工したのが 1964 年だから、だいたい 1960 年代初め頃の写真だと推定できる。


しかしよく見ると、この写真の撮影年は 1961 年だとはっきり特定できる。それはソニーショールームの壁にかかっている4本の映画の垂れ幕広告が見えるからで、4本ともすべて 1961 年に公開された。大の映画好きだった学生の頃、よく銀座や日比谷へ見にいったが、これらの映画も見た覚えがある。


「草原の輝き」エリア・カザン原作で、ナタリー・ウッド主演の青春映画の名作。
「雨のしのび逢い」ジャンヌ・モロー主演の恋愛映画で、これも大ヒットした。
「アメリカの裏窓」フランス人監督の、アメリカ社会の実像をえぐるドキュメンタリー。
「太陽の誘惑」若者たちの自堕落な生活を描いた。クラウディア・カルディナーレ主演。

60 年もたっているから内容はほとんど忘れたが、ナタリー・ウッド、ジャンヌ・モロー、クラウディア・カルディナーレ、とはなんとも懐かしい。


2024年10月22日火曜日

コラージュを使った静物画

 Collage

酒のボトルの魅力はラベルのグラフィックにあるが、それを手描きではとても再現できない。そこで現物のラベルを使ってコラージュすることをやってみた。


ボトルを水に浸けてラベルを剥がし、それを画面に貼る。現物のラベルは外形も文字も垂直・水平のデザインだから、パースがつかないように、視点がラベルの中央に来るように構図を考えておく。

剥がしたラベルは平面になっているので、再びボトルの円柱形にそって丸く見えるように陰影をつける。現物のラベルが絵に溶けこむように、絵全体を写実的に描く必要がある。なお背景のポスターも現物を貼っているが、こちらはもともと平面なので難しくない。

ラベルが現物だと気づかれず、細密描写したように見えれば成功だ。だからこれは一種のだまし絵だ。コラージュの技法はピカソが始めたが、その技法をまったく違う目的で使う邪道な(?)コラージュだ。

2024年10月20日日曜日

酒のボトルのある静物

Still life of bottle 

チンザノ

キャンティ

オランダのビール

シーバス・リーガル

2024年10月18日金曜日

静物の質感表現

Texture  

質感は「光」で表現できるし、「光」以外では表現できない。光が物に当たった時、光の反射(または吸収)の仕方は材質によって異なるからだ。そのことを2枚のパステル画で比べてみる。


梨は「梨地」という言葉があるくらいザラザラした表面の代表だが、左の絵はハイライトが強すぎて、プラスチックのようにツルツルした質感に見える。

葡萄は表面に粉をまぶしたようなサラサラした質感だが、左の絵のようにハイライトを強調しすぎると、形が球形であることはよく分かっても、葡萄ではなく、さくらんぼやチェリーのように見えてしまう。また葡萄の果肉は半透明なので光が透過して、右の絵のように、光が差し込んだ側の反対側がほんのりと明るくなる。

貝殻もザラザラした表面なので、左の絵ほどには明暗のコントラストは強くならない。

光が透過するガラスは、背景の色が透けて見える。同時にガラスは最も反射する材質なのでハイライトが強い。だから透過とハイライトだけで描く。左の絵のように、透過部分と反射部分の中間をグレーにすると、すりガラスのように見えてしまう。


2024年10月16日水曜日

秋の静物

 Still life of autumn

オレンジとチェリー

とうもろこしとワイン

とうもろこし、いちじく、オレンジ

洋梨と葡萄

2024年10月14日月曜日

横浜風景スケッチ

 Water-color drawing in Yokohama

大岡川、桜木町近くの船溜まり

山手から元町へ下る坂道

昇龍橋、横浜市で最も古い石造アーチ橋

森の中の大岡川の源流、こんなに細い小川

2024年10月12日土曜日

映画「シビルウォー」

 「Civil War」

公開中のこの映画はけっこう面白い。カリフォルニア州とテキサス州が同盟を組んで反乱を起こし、アメリカは内戦になる。反政府軍は政府軍と激戦を戦いながら、政府打倒を目指し、ワシントンDC へ向けて進攻していく・・・という話だというのでパロディ映画だろうと思って見に行ったが、リアリティがあってなかなかの映画だった。

シビルウォー(Civil War)とは「内戦」の意味で、日本でいう「南北戦争」もアメリカでは「シビルウォー」という。南北戦争はそんな大昔の話でなく、今でも南部に行くと当時の南軍の旗が掲げられていて、北部への敵対意識が残っているという。特にトランプ大統領がこれを煽り、アメリカ社会の分断を加速させた。だからアメリカ人どうしが殺し合いをするというこの映画は、彼らにとってはそんなに荒唐無稽の話ではないのだろう。

この映画にリアリティを感じるのは、今のアメリカ社会の激しい分断化が、やがて暴力的分断にエスカレートしてもおかしくないと思えるからだろう。現在の大統領選挙でもトランプの演説は暴力的だし、現に暗殺事件が起きたり、国会乱入事件が起きたり、銃乱射事件が起きたりと、すでに内戦状態といってもおかしくない。

ホワイトハウスに突入した反政府軍は、手を挙げているスタッフを容赦無く撃ち殺す。


2024年10月10日木曜日

映画「ミュンヘン」

 「Munich」

いまイスラエルとパレスチナの戦争が終わらない。人質事件をめぐって、やられたらやり返す報復の連鎖が限りなく続いている。映画「ミュンヘン」は、そんな人質事件への報復の連鎖を史実に基づいて描いている。2005 年のスピルバーグ監督の傑作だ。

1972 年のミュンヘンオリンピックでパレスチナ人による有名なテロ事件が起きた。イスラエル選手団の宿舎へ侵入してアスリートを人質にとる。抵抗するものは自動小銃を乱射して殺した。犯人たちは人質を盾にして海外に逃亡する。しかしイスラエル人の人質たちは銃撃戦の犠牲になって全員死亡してしまう。

イスラエル政府は秘密部隊を結成して、海外に逃げた犯人たちを追っていき、一人一人暗殺していく。その緻密かつ冷酷な「報復」の仕方を映画は描いている。

このパレスチナ人による人質拉致の目的は、その前に起きたイスラエルによる人質事件の人質を釈放を要求することだった。まさに報復の連鎖だった。なお、この時にテロリストが釈放を要求した人質の中に、当時欧州で爆弾テロをやっていた日本赤軍派の日本人が含まれていたことはいまだに記憶に残っている。


2024年10月8日火曜日

「8O 歳の壁」

 

高齢化社会で、お年寄り向けの健康本がたくさん出回っているが、その中で「80 歳の壁」という本は画期的だ。和田秀樹という医師が書いた本で、大ベストセラーになった。

食事の話しで、脂っこい物や塩分は控えろとか、栄養バランスのいい食事をしろなどいう世の中の常識にとらわれるな、といっている。高齢者は、そんなことに気を使わずに、食べたいものを食べて、残りの人生の毎日を楽しく暮らすほうがよほど健康にいいと言っている。

健康診断をすると、血圧が高いので酒は控えろと必ず言われるが、そういう医者の決まり文句は聞き流すことにしている。この本はそんな自分の味方になってくれる。高齢になれば、コレステロールや動脈硬化は誰でも当たり前のことだから、酒が好きな人は気にせずに飲めという。我慢すればストレスがたまってかえって体に良くないというのだ。

我慢したり節制したりして長生きをするのが幸せなのか、寿命のことは気にせずに最後まで好きなことをやって死ぬのが幸せなのか、という高齢者の「生き方」について考えさせてくれる。


2024年10月6日日曜日

映画「マネー・モンスター」

 「Money Monster」

「マネー・モンスター」という面白い映画がある。「マネー・モンスター」という、株価の上がり下がりを予測するTV番組があり、「今日のおすすめ株は・・」などとキャスターが面白おかしくトークする。番組を見て視聴者が実際に株を売買するから株価に大きな影響を与える。いくらアメリカでもこんな TV番組が許されるはずがないが、映画の設定としては面白い。

その番組の生放送の最中にテロリストが乱入する。「お前のおかげで大損した。金を返せ!」とピストルをキャスターに向けて脅す。視聴者は、これも番組を面白くするための演出だろうと皆ゲラゲラ笑っている。ところが本当だとわかり警官隊が出動する大騒ぎになる・・・

このテロリストが、気の弱そうな普通の若者で、ビクビクしながらやっている。そして、この犯行現場をそのまま TV 中継し続けろと要求する。スタッフはその通り放送を続ける。若者の目的は、番組がいかにひどいことをしていて、自分はその犠牲者だと視聴者にアピールすることなのだ。 

このことから、映画(2016 年)の時代的背景が見えてくる。

この映画の数年前(2011年)に「We are the 99%」という若者たちの大抗議デモがあった。人口の1%の富裕層が、全米の資産の35%を独占していることへの不満が爆発した。「Occupy wall street !」と叫び、金持ちのシンボルであるウォール街のニューヨーク証券取引所を占拠した。

このデモの背景が、あの「リーマン・ショック」(2008 年)だった。全米が金融危機に落ち入り、大不況になる。会社の倒産や失業者が激増し、若者の4割が失業した。そして株券は紙屑になてしまった。映画「マネー・モンスター」の若者は、その時の抗議する若者たちに重ねられている。


2024年10月4日金曜日

「現代日本の美術 2016 」

Apocalypse painting 

書庫を整理していたら年鑑「現代日本の美術」(2016 年「美術の窓」誌発行)が出てきた。帯に「人気作家 526 名の新作を一挙掲載!」とある。その中に自分の作品が載っている。ずいぶん自分も偉くなったもんだ・・とは思わなかったが(笑)。この頃はベクシンスキーやキーファーの ”終末絵画” に凝っていて、自分でもやってみたいと思っていた。ちょうど福島の原発事故があった直後だったので、それをテーマにして、「廃炉幻想」という題名で描いた。公募展に出品したのだが、それが目に止まって掲載されたようだ。


2024年10月2日水曜日

「美術を楽しむ日」

 A day of enjoy art

日本記念日協会という団体がある。公的な団体ではない。特定の組織や業界などが宣伝目的で「〜の日」を申請して登録料を払えばすぐに認定される。だからバカバカしい記念日だらけで、例えば今日10 / 2 だけでも「芋煮会の日」「とんこつラーメンの日」「豆腐の日」など、10 件くらいが登録されている。

その 10 / 2 の中に、「美術を楽しむ日」という妙な日が登録されている。これも「それがどうした?」という感じの記念日だ。申請したのは、女子美術大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、の「4美大」だそうだが、その点に違和感を感じる。

毎年、国立新美術館で卒業制作展「五美大展」が開かれている。「五美大」とは、上の4つのほかに日大芸術学部が入っている。なぜ「4美大」だけで申請したのだろうか?

さらには、東京芸術大学、金沢美術工芸大学、京都市立美術大学、愛知県立芸術大学、大阪芸術大学、など国公立や地方の美大がある。これらが連携すれば、もっと身のある「記念日」を作れたのではないか。4美大以外にもこれらの大学の出身者や教員の知人がいる身としてそう思う。