Emmanuel Todd & Gauguin
前回、エマニュエル・ドットの「西洋の敗北と日本の選択」について書いたが、同氏の3年前のベストセラー「我々はどこから来て、今どこにいるのか」についても、2023 年に投稿した。それを再編集してもう一度書く。
ドットに一貫している「西洋の敗北」思想は、人類の文明史的な観点からの研究にもとづいていて、それが「我々はどこから来て、今どこにいるのか」の題名になっている。そしてトッドの研究アプローチは斬新で、各国の「家族構造」がその国の「政治体制」を決定づけてきたとしている。そして、各国の「家族構造」を次の3つの類型に分類している。以下にごく簡単に概要を紹介する。
第1は「核家族」で、アメリカとイギリスがその代表。
子供達は成人すると親から自立し、やがて結婚して自分の家族を築く。そのため自力で社会の上方を目指して頑張る。それが欧米の個人主義の基盤になっているが、同時に自分中心の社会になり、さらにはアメリカのような分断社会が生まれる。
第2は「共同体家族」で、ロシアと中国がその代表。
家族全員が父親の権威に服従する家父長制家族で、家族が大きな共同体を作っている。西欧の個人主義と違って、家族あっての個人だという家族観だ。そして国レベルでも、権威主義的リーダーのもとに国民が従い、団結力が強い。
第3は「直系家族」で、ドイツと日本がその代表。
父親が死ぬと長男だけが家を継ぎ、長男は家業の維持のために懸命に働く。だから職人も農民も親の技術をしっかり継承して次代へ繋いでいく。そのことがドイツと日本のものづくりの強さの基盤になってきた。また親は、家を継がない次男三男を自立させるために、高等教育を受けさせる。そのため日本人の大学進学率は世界一高い。それがドイツと日本の科学技術力の高さにつながっている。しかし女性のステイタスは低く、女性の社会進出率が低いが、その代わり女性は子供の養育に集中するので、子供の教育レベルが高い。
こうしてみると、トッドのいう「家族構造」がその国の「政治制度」を決定づけるという意味がよく理解できる。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ところで、上図のように、この本の上下2巻の表紙の絵を繋げると、一枚の横長の絵になる。これはゴーギャンの「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という長い題名の絵だ。
ゴーギャンは西洋の近代文明に失望して、人間が自然と共生して生きるタヒチへ渡った。そこで描いたこの絵はタヒチの人間をモチーフにして、人間の一生をシンボライズしている。右側の女性と子供は生命の始まりで、果物を収穫している中央の若者は成人期、左の老婆は終末期を表している。そして奥にいる青い彫像は、人間の行く末を決めている超越的な神を象徴している。
そしてこの絵は、人間の一生になぞらえて、栄えている西洋の文明社会がやがて衰えてゆくことを暗示しているという。そのゴーギャンと同じく、「西洋の没落」という世界観を持つトッドは、本の題名を、ゴーギャンの絵の題名を借りて「我々はどこから来て、今どこにいるのか」にした。
0 件のコメント:
コメントを投稿