「Draughtsman's Contract」
ミニシアターで上映中のグリーナウェイ監督の特集(「ピーター・グリーナウェイ レトロスペクティブ」)でやっと「英国式庭園殺人事件」を見ることができた。キャッチコピーの「美に取り憑かれた鬼才による毒に満ちた世界」の通り、グリーナウェイ流が躍動している。美術大学を出て画家を目指していたグリーナウェイは、映画の世界に入った後も絵を描いて個展も開いているが、映画でも必ず絵画が何らかの形で関わっている。この「英国式庭園殺人事件」では、もろに主人公が画家という設定で、絵を描くシーンが繰り返し出てくる。
!7 世紀末、主人公の画家は、広大な敷地の中の豪邸に住む夫人に屋敷の絵を描くように依頼される。高額の報酬で、主人が不在の2週間の間に、12 枚の絵を完成させるという契約を結ぶ。ところが夫人の目的は、欲望が渦巻くこの一族の陰謀のために、「証拠写真」ならぬ「証拠絵画」を描かせることだった・・・
画家は、見た風景を写真のように忠実に描く。そのために画家が使っている道具がとても興味深い。フレームにはめたガラスの上にグリッドが引かれている。それを通して風景を見るのだが、紙には同じ比率のグリッドが引かれているので極めて正確に描ける。
現在でも多くの画家がやっているが、下絵スケッチを本番で拡大する時にやるグリッド方式と同じだ。しかしこの道具では、下絵ではなく風景そのものを拡大している。そしてグリッドと目の間隔を一定にするための小さな ”接眼フレーム” までついている。この道具を3脚に乗せて、それを覗きながら描く。
考えてみればこの !7 世紀の時代は、パースペクティブの技術が発達した時代で、画家たちは、対象をいかに「正確に」描くかに熱中していた。フェルメールが「カメラ・オブスクラ」を使っていたことは有名だが、この道具も同じだ。完成した絵は写真のように細部まで正確に風景を写しとっている。
その正確さゆえに、絵は殺人事件の犯人を特定するための「証拠絵画」として使われる。しかし実は、そもそも風景そのものに細工がされていたのだが、それに気づかずに忠実に描いた画家ははめられていたのだ・・・(上の絵の右端にハシゴが描かれているのもそのひとつ)