Stereoscopic Vision
ひと昔まえに「立体映画」がはやった。立体感を極端に増強した映像で、手前に物が飛んでくると思わず顔をのけぞらせてしまうほどだったが、見せ物的な面白さだけなので、すぐにすたれてしまった。映画館の入り口で渡される立体メガネを掛けて見る。左目には赤色、右目には青色、のフィルターのメガネだ。メガネをはずして見ると、赤色の映像と青色の映像の2つが少しずれて見えている。メガネをかけると、左右の両眼それぞれがその片方だけが見えるようになる。人間は「両眼視」による両眼の見え方のズレ(視差)によって立体感を感じている。認知心理学者のギブソンはこの立体視のメカニズムについて「視覚ワールドの知覚」の中で詳しい説明をしている。右図のようにピラミッド型の物体を見ている場合、右目と左目では、少し違う角度から見ている。その二つの映像が脳の中で融合されて一つの立体像として認識している。立体映画はそのしくみを利用している。ギブソンは、そのほかにも「両眼視」についてたくさんのことを書いている。例えば下図は、右目と左目の視野と、その重さなりを示している。両方が重なっている白い領域が立体視を感じる範囲になる。しかしその範囲はかなり狭い。グレーの部分では単眼視になり、少しぼやけて見えている。
そして、ソファに横たわっている自分の姿を、右目を閉じて、左目だけで見ている状況を描いた絵を紹介している。足のつま先が画面中央まで伸びている。そしてこの絵の右端に白いものが見えているが、これは自分の鼻だ。鼻が左目の視野のはじっこに見えている。自分でも片目で見てみると確かに自分の鼻が見える。そんなことに気が付いていなかったから面白い。この鼻は上図のグレーの範囲内で見えている。普通は両眼で白い範囲を見ているから、そこから外れている鼻は見えていない。
このように人間は、両眼視によって立体感や遠近感を感じているが、ギブソンは、それはたくさんある方法の一つにすぎず、ほかにも人間はたくさんの方法を使って立体感や遠近感を感じとっていることを説いている。だから「遠近法」には一般に知られている以上に、13 種類もあることを主張していることは、先日(9 / 30)書いた。→https://saitotomonaga.blogspot.com/2025/09/blog-post_9.html
ギブソンは、ほかにも面白いことをたくさん書いている。例えば、馬の目は顔の両側面についていているため、両眼視はできない。馬のような草食動物は、肉食動物から身を守るために、全方向を見渡せるように、視野角が全周 360° になるように進化してきた。それに対して人間は、視野角の広さを犠牲にして、前方だけを集中して見る能力を高めるように進化してきた。人間が両眼視によって立体視をできるのはそのおかげだ。
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