2022年12月3日土曜日

映画「イワン雷帝」

 「Ivan the Terrible」

「戦艦ポチョムキン」のエイゼンシュタイン監督による古典的名作で、中世ロシアのイワン雷帝を描いた歴史絵巻的な大作。2部構成で、第1部では、帝位についたイワンが、中央アジアの周辺国(今のカザフスタンなど)を制圧し、ロシアを強力な統一国家にする。第2部では、国内の反皇帝勢力との激しい権力闘争が描かれ、イワンは反対派の大粛清を決行する。スターリン独裁時代に制作されたこの映画、第1部の完成時にスターリンはエイゼンシュタインに勲章を与えたが、第2部の完成時には、スターリンは一転して激怒し、上映禁止にしてしまう。映画は、イワン雷帝をスターリンに重ねて、その強圧的な独裁政治を批判しているのだ。


上の場面は、イギリスと敵対していたイワンが、イギリスに派遣する大使と面会しているシーン。イギリスに対して、バルト海制覇という自分の野望を伝え、相手を威圧するように命令している。この場面で、壁に巨大なイワンの顔の影が投影されていて、机には地球儀が置かれている。世界を手中に収めたいというイワンの欲望がシンボリックに表現されている。


粛清によって政敵を倒した後のラストだけカラーになるが、しかしカラーといっても赤一色だけ。その場面でイワンは言う。「皇帝に逆らう逆臣には、残酷と怒りで闘う。」「ロシアの主権を犯そうとする外国勢力には、断固として反撃の正義の剣を振るうであろう。」 だから、エイゼンシュタインのこの赤は、共産主義のシンボルカラーの赤と、粛清で流された血の赤、を意味していると想像できる。

もしエイゼンシュタインが今も生きていたら、「プーチン雷帝」を撮るかもしれないと、つい思ってしまう映画だ。

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