Counterfeit & AI
史上最大の贋作事件として有名なのは、フェルメールの贋作を描いたオランダの画家メーヘレンの事件だ。20 世紀初頭、彼と同世代のシャガールやキリコなどの現代美術が主流になるなか、アカデミックな写実絵画にこだわるメーヘレンは時代遅れになってしまう。しかし絵画の技量は確かだったことを活かして贋作に手を染める。フェルメールの新発見の作品だとして発表した「エマオの食事」は、フェルメールの筆致と完璧に一致しているので美術館は信用して購入する。美術評論家もフェルメールの最高傑作だとして賞賛する。
するとメーヘレンは、これは自分が描いた贋作だと自ら名乗り出る。しかし信用されなかったため、公開の場でフェルメール風の絵を描いてみせて、自分が ”犯人” であることを証明する。左がフェルメールの「手紙を読む女」で、右はそれをもとにしてメーヘレンが描いたフェルメール風「楽譜を読む女」だが、そのうまさに驚いて彼の言うことは本当だと信じられる。
彼は、権威あるとされる美術評論家たちがいかに見る目がないかを証明してみせたのだ。そして人々は、絵そのものではなく、描いたのが有名な画家かどうかで絵の価値を判断していることへの当てつけをしたのだった。彼の贋作は、金儲けのためではなく、自分の絵を評価してくれない世の中への復讐が目的だった。
なおメーヘレンの贋作をナチスの高官ゲーリングが高額で買って自宅に飾っていたことが後にわかり、メーヘレンは戦後、”ナチスを騙した男”として一躍英雄扱いされる。そして美術館は今でも「メーヘレン作」として「エマオの食事」を展示している。
いきなり現代へ話が飛ぶが、今はやりの画像生成 AI は「フェイク」とも呼ばれるとおり、一種の贋作制作ソフトウェアだ。メーヘレンがフェルメールを徹底的に研究したように、 AI も「ディープラーニング」で学習して腕を上げていく。
早い時期から AI による画像生成を研究していたオランダのデルフト工科大学がレンブラントの”贋作”を作ることに成功した。約 350 点のレンブラントの作品をディープラーニングで学習させて、レンブラント作品に共通する特徴を特定する。それをもとに画像生成したのがこのレンブラントの「新作」だ。詳しくはこちら→ https://wired.jp/2016/04/14/new-rembrandt-painting/
生成 AI を使ったことはないが、もし使うとすれば、「今まで誰も描いたことのない独創的な絵で、300 年後もフェルメールやレンブラントのように、歴史的名画として通用するような作品を描け。」というお題を出してみたい。どんな答えが出るか楽しみだ。(笑)
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