2024年5月26日日曜日

映画「プロスペローの本」の夢幻の世界

 「 Prospero's Books」


グリーナウェイ監督の映画「「プロスペローの本」
は、シェークスピアの「テンペスト」を原作にしている。ミラノ公国の大公は本好きで、政治をそっちのけにしているうちに、ナポリ王国と結託した弟に権力を乗っ取られてしまう。それを奪い返そうとする復讐劇だ。

シェークスピアの作品はいつも「夢幻」や「魔術」に満ちあふれているが、「テンペスト」も妖精や怪物がたくさん登場する。グリーナウェイ監督は、「映像コラージュ」とでもいう感じで、たくさんの視覚イメージを2重、3重に重ねてシェークスピアの魔術的世界を視覚化している。

題名どうりに、この映画のキーが「本」で、それらに関連した絵が挿入される。それらは美術に精通したグリーナウェイ監督らしい美術史上有名な絵ばかりだ。

主人公の船が嵐(テンペスト)のせいで難破して漂着した孤島は魔術師のプロスペローが住んでいた・・というシーンで出てくるのが、レオナルド・ダ・ヴィンチの「大洪水」。水流を研究していたダ・ヴィンチは、渦巻く川の流れのスケッチをたくさん残している。洪水の恐ろしさを表現している。


古代ローマの遺跡を研究していた建築家のピラネージは廃墟になった建物から元の姿を想像して絵にしたが、この「ローマの景観」は建物が並んだローマの壮麗な大通りを描いている。これは主人公が権力を握っていたときのミラノの威容を思い出すシーンで、「夢幻」のシンボルとして使われている。


この他にも「動物学」「解剖学」「建築学」などの絵が登場する。いずれも主人公の知性を象徴するものだが、映画は最後に、主人公が裏切り者たちを殺すのではなく、「知性の魔術」によって彼らの悪の狂気が解かれて、復讐が終わる。

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