主人公の教授がゴッホのこの絵を題材に講義をするシーンがある。ゴッホがこの風景に何を見たのか、それを表現するための構図や色彩など、前回書いた「物を認識すること」の例として解説している。
「社会主義リアリズム」が唯一の政府公認芸術だった当時、ゴッホの絵も敵視された。「全体主義芸術」という本によれば、ソヴィエトの国家芸術院のトップはゴッホの絵をこう酷評したそうだ。「対象の意図的なデフォルメ、わざと崩したデッサン、実際からかけ離れた乱暴な色彩、うじ虫のような筆使い・・・」
映画で、文化大臣がこういう絵画は「労働者の敵だ」と演説する。敵視された絵画は、ゴッホ、ゴーギャン、マチス、ピカソ、ブラック、シャガール、カンディンスキー・・・など無数で、20 世紀の絵画のほとんどすべてが「労働者の敵」にされて、美術館からも消えてしまう。
逆に国が推進した「社会主義リアリズム」は、下のような絵だった(「全体主義芸術」より)。労働者の幸せそうな生活や力強い国家建設を描いているが、政治プロパガンダの色が濃い。映画の主人公はこれらを「薄っぺらいリアリズム」と批判し、描くことを拒否する。そのため教授の地位を追われ、公認芸術家の認定を取り消されて画材も売ってもらえなくなる。それでも信念を曲げず、最後は行き倒れのように死ぬ。
左:「昼食は母たちのもとで」 中:「新しい制服」 右:「レーニンの政権樹立宣言」
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